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魔法使いにできないコト  作者: 水無雲夜斗
第四章 どうしようもなく世話焼きで、
68/75

どうしようもなく世話焼きで、 4-28

 土日には特に何もなく(一応選挙活動は行っていて、俺も部室棟を訪れた時に何度か相浦先輩達の姿を見かけた)、ついにやってきた月曜日。

 本日の放課後、ついに部会長選挙が行われる。

 一般生徒にはあまり関係のない話だが、我らが私立鳳城学園は部活動に力を入れているため、部活に所属する生徒は多い。そのためか、今朝は学校全体がやけに騒がしかった。

 俺はその最も中心に近い場所にいる人物の一人であるわけだが、そのことを知る生徒は数少ないし、そもそも俺に興味ある生徒というのが少ない。というよりも俺のことを知っている生徒が少ない。これがぼっちか……。

 その程度のことは孤高の狼(笑)である俺にとって何の苦にもならないわけだが、今日は何が起きるかわからない日でもあるので、なるべく集中していたい。そういう意味で、誰からも声をかけられない状況というものは有難かったのだが。


 「あ」

 「ん?」


 下駄箱で靴を履き替えていると、ばったり雨桐と遭遇した。彼女は今来たところらしい。


 「よう」

 「うん、おはよう」


 なんとなくお互いに気まずい。

 雨桐とは木曜日、補助委員室で会って以来まともに顔を合わせていない(金曜日に選挙活動をしている場にはいたが、俺は軽音部が九と合流する前にそそくさと撤退していた)。

 気まずい理由というのも、俺は雨桐の涙をまた見てしまったし、雨桐も俺にまた涙を見せてしまった。

 俺は彼女を二度も泣かせてしまったという罪悪感から。そして雨桐はおそらく二度も同じ異性に自分の弱いところを見せてしまったという羞恥からだろう。

 だが、ここで会話を途切れさせたままというのもどこか不自然だ。ここは男である俺から切り出すべきだろう。


 「なぁ」

 「あの」


 全く同じタイミングで口を開いてしまい、声が重なる。

 なにこれ、こんなラブコメみたいな展開が現実で起き得るの?


 「あ、えっと……お先にどうぞ」

 「おう……」


 雨桐に譲られ、俺が先に発言する権利を得る。

 なんだこの状況と心の中で何度もツッコミを入れつつ、俺は一つ軽めの深呼吸をしてから口を開くことにした。


 「選挙活動の方はどうだ?」

 「ん、まぁぼちぼちってところかな」


 いや具体的なことを聞きたいのだが。


 「票はどれくらい集まりそうだ?」

 「とりあえず生徒会が金曜日に行ってくれた事前アンケートの結果では、相浦先輩の支持率が四割ちょいってところかな」

 「あんまり変わってねぇな」

 「うん、これでも伸びた方なんだけどね」


 アンケートの結果については俺も知っている。だがあれは部活動に所属する全生徒が参加するものではなく、確実な参考には成り得ない。

 だが、四割程度というのは、俺の見込みと大体一致している。できればもう少し上であってほしかったのだが、これだけあれば十分といえば十分だ。


 「ま、なんとかなるだろ」


 正確にはなんとかする、だが。


 「んで、そっちの用件は?」

 「あ、うん、そうだね、えっと……とりあえず歩きながらでもいいかな?」

 「おう、ここで突っ立ったまま話すのも何だしな」

 「じゃあちょっと待ってね」


 そういえば雨桐は俺と話し始めてからずっとその場を動いていなかったわけで、既に上履きに履き替えている俺と違ってまだ外靴のままである。

 俺を待たせているということもあってか、雨桐は少しヘイストがかった動きで自分の下駄箱の前まで行くと(俺の下駄箱の斜め後ろだった)、いそいそと靴を脱いで中に入れる。

 それにしても女子が靴を履き替えるシーンというのはよく萌え絵として使われているが、現実で見るとそうでもない。イラストでは足を後ろに折り曲げて靴を脱ぐというのが定番だったりするが、そんなことをすれば人に当たる可能性もあるので、必然的に普通にしゃがんで脱ぐのが現実である。ロマンの欠片もない。

 何故こうまでして二次元と三次元の間には差があるのか。俺は二次元信者というわけではないが、これには多少なりとも理不尽を感じている。現実って世知辛いね。

 いやしかし、こうして女子が靴を履き替えるところをまじまじと見るというのは初めてのことである。流石女子との交流を深く持ったことがない歴イコール人生の俺。雨桐はそれなりに美少女に部類される方だと思うし、その美少女をずっと見ているというのはかなり新鮮な気分である。いや別に性的な意味じゃなく。

 なんだかいけない、もといあんまり見ているのも悪い気分になり、俺は目を逸らすことにする。

 そうこうしている内に雨桐が靴を履き終えたらしく、小走りで俺の元へとやってきた。


 「お待たせ、いこっか」

 「おう」


 雨桐と肩を並べ、歩き出す。

 なんだか変な気分ではあったが、それを恥ずかしいとか嫌だとか思うことはなかった。

 慣れというものだろうか。雨桐にはカリスマはあまりないように思えるが、人を近くに引き寄せるものがあるような気がする。

 こうして雨桐と肩を並べて歩くことは、先週にも何度かあった。指で数えられるほどだが、彼女のそういった人徳が、俺のマイナスの感情を緩和しているのかもしれない。

 周囲が俺達にどんな目を向けるのかは若干気がかりではあったが、俺も雨桐も学内での知名度はそれほど高くない。むしろ俺の知名度はないまである。あまり気にしなくても問題ないだろう。


 「それで、私の話なんだけど」

 「ん、なんだ?」

 「実は何を言おうとしたのか忘れちゃったんだよね!」


 なんじゃそりゃ。心の中で吉〇新喜劇風にずっこける。


 「とりあえず、私は折無くんに感謝してるの」

 「お、おう、なんだよいきなり」

 「だって、なんだかんだ言って私のこと助けてくれるから」


 何そのエロゲとかでよく使われそうなセリフ。もしかして俺口説かれてる?

 だがその程度のことで勘違いする俺ではなく、そもそも雨桐の性格からしてこのセリフに裏などないだろう。


 「折無くんはもしこの先、まったく別の件で私が助けてって言ったら助けてくれる?」

 「それは……」


 正直、わからない。

 今回は俺が動く理由があった。というより、俺が動かなければならない状況に陥った。

 これは全て俺のためだ。俺は単に自分の身近で起きる不幸を回避したくて、自分が何もしなければ起きる悲劇を見たくなくて雨桐を助けようとしている。

 もし次に雨桐が俺に助けを求めてきたとして、それが俺がいなくてもなんとかなる、あるいはそこまでの悲劇にならないと予想できるものならば、俺は果たして雨桐に手を差し伸べるだろうか。


 「……それが依頼ならな」


 考えて、結局俺はそう答えた。

 俺は頼まれたことは断れない。それが自分にとって損にしかならず、相手にとって得にしかならないものであったとしてもだ。

 それに、先週の木曜日に俺は雨桐が力をつけるまではある程度は支えてやると誓ってしまっている。

 だから依頼という形で助けを求められたものならば、俺はきっと断れないだろう。


 「そっか」


 雨桐を見ると、彼女は笑っていた。


 「それじゃあ、私の教室ここだから」


 気づくと、既に一年一組の教室は目の前にあった。

 三組まである一年の教室で下駄箱に最も近いのは一組だ。そこから二組、三組と続く。なので、俺はもう少し歩かなければならないわけだ。どのクラスに振り分けられるかは運だから仕方ないとはいえ、せめて下駄箱から一番遠いクラスには何らかの特典があってもいいと思うんですがね。


 「放課後、よろしくね」


 そう言い残して教室に入る雨桐。

 別れの挨拶をしそびれた俺だが、そのまま一組の中から聞こえてくる黄色い声を背中に受けつつ歩き出す。まったく、今朝は本当に騒がしいな。

 今回、俺は大博打を打った。

 雨桐はこの先何があっても諦めないと決意してくれたし、そのための努力は欠かさないことだろう。

 だが、俺の中の疑念はずっと晴れなかった。

 果たしてこの選択は正しかったのか。先週の木曜からずっと不安で仕方なかった。

 そしてその不安はこれ以降もずっと付き纏うものだろう。

 廊下の窓から外を見てみると、空はいい具合に雲のある晴れ。

 今日は絶好の選挙日和といっても過言ではないだろう。

 投票会場は体育館だからあんまり天気関係ないけどな。

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