どうしようもなく世話焼きで、 4-12
「おい、こっちの方が近道だぞ」
「え? あ、待ってよ」
適当なことを言ってビルとビルの間にある路地裏に入ると、早足で俺に追いついてくる雨桐。
昼間ではあるが路地裏は薄暗く、人通りはまったくない。それもそうだろう。こんな路地裏を抜けたところであるのは深夜営業のバーとかそんな感じのいわゆる「大人の店」だけだ。夜の街の入り口を真昼間から通るヤツなどいないだろう。
数歩進んだところで足を止めると、後ろから追いかけてきていた雨桐が俺の背中にぶつかって、俺はちょっとだけ前につんのめる。
「なにしてんだよ」
「折無くんが急に止まるからでしょ。どうしたの?」
「いや、道を間違えたと思ってな。引き返すぞ」
「そ、そうなの? 折無くんって案外ドジっ子さん?」
反応するのも面倒臭いので無言で来た方向へ戻ろうとすると、俺達の前に数人の男が立ちふさがる。
数えてみると五人。いずれも若く、チーマーみたいな私服を着てはいるが、すぐに鳳城学園の生徒だとわかった。
「な、何?」
雨桐が不安そうな声を出す。
それを聞いて、チーマー達は下卑た笑い声を返してきた。
「軽音部の雨桐弥生だな」
真ん中にいた一番イカつい男が雨桐を呼ぶと、彼女は肩をびくりとさせた。
「そ、そうだけど」
「悪いな、ちょっとついてきてもらうぜ」
そう言って男は前に出てこようとしたので、俺が雨桐をかばうようにして前に出る。
するとイカつい男は怪訝な顔をして足を止め、イラついたように声を出した。
「なんだテメェは?」
「生徒会補助委員の折無武月だ。用件は何だ?」
極めて冷静な声を出しているつもりだが、いかんせんこんな状況に出会ったことはあまりない。声が震えていないかどうかが心配だったが、相手の反応を見ている限りそれはないらしい。
「用件。用件だと?」
演じるように男が言うと、後ろの四人が再び「げへへ」と下卑た笑いを出した。
「わかってんだろ、調子乗って選挙に出てきた軽音部さんに制裁を加えにきたんだよ」
まるで自分達が正義であるかのように言ってみせて、げらげらと笑う男達。
雨桐はちょっとビビってしまっているが、ここまで完璧な小物を演じられると逆に気分が冷めてくる。というかもう完全に向こうが痛い目見る構図だよねこれ。
とはいえ、幼い頃にハワイで親父に格闘術を習っていたわけでもない普通の高校生である俺がこの五人にケンカを挑んだところで生身で勝てるわけがないし、それは雨桐とて同じだろう。単純な力では圧倒的に不利な状況だ。
逃げるとしても後ろは夜の街で、どういう構造になっているかなんて俺は知らない。それに、逃げたところで向こうはおそらく運動部である。追いつかれるのがオチだろう。
だが運のいいことに、相手は自分達が圧倒的に有利な状況にあるとたかをくくっている。むしろ今は好機と見るべきだろう。
「アンタら、どこの部活のヤツらだ?」
「ふん、貴様らになど教えるものか」
まぁそうなるよな。
今からやましいことをしようとしているヤツらが、わざわざ自分達の身分を言うわけもなし。




