どうしようもなく世話焼きで、 4-15
「・・・・・・悪い」
「え、何が?」
「いや、今回の件、俺には予想ができてた。だから逆にその状況を利用してやろうと、お前をエサにしてアイツらを釣った。こうやってアイツらの行動を阻害して牽制してやれば、迂闊には行動できなくなると思ってな」
実を言うと、絶対にヤツらが襲ってくるという確信があったわけではない。
単に保険をかけてやっただけだ。万が一襲ってきた場合、雨桐を守ることとヤツらを牽制するという一石二鳥の効果を得てやる程度に考えていて、それがうまくいっただけに過ぎない。
それにこの行動の真の目的は牽制だけではない。運動部の総合票を減らすためだ。
選挙期間中に恐喝や暴行などを行った部活があった場合、その部に所属する生徒全員分の選挙権は剥奪される。そうすることによって、運動部の総合票数は減り、結果文化部との票の差が縮まる。
だからこそ最初から逃げようとせずにヤツらを誘導し、面倒な手間をかけてまで部活名を聞きだしたのだ(予想していたよりうまくいったが)。
唯一の誤算があるとすれば、結果的に見てみれば雨桐を囮として使ってしまったことになり、彼女をこんな表情にさせてしまったことだろう。
全てを予想していた俺からしてみればあんな状況は大したことはなかったが、何も知らない雨桐はきっと不安だったに違いない。
「ほんと、悪かった」
顔は逸らしたままだったがそう言って謝罪すると、一泊の間が置かれた。
「どうして折無くんが謝るの?」
雨桐は本当に不思議そうに質問する。
「折無くんはすごいと思うよ。私だったら、あんな人達があんなことをしてくるなんて予想もつかなかった。私を囮に使ったって言ったけど、ちゃんと私を守るつもりで行動してくれた」
それはそうだ。雨桐を守ることこそが最優先される事項であり、事がうまくいかなかった場合は、情報を捨ておいてその場から離脱するつもりだった。
だが、問題はそこではない。確かに安全は確保していたが、問題なのは雨桐があの状況に置かれて恐怖してしまったことだ。
しかし今の雨桐の態度を見ていると、まるであの程度のことには恐怖していないように思える。
「私、わかんないんだ」
雨桐は俺から視線を外して何もない真正面を見ると、膝を抱えて腕の上に顎を乗せる。
「過去に文化部から立候補者が現れた時、恐喝が行われたって話は聞いてたの。だから、もしかしたらそういうことが起きるかもしれないとは考えてた」
「・・・・・・」
「でも、本当に起きるなんて考えてなかった。なんだかんだいってそんな卑怯なことをする人なんていないって思ってた」
「そりゃまぁそうだろ。それが当たり前だ」
「うん、当たり前。なのに、どうしてそんな当たり前のルールも守れず、こんなことをする人がいるんだろ」
そこで俺はようやく気付いた。
雨桐は決して怯えていたわけではない。単に哀しんでいたのだ。
なぜ正々堂々と戦うことをせず、下劣で卑怯な手段を使う者達がいるのか。そういった人間がいることを信じられず、それがただひたすら哀しいのだ。
「どうしてなのかなぁ、私にはわかんないな・・・・・・」
問いかけとも独り言とも取れるその言葉に、俺は何を返すこともできず、ただその場で何もない虚空を眺めていることしかできなかった。




