どうしようもなく世話焼きで、 4-3
相浦先輩が出馬表明をして、ついに部会長選挙参加受け付けは終了した。
こうして生まれた今年度の部会長候補は八人。例年に比べると少し多い方だと結月は言っていた。
競争率が高くなってしまったのは予想外だったがが、ひとまず雨桐を部会のトップにするための一つ目の山は越えた。あとは相浦先輩を部会長にすることができさえすれば安泰だが、そこは二つ目の山場だろう。
といっても、俺の案はあくまで雨桐の実力に全てをかけたものだ。誰が部会長になろうと、雨桐がその部会長の裏で活躍をすればいいわけではあるのだが、相浦先輩が部会長になって雨桐を有能だと周囲に思わせる茶番を演じさせた方がうまく行くのは確かである。
それはさておき、我が校は土日が休日のため、忙しい日々とは一時おさらばである。
金曜から一夜明けて土曜になると、俺は家でぐうたらを決め込んでいた。
補助委員に入ってから一週間。ほぼ働き詰めの毎日だったので、正直精神的にかなり疲れていた。せめて土日くらいは一人でだらだらさせてほしいものである。
と思っていたら、我が家のインターホンが鳴った。
どうせ誰かが出るだろうと思いつつごろごろしていると、誰も出なかったのかもう一度「ピンポーン」という音が家中に響き渡る。どうやら家の中には対応に出る気のあるヤツがいないらしい。というか結月はどっかに出かけてたな。
まぁ居留守を使えばいいだろうとごろごろしていると、また「ピンポーン」と鳴った。スルーしようと思ったが、しばらくした後で狭い間隔でインターホンが「ピンポピポピンポーンピポピンポーン」と連続で鳴った。
流石にうっとおしくなって読んでいたマンガを放り投げると、どすどすとわざとらしく音を立てて玄関に出る。
「はいどなたですか」
ドアを開けながらイラ立ちを孕んだ声を出すと、目の前にずいっと何者かが現れた。
「遅い! なんで一回目で出てこないの!?」
ものすごい顔を近づけられたことをコンマ数秒で認識すると、俺は若干後ずさった。
距離を取ったことでようやく目の前にいた人物が見知った(?)人であることに気付く。
「お前、雨桐?」
休日であるはずの土曜に何故か学園の制服を纏って俺の家に現れたのは、まごうことなき今回の依頼者である雨桐弥生だった。
彼女はぷんすかという擬音が似合いそうな仁王立ちで、俺のことをジト目で睨みつけている。
「何回もメールしたはずなのに、どうして返事してくれなかったの?」
すごい剣幕でそう言われて、俺は携帯の在り処に思いを馳せた。
「あー、そういえば電源切ってたような」
「え、今時携帯の電源って切ることってあるの?」
「だって普段誰からもメールとか電話とか来ないし。切ってた方が電気代の節約になるだろ」
エコが叫ばれるこの時代、一人一人がしっかりとした意識を持ってほんの少しの電力でも節約して使わなければいけないのだ。そういえば部屋のパソコン使ってないのに電源入れっぱなしだった気もするが。
そんな風に答えると、雨桐は何を思ったか俺の姿をじろじろと見て呆れたように嘆息した。
「ジャージ姿に髪ぼさぼさ。折無くんって休日はいつもそんな格好で過ごしてるの?」
改めて自分の格好を確認してみると、確かにすごいだらしない身だしなみをしてるな俺。まぁいい格好をしたところでモテるわけでもなし(そもそもモテたいわけでもなし)、特に問題はないだろう。
とはいえ、見知った顔の前で改めてそう認識すると、ちょっと恥ずかしくなるものだ。後ろ髪をぼりぼりとかいて照れを紛らわせる。
「別にいいだろ、どっかに出かけるわけでもないし」
「良くない、今から出かけるんだから」
はて、なにやらわけのわからない言葉が聞こえてきたような。
「今からどうするって?」
「だから、学校に行くの」
ホワット? ガッコウニイク? どこの国の言葉だろうか。いや、もし仮にそれが日本語だったとして、何が悲しくて休日に学校に行かなければならないのだろうか。補習かな?
ともあれ、俺の取るべき行動は一つである。
「俺、忙しいから。それじゃ」
そう言ってすかさずドアを閉めようとしたところで、雨桐が素早い動きでそれを阻止した。
所詮は女の力なので強引にドアを閉めようと思ったらそうできたが、俺もそこまで鬼畜ではない。
「なんだよ」
そう問うと、雨桐はにこやかな笑顔でドアをゆっくり開け、がっしりと俺の肩を掴んだ。
「いいから、はやく準備してきてね?」
その笑顔と言葉には有無を言わさぬ迫力があった。
女ってこええ。




