どうしようもなく世話焼きで、 4-13
「俺達誇り高きアメフト部が、調子づいてる文化部の部員や生徒会の犬ごときに名乗る名前なんてあるわけねぇだろ」
あ、名乗りはしないけど身分は明かすんすね。正直人名とか言われたところで憶えてられないから、部活名さえ聞ければ後はどうでもよかったんだよなぁ。
呆れつつ俺はポケットの中につっこんでいた右手を引っこ抜くと、その手に握っていたものを相手に見やすいよう掲げてみせる。
アイフォンだ。既に起動されている状態で、薄暗い路地裏ではその画面が少し明るく感じる(掲げているため俺からは見えてないが)。
「ケータイだ!」
「ポリ公を呼ぶつもりか!?」
男達が身構える。俺がアイフォンを耳に当てたら襲い掛かってくる気だろう。
だが、そんなことをしなくても既にチェックメイトは済んでいる。
俺は掲げたままのアイフォンの画面を親指でタッチする。そうすると、アイフォンから電子的な音声が流れる。
『わかってんだろ、調子乗って選挙に出てきた軽音部さんに制裁を加えにきたんだよ』
流れたのは野太い男の声だった。それも、さっき録ったばかりのものだ。
向こうも一瞬で察したらしく、青ざめた表情になる。
「ボイスレコーダーだよ。今時の携帯端末って便利だろ」
俺が言った後に、アイフォンから『俺達誇り高きアメフト部が―――』と続けて音声が再生される。
「目的は大方、軽音部員である雨桐をちょっと脅して、それを皮切りに徐々に軽音部のやる気を削いでいこうってところか。そうでなきゃ、相浦先輩じゃなくて雨桐を狙う理由がない」
もっとも、今回の部会長選挙で俺達がメインに据えているのは雨桐だ。その情報が相手に伝わっているのなら雨桐が狙われるのも納得がいくが、学校での周囲の状況を見る限り、今のところその心配はなさそうだ。今回はたまたま少人数で雨桐が街中に出てきたため、恰好の獲物といわんばかりに襲撃しただけだろう。
「さて、証拠は揃えた。これを生徒会に提出すればアンタらの選挙権剥奪は確実だろうな」
端末をポケットにしまって、にやりと笑う。
このまま帰れるなら何も問題はないが、そうは問屋が下ろさない。
「ざっけんなてめぇ!」「そんなもん持ったヤツをここで帰すわけがねぇだろ!」「絶対逃がさねぇぞコラ!!」
唯一の帰り道をチーマー達が塞いでいるという状況は依然として変わっていない。こうなるのは当然といえるだろう。
証拠はこうして入手できたが、ここでチーマーどもに端末を壊されたらアウトである。それどころか、逃げ切れなければ彼らの当初の目的である雨桐も無事ではすまないだろう。
エロ同人みたいなことまではされないと思うが、それだけは避けたい。ベストは俺と雨桐の二人が無事で、なおかつ証拠である俺のアイフォンを無傷のまま持ち帰ることができることだ。
誰がどう見ても俺達が不利なこの状況。だが、俺はこうなることを予期してこの場所に足を踏み入れたのだ。
無事で帰る方法くらいあるに決まっている。
「雨桐、ちょっと目瞑っててくれ」
なんかジャ○プマンガの主人公みたいなクサいセリフを吐いてしまった気がするが、まぁそこはご愛嬌だろう。
雨桐の方を確認してはいないが、おそらく無言で頷いて目を瞑ってくれたと思う。
これで何の問題もない。
チーマーどもがこっちに向かってすごい形相で迫ってくる。
俺は大した腕力を持っていないし、素早く動き回ることができる身体能力を持ち合わせているわけでもない。生徒会に入る前は、ただの普通の高校生という言葉が最も似合う男だと自負していたくらいだ。
唯一、魔法という力を使えること以外は。
俺の魔法は幻影を見せる魔法。これは対象者だけに見せられるというものではなく、空間というスクリーンに貼り付けるようなものだ。
よって、雨桐が目を瞑ってくれなければ、魔法の存在がバレてしまう可能性があった。だから、雨桐には目を閉じてもらった。
そのうえ、ここは人気のない路地裏である。ここなら何の遠慮もする必要がない。
魔法を行使し、空間に幻影を貼り付ける。
すると、チーマー達五人を包むようにして、黒い球体が現れる。
「うおっ、なんだぁ!?」
使った手は至極単純。相手を黒い球体で包み込んで、視野を奪ってやっただけだ。
黒い球体の中身は見えないが、チーマー達は唐突な出来事にさぞかし慌てていることだろう。すかさず一歩下がると、雨桐の手を握って走り出す。
「行くぞ、もうちょい目瞑ってろよ」
「え、え、どうなってるの!?」
黒い球体の横を走り抜け、俺達は路地裏から脱出する。
ここまで事がうまく運ぶとは思っていなかったが、作戦は大成功だといっていいだろう。




