どうしようもなく世話焼きで、 4-17
「それで、何かな?」
そう言って話を促してくる雨桐は、極めていつも通りだった。
いや、正確には強引にいつも通りに振舞っている。
この違和感については、教室で友達と談笑している時からそうだった。ちょっとした表情や仕草を見ていればわかる。
それを彼女の友人達が気付けなかったのは、単に付き合いが浅いからだろう。入学して一ヶ月やそこらの付き合いでは、雨桐のこの違和感に気付くことができないのも無理もない。
といっても、俺が気付けたのは昨日のあの事件に立ち会った当事者であるという理由もあるが、それはさておき。
やはり雨桐の様子は普通ではなかった。昨日の事件が彼女に何らかの影響を与えていることは間違いないだろう。
それも、俺の予想が正しければ最悪な方向に。
「昨日、学校から帰った後なにもなかったか?」
「あ・・・・・・」
だいぶ遠まわしに聞いたつもりだったが、やはり昨日の事件に少しでも掠るようなワードを出すと、雨桐は少し顔を曇らせた。
「う、うん。なんともなかったよ」
「そうか」
明らかな強がりだ。あんなことがあった後で、平気でいられるはずがない。実際、俺の問いかけに目を逸らして答えた時点で嘘をついていることは丸わかりである。
それでなんともないわけないだろ、と言ってその後優しい言葉をかけてやれるなら、きっと雨桐は少しだけ元気を取り戻せたかもしれないが、俺はそこまでイケメンというわけでもない。
それにここで優しく雨桐を慰めるのが俺の仕事というわけではない。
俺は雨桐を心配しにきたのではなく、彼女の状態を探りにきたのだ。
「てっきりあの後家に帰ってから人前で泣いてしまったことを思い出して、恥ずかしくなって布団の上で転げ回ったりしたんじゃないかと思ったんだけどな」
「な、なんでわかるの!?」
いや冗談のつもりだったんだけど、マジでしてたんかい。
まぁ気持ちはわからんでもない。ちょっと大胆なことをしたりした日の夜は、冷静にその出来事を思い返してみて、急に恥ずかしくなって布団の上で転げまわるのが基本だ。誰しも一度は経験したことがあるに違いない。
という話もどうでもいいことなので、一つ咳払いをしてから話を続ける。
「とりあえずなんだ、思ったよりも落ち込んでなくて良かったんじゃねぇの」
ぶっきらぼうにそう言って、恥ずかしくなって顔を逸らす。
すると雨桐は、数瞬驚いたような間があった後、不思議そうに俺の顔を覗きこんでくる。
「心配、してくれたんだ」
「・・・・・・」
そりゃまぁ当然といえば当然だ。
男という生物は女の涙には弱いものだ。そんなものを見せられてしまえば、心配だってする。
そんな中途半端なタイミングで予鈴のチャイムが鳴って、周りにいた生徒達が一斉に動き始める。
俺も他のクラスから来ている身だ。早々に教室に戻らないと、授業に遅れてしまう。
だが、ここで無言で立ち去るのも何なので、俺は踵を返しつつ後ろ手を振った。
「同じ中学出身のよしみだ、深い意味なんてねーよ」
うわ、今の俺超キザったらしいな。今夜はベッドの上で転げ回ること間違いなしだろう。




