いろいろと諦めているけれど、 3-22
有能な部下に仕事を全て奪われる、という話がある。そのままの意味で、有能な部下が無能な上司の仕事をほとんど引き受けてしまって、上司より部下の方が評価されるという話だ。
俺達が雨桐に実行させようとしているのは、その話をちょっといじったものだ。
あえて無能な部会長を仕立て上げ、そいつの下に有能な雨桐をつける。そうすることで無能で仕事ができない部会長は有能な雨桐に頼りきりになり、部会を支配するのは実質雨桐になるという寸法だ。
この短期間で実行可能な確実な手段は、もはやそれ以外にないだろう。
「ちょ、ちょっと待って! それどういうこと!?」
「だから、生徒会で無能もとい仕事を譲ってくれそうな部会長を一人選出してやるから、お前はそいつのサポートだけしてろってことだ」
「いやいやいやそうじゃなくて、それって私が部会長の仕事をできるかどうかが重要になってくるよね!?」
「大丈夫だろ、誰だって初めては下手くそなもんだ」
「無理だってそんなの!」
ぶんぶんぶんぶん! と首と手を振って全力抗議する雨桐。ソニックブームでも起こすつもりかな?
ちょっとめんどくさくなってきたので脅しをかけて強引にやらせてやろうかとも思ったが、それを実行する前に結月が口を開いた。
「雨桐弥生さん、だったかな」
「え、あ、はい」
「自己紹介がまだだったね、私は生徒会副会長の折無結月だ」
「ん? え~と、あ、はじめまして!」
「さっそくだが聞こう、キミはこの案に乗るか、否か」
滅茶苦茶単刀直入だった。
めんどくさい気持ちはわからないでもないが、もう少し段階というものを踏んでから聞くべき質問だろう。
雨桐なんて突然すぎてどう答えればいいのかわからず、おろおろしてるくらいだ。
「あの、そう言われても私、まだ考えが整理しきれてなくて」
「何を考える必要がある? 今この場で決めるべきことは、キミが部会を変えるかどうかという一点だけだろう」
そこまで言われて、ようやく雨桐も状況を把握できたようだ。
未だ状況を掴めていないのは九くらいのものだろう。
つまり、今この場で雨桐が決めるべきは俺の案に乗るか否かではなく、部会を変えるための手段としてこの案を行使するか否かということだ。
もっと簡単に言ってしまえば、この案を使ってでも部会を変えるか否か、ということになる。
生徒会は既にこの案を了承している。となれば、あとは実行するだけだ。しかし、案を実行できるのは唯一雨桐だけであり、雨桐が動かなければ生徒会も動くことはできない。
そして、もはや我々には時間が残されていない。
部会長選挙の準備期間は今日と明日の二日しか残っていない。そして、俺が考案した計画の通りに事を進めるなら、今日中には雨桐に答えを出してもらう必要がある。
既に状況は整っているのだ。雨桐が決行するか否かを決める時は、今このタイミングしかない。
そして、そうなれば雨桐の答えは決まっているはずだ。
「雨桐」
だから、あとは少し背中を押してやればいい。
「俺はお前がどうしようとお前の意見を尊重するが、お前はどうしたい?」
ちょっとだけ脅すような口調だったのは、頷けば後戻りはできないぞ、と伝えるためだ。
そんな俺の意図を汲み取ってか、あるいは単純に俺の質問だけを受け止めてか、質問をされてから数秒の間、雨桐は考え込むように黙っていた。
いや、それは考える時間じゃなくて決心する時間だったのだろう。あるいは、改めて腹を括ったといった方が適切かもしれない。
「わかった」
真っ直ぐと俺の方を見て、雨桐は頷く。
「やろう、これしか道はないよ」
その様子を見て、結月はにやりと愉しそうに笑った。
生徒会室内がまるで反撃の時は来た、というかのような雰囲気に包まれる。
数年に渡って続いた部会の負の歴史を払拭するため、ついに生徒会が本格的に動き始めることになる。




