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魔法使いにできないコト  作者: 水無雲夜斗
第四章 どうしようもなく世話焼きで、
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どうしようもなく世話焼きで、 4-27

 金曜日になって、選挙活動はいよいよ大詰めだ。

 といってもやることはいつもとほとんど変わらない。

 九が企画し、相浦先輩達が実行する選挙活動は、地道でかつ確実に票数を集めていた。

 だが、運動部が保持している総票数を崩すのはそう容易ではなく、最初の方は凄まじい勢いで伸びていた支持率も、今となっては大木が長い年月をかけて成長するが如く、非常にゆっくりとしたスピードでしか伸びていない。

 やはりというべきか、運動部の団結力は固い。

 おそらく彼らは同盟でも結んでいるのだろう。文化部が勝利してしまえば、今まで通りに好き勝手をすることができなくなってしまう。運動部天下の時代が終わりを告げてしまうということを、彼らも理解しているのだろう。

 だからこそ、共通の敵を倒すための一時的な協力。そのための同盟。

 同盟を組む際に出された条約の内容は間違いなく不可侵。

 今年度に限り運動部は平等とし、部会長となった者が治める部に与えられる特権を一時撤廃する。

 そしてその協定の上に運動部が次期部会長として選出したのが、サッカー部部長の「菅原竜太郎すがわらりゅうたろう」だ。

 選定の方法は至って単純で、まぁ予想となるのだが、現段階で運動部の中でサッカー部が一番部員数が多いからだろう。

 運動部連中の戦略は単純そのものだが、その分だけあって強い。なにしろ、文化部とは違って人数や実績といった元々の基盤がしっかりしているし、チームワークを重要とするスポーツをやっている連中なだけあって、団結力はそれなりに強い。そういう連中が数で戦争を仕掛けてくると、頭がなくてもそれなりに厄介になる。

 という点を加味して、九がこの一週間で集めた有効票数全体の四割という相浦先輩の支持率は大したものだといえる。通常なら二割か、よくて三割止まりといったところだ。

 それでも以前言った通り、正攻法ではその辺りが限界。

 あるいはもう少し時間があれば五分五分にまで持っていけたかもしれないが、それは考えたところで仕方のないことだ。

 運動部の卑怯な団結を崩すためには、時間をかけて用意したとびっきりの正攻法でぶつかるか、あるいはまったく予期しない方法で不意打ちをしかけるしかない。

 前者は時間があれば可能だったことで、今は不可能。

 後者はできないこともないかもしれないが、無理に団結を崩してしまうのは危険だ。

 たとえば一例として、俺が運動部全体にサッカー部に関する悪い噂(「部会長になった菅原は部会長としての特権を使い独裁を行う気だ」など)を流し、運動部全体がサッカー部に対して反感を持つようにしたとする。

 そうすればサッカー部の得票数はガタ落ちで、運動部からすれば一度予定していた戦略がその時点で瓦解し、態勢を取り直すのに時間がかかる。そうなれば票数はバラけることになり、そこを突いてこちらが勝利を掴むことが容易になることだろう。

 問題はその後だ。

 悪い噂を流されたサッカー部は、その噂の真偽がどうであれ、他の部から疑いの眼差しを向けられることになる。そうなると、彼らは肩身の狭い思いをしながら部活動をしなければいけなくなるだろう。

 もちろんこれはあくまで単純な一例だが、不意打ちによって運動部の団結を崩すには、どうあれ彼らの内の誰かが不利になる状況を作り出さなければならない。その後そいつらがどうなると知ったことではない、という勢いでだ。

 それは雨桐とて望むことではないはずだ。

 ではどうするのかというと、既に作戦は決まっているわけだが。

 時刻は放課後。いつも通り部室棟一階ロビーで選挙活動をしている軽音部員達の裏手、一歩引いたところに九がいた。

 これが最後のアピールタイムというだけあって、今日は軽音部ならではのバンド演奏などのパフォーマンスを行わず、相浦先輩が普通に演説を行っている。元々部会長になるつもりはなかった彼女だが、演説する姿はなかなか様になっていた。あるいは本気を出せば部会長としての才能を開花させるんじゃないだろうか。

 などと相浦先輩に可能性を感じつつ、俺は一般性との横をそそくさと通り抜け、演説会場の裏へ。

 特に仕切りなどがあるわけでもなく、演説を行っている現在でもその裏方は一般生徒の通行が可能になっているため、侵入自体は簡単だ。

 しかし、暗黙の了解というかそうしてはならない空気というか、そういうものがあってそこを通る生徒はいない。なので、俺がそこに入ると裏方にいるヤツからは必然的に注目を集めてしまうわけであって、九はすぐに俺の姿を捉え、むっとした表情になった。


 「今更何の用ですか、折無君」


 そりゃまぁそういう反応になるよなぁ。

 九とは一昨日に口論をしてから、それっきりだった。

 自分でも最低なことを言った覚えがあるし、九がこういう態度を取ることは予想済みだったとはいえ、女の子に怒りの感情を向けられるというのは、どうにも居心地の悪いものがある。雨桐を危険な目に遭わせたことを咎められた件といい、九と俺の関係は悪化していく一方である。

 それを誤魔化すように、俺は特に痒くもない後頭部をわしわしと掻いた。


 「あー、その、なんだ、順調か?」

 「おかげさまで選挙活動自体は順調ですよ。……選挙に勝てるかどうかはわかりませんが」


 最後の一言はかなり弱弱しい声だった。

 まだ勝つことを諦めているわけではなさそうだが、九もこのまま勝つことが非常に難しいことは十分わかっているらしい。


 「でも、絶対に相浦先輩を勝たせてみせます。それが私の受け持った使命ですから」


 雨桐の依頼を受けた当初と比べればその意気込みはやや衰えていたが、それでも十分なほどの気合いだ。

 そのことにほっとしつつ、俺は苦笑した。


 「そうだな、お前はそのままでいい」

 「……? どういうことですか?」

 「そのままの勢いで選挙活動をしてくれ。なるべく多く相浦先輩に票を集めてくれれば、それだけ勝ちが現実的になる」


 ここまで言って九はまだ理解できていないらしく、首を傾げている。

 まぁ確かに遠回りすぎるか。これ以上キザに振る舞うのも何だし、素直に白状することにする。


 「昨日、雨桐から正式に依頼を受けた」

 「え……」

 「補助委員にじゃなくて、俺個人にだ。で、俺はその依頼を引き受けた」


 正確には俺の「お願いを絶対に断れない」という性質によって引き受けざるを得なかった、が正しいが。


 「俺は雨桐を勝たせる。だから九、悪いがお前にも協力してもらうぞ」

 「あ……」


 ぱぁっと九の表情が明るくなる。

 子供のような無邪気な表情を向けられて、心が荒み切った俺はその眩しさに思わず目を逸らさざるを得なかった。うおっ、まぶしっ!


 「で、でもこの前は協力しないって」

 「あれは俺が依頼を引き受けたつもりがなかったからだ。それに、いろいろ都合も悪かったしな」


 とはいえ、最初から俺は雨桐の依頼を引き受けていたと勘違いしてしまっていたのも無理はない。

 そもそも相浦先輩を部会長に仕立て上げ、雨桐を裏の部会長とする案を出したのは俺だし、その後も選挙活動の準備を手伝ったりしていた。

 だが、俺は最初から雨桐の依頼を引き受けたのではなく、相浦先輩を部会長に仕立て上げる案を出したのは、あの場で九に頼まれたから。選挙活動の準備を手伝っていたのは、補助委員として呼び出されたので仕方なくだ(もっとも男の子の血が騒いで少々熱が入りすぎてしまったものもあったが)。

 そして俺は九が雨桐の依頼を引き受けた当初、少しくらいなら手伝ってもいいか程度には考えており、雨桐を勝たせるために動いたりもしていたが、アメフト部が引き起こしたあの事件でその考えが変わったというわけだ。


 「謝るつもりはないぞ」


 一昨日、俺は確かに九に対して最低な言葉を吐いた。必要なことだったとはいえ、最低な行動も取った。

 正直今も腹の内では謝った方がいいんじゃないだろうかとか考えてしまっているわけだが、決してあのことに対して謝罪するつもりはない。……でも女の子を泣かせたっていうのは男としてちょっと謝った方がいいんじゃないだろうかいやいや。

 頭の中で巻き起こるプライドと理性の戦争をひとまず隅に追いやり、相浦先輩達軽音部の面々が行っている選挙演説に目を向ける。

 彼女ら(軽音部のメンバーは全員女性だ)の態度は至って真剣だ。最初は雨桐のみがこの問題に対して真剣に向き合っていたのかと思っていたが、やはり現状に不満を持っている者は多かったらしい。一度動き出せば、それなりに覚悟もついたのだろう。

 またそんな彼女らの演説に耳を傾ける生徒達の表情も、どこか真剣味を帯びていた。見たところ中には運動部らしき生徒もいるのにだ。

 ルール上問題ないとはいえ、運動部が行っていた部会の運営方針には納得していなかった者は決して少なくない。そういう考えを持っていた者にとって、これは千載一遇のチャンスなのだ。

 彼らの想いに対して謝りはしない。だが、応えてはみせる。

 この選挙で相浦先輩を、ひいては雨桐を勝利に導くことこそが、俺の最低な行動に報いる唯一の方法だ。というかそう信じたい。だってそっちの方がかっこいいやん?

 それにしても人ってなんかこういう真剣な出来事に取り組むためにスイッチ入れた時に、気付けば中二病とか熱血とかを発症しちゃうものだよね。だが落ち着け、俺はクールなことが取り柄な孤高な存在なのだ。この程度のことで心を熱くしていてはいけない。あれ、こういうこと考えるのって中二病じゃね?


 「そうですか」


 数秒置いて、九がえらくさらっと納得をした。


 「構いませんよ。その代わり、雨桐さんを絶対に勝たせてあげてくださいね」


 それから俺と九は、本日の選挙演説が終わる直前まで、舞台裏から無言でそれを見守っていた。

 九に言われるまでもなく、雨桐を選挙活動で勝たせるつもりだ。いや、必ず勝たせる。

 魔法使いが二人、手を組んで一つの勝利に向かって最善を尽くすのだ。負ける要素など微塵もない。

 今のところあんまり魔法使ってないけどね! むやみやたらに使うと怒られるし!

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