いろいろと諦めているけれど、 3-14
「収穫なし、ですか」
部室棟一階ロビーのベンチで、九は落胆の息を漏らす。
あれだけ張り切っていたのに、何の成果もありませんでしたではこうなるのも仕方がないだろう。
もっとも、俺はこの結果を予想できていたので、まるでショックを受けていない。ただ、時間を無駄に使って現実を再認識させられただけだ。
この程度の調査であれば、既に結月達も行っているはずだ。その後を追うようにして始めたとしても、一日二日で成果が実るわけがない。時間をかければ説得する余地のある部も出てくるかもしれないが、そもそも立候補応募期間が今日を含めて三日しかない時点で、それも難しいだろう。
さらに言えば、俺達には生徒会の通常の業務もある。それを踏まえると、推薦人探しに割ける時間はごく僅か。結月ですら見落としている何かがない限り、推薦人が現れることはないだろう。
「ま、こんなもんだろ。結月ですら苦戦してた案件なんだし、今日中に見つかるなんてことあるわけねーよ」
「それは・・・・・・そうでしょうけど」
何かを言い返そうとして、それができなくて言葉が尻すぼみになる。
先ほどの威勢はどこへやら。すっかり暗い雰囲気になってしまい、なんだか俺もいたたまれない気分になる。
「なんだ、その、今日は無理だったけど、明日はいけるかもしれないだろ。だから、まぁ、元気出せよ」
最後の方は照れくさくなって、擦れるような声になってしまった。
言ってから自分がものすごく臭いことを言っていたことに気付き、九から顔を背けてしまう。多分家に帰ったら一〇分くらいベッドの上で悶えるコースである。
しかし、九はそんな臭いセリフに目をぱちくりとさせると、次にくすくすと笑い始めた。
「ありがとうございます、励ましてくれているんですよね」
「・・・・・・まぁ、な」
「やっぱり折無君っていい人ですね」
「は、お前は何もわかってないな。俺の性根は腐りまくってるんだぞ。なんなら日本一腐ってるまである」
「ひねくれ者という意味では、それも間違ってないかもしれませんね」
今度は俺が何も言い返せなくなる番である。どうやら、今回に関しては完全に俺の分が悪いようだ。
「でも、今日はもうこれ以上活動をしたところで、効果はなさそうですね。下校時刻も近いですし、続きは明日にしましょうか」
九の言葉につられて時計を見ると、時刻は十八時になろうというところだった。外も少し闇に染まりつつある。
先ほどまでロビーで選挙活動をしていた連中もいなくなり、いくつかの団体が今日の部活動を終えたのか、談笑をしながら部室棟から去りつつあった。
もはや今日できることはない。そう判断して、九がベンチを立ったその時だった。
「あの、さっき軽音部に来てた生徒会の人、だよね?」
横合いから掛けられた声に、俺達の視線が集まる。
やや遠慮がちにこちらを見ている彼女は、緊張した面持ちでそこに立っていた。
一番の特徴は肩に背負ったギターケース。おそらく、軽音部の部員だろう。肩元まで伸ばしたセミロングの黒髪が動くたびにふわりと揺れ、薄く紫がかった瞳がじっと俺に向けられている。その表情は驚愕。理由は俺にはわかりきっていることだが、あえて言う必要もあるまいと沈黙に徹する。
「はい、そうですが」
すかさず九の返答が入り、彼女は質問をするタイミングを失ってしまった。
俺と九を交互に見て、生徒会に対する用件か、俺に対する疑問のどちらを言うべきか迷っているようだ。
仕方ない、と俺は助け舟を出すことにした。
「何か用っすか?」
あくまで他人行儀に言うと、彼女は怪訝な表情を浮かべた。
「あ、あれ? 折無くん、だよね?」
「そうっすけど」
「あの、中学時代に―――」
「俺はアンタのことを知らないし会ったこともない、顔を見るのは初めてだと思うぞ」
決して目線を合わせず、そう言ってのける。
すると向こうも察したのか、少し悲しそうな表情を浮かべた。
「あの、お知り合いなんですか?」
状況を飲み込めない九は俺にそう尋ねるが、俺はただ首を振るだけ。
次にギターケースの女生徒を見るが、彼女もただ悲しそうに俯いているだけで、何かを言葉にしようとする様子はなかった。
「で、俺達に何か用っすか?」
これ以上こんな状況を続けるのも何なので、俺から話を進めるよう促すことにする。
それで彼女もきっぱり諦めたのか、顔を上げて口を開いた。
「えっと、さっき生徒会の人達が推薦人候補を探してるみたいだったけど、それってもう見つかったのかな?」
「いいえ、まだですけど」
「良かった、それじゃあ話があるの。ちょっと付き合ってもらっていい?」
唐突な申し出に、俺と九は顔を見合わせて首を傾げた。




