どうしようもなく世話焼きで、 4-14
繁華街を走り抜け、コンビニに辿り着いたところで俺は雨桐の手を放した。
今にして思えば女の子の手を握るとか大胆なことをしていたような気もするが、そんなことを気にするより今は乱れた息を整えるほうが先決である。
後ろを向いて雨桐を見ると、彼女は目を瞑ったまま膝に手をつき、俺以上に息を乱していた。
「お前、いつまで目瞑ってるんだよ」
「そ、そっちが瞑ってろって言ったんじゃない」
確かにそんなことを言った気もするが、何もここまで目を瞑ったままじゃなくてもいいだろう。
まぁ過ぎたことを気にしても仕方がない。俺は最後に一つ大きく息を吐くと、それだけで乱れた呼吸は正常に戻った。だが、雨桐の方は息を整えるのに時間がかかりそうだ。
考えてみれば、路地裏からこのコンビニに来るまでおよそ五分くらいずっと走っていた気がするし、しかもそのペースは完全に俺のものだった。
急ぐ必要があったとはいえ、女である雨桐が男の俺のペースに合わせてここまで走り切るのは、相当な負担だっただろう。
「その、悪かったな」
さすがにこれは俺の方に非があると思って謝ると、雨桐はぜぇぜぇ言いながらきょとんとした顔をした。
「べ、別に、そんなに、謝ってもらうほどでも」
「いいから喋るな、ちょっとあっちで休むか」
ひとまず俺達はコンビニの横に移動すると、日陰になっている場所に雨桐を座らせた。
下はタイル状なこと以外は何もない汚い地面だったが、この際仕方ないだろう。壁にもたれて座る頃には、雨桐の呼吸はだいぶ落ち着いてきていた。
「大丈夫か?」
「も、もうちょっとだけ休ませて」
ゆっくりと息を整える雨桐を見ているともどかしい気持ちにもなるが、何をどうすることもできないのでしばらくその場で周りを警戒することにする。
といっても結構な距離を走ってきたので、ヤツらが追いついてくることはないだろう。その上、ここは往来のど真ん中だ。万が一襲ってこようものなら、通行人かコンビニ店員が警察を呼んでくれるに違いない。
しばらく車が行き交う音をBGMにしていると、ようやく息を整え終えたのか雨桐が口を開いた。
「さっきの、何だったの?」
さっきのとは、あのチーマー共のことだろう。
大体予想も付きそうなものだが、理解できていないのなら説明してやるべきだろう。
「運動部の連中だろ。本人達も恐喝に来たって言ってたしな」
「そうじゃなくて」
不意に雨桐の声色がおかしいことに気付いて彼女を見ると、今にも泣き出しそうな険しい顔つきをしていた。
「なんで、私達が襲われたのかな」
その震えている声を聞いて、少しだけ閉口してしまう。
普段あれだけ活発で元気のある雨桐が、今にも泣き出しそうな顔をしているのだ。最初に出会った時にも同じような表情をされたが、あの時はよく見ていなかったためにこういう状況になると脳が軽く麻痺してしまう。
こんな状態の雨桐をあまり見ていては悪いと思って、俺は彼女から目を逸らした。
「さっきアイツらに説明してやる時にも言ったが、運動部の連中は相浦先輩だけじゃなく軽音部のメンバーにも嫌がらせをして、相浦先輩の身近なところからじわじわと追い詰めて行くつもりらしいな」
「・・・・・・」
部会長選挙推薦制度を受けている相浦先輩は、生徒会に守られている身だ。いかに運動部といえど迂闊に手を出すことはできない。
なら、相浦先輩以外のところを狙って精神的に追い詰め、先輩自身が出馬を取りやめるよう誘導する。おおよそこんなシナリオだろう。
またチラリと雨桐を見てみると、彼女は先程よりもさらに表情を沈ませていた。その表情を見ていると、一気に罪悪感がこみ上げてくる。
「・・・・・・悪い」




