いろいろと諦めているけれど、 3-8
「部会には積極的に関わらない取り決めになってるのに、生徒会が部会長の推薦なんて行っていいんすか?」
「んー、これはなんていうかね・・・・・・」
珍しく東雲先輩が言葉を濁す。
何か言いにくいことなのだろうか。視線を泳がせて、次第にそれは結月に止まる。
バトンタッチという意味だろう。仕方がないとばかりに結月は微笑んで代役を引き受ける。
「部会長選挙というのは、部活同士の争いのようなものだ。私達は関知しないが、裏側でどんなやり取りが行われているかわかったものじゃない。たとえば、過去には誰が当選するかという題目で賭け事をしていたなんて例もあったようだしな。まぁ、それぐらいなら構わないが」
そういうの見逃していいのか副生徒会長。
「問題になるのは、他の部からの圧力によって、部会長選挙への出馬を躊躇う人がいること」
「他の部活からの圧力、ですか?」
「たとえば、当選確実と言われている部長がいるとする。そいつが出馬してしまえば、他の部は敗戦確実のレベルの人間。そいつさえいなければ、各部の勝率は五分に戻る。そういう場合、真っ先に行われるのが恐喝だ」
恐喝。
ここにきて一気に話が暗くなってきたものだ。
東雲先輩が語ることを躊躇ったのも頷ける。これは、あまり気持ちのいい話ではない。
「具体的な事例としては、過去に文化系の部活から出馬するとの情報があった時、運動部はそれを真っ先に潰しに行った。方法としては、集団で囲んでの恐喝。文化系の部活には普段運動をしていない気弱な人が多いからだ。いかにも不良みたいなヤツに脅されて、出馬をする気も失せたとさ」
「なんてひどい話・・・・・・」
「真っ直ぐに生きているサナがそう考えるのも無理はない。もちろん、その時恐喝を行った部活動は選挙に関わる全てのことを禁止。部会長もその事件とは関わりのない人が選ばれた」
なんともドス黒い話だ。とても高校生レベルとは思えない。というか高校生レベルでこれなら、大人の選挙とか金が絡んで大変なことになってるんじゃないだろうか。なんでこんなところで闇社会の片鱗みたいなものを垣間見ないといけないんですかねぇ。
「だが、それ以来文化系の部活からの出馬はなくなった。運動部以外の部活は部会長になってはいけないって暗黙の了解があるらしい」
ふむ、それは無難な選択だ。そもそも文化系の部活に所属している者は、大抵が事なかれ主義で目立とうとしない人間ばかりになる。よって、部会長になって目立とうとするヤツなど、相当稀だろう。ちなみに、悪い意味で目立ちまくっている高野だけは例外です。
そういうのは意識高い()運動部にでも任せておけばいいのだ。部費なんて文化系の部活ではそう必要にならないし、部室がなくたって内容次第ではどこか別の場所に集まって活動すればいい。運動部と違って、文化系の部活動はある程度道具さえ揃っていれば、どこでも活動できるのが利点なのだから。
「そんな状況に耐えかねたある生徒会役員が、文化系の部活も気軽に出馬できるような制度を作ろうと意見を出して、できたのが推薦制度というわけだ」
「どういうことですか?」
「生徒会から推薦されたって大義名分があれば、今まで躊躇っていた部長達も出馬する気になるかもしれない。あと、推薦した部会長候補には、生徒会が全面的にバックアップに入ることになってる」
「簡単に言えば、生徒会が推薦人のボディーガードになるってことだね」
横から入った東雲先輩の捕捉説明で、大体納得する。
「救済措置としては納得できるけど、生徒会がそんな風に部会に介入していいのか?」
「別に構わない。私達は生徒の代表だし。部活だって学校の一部なんだから、いかに部活だけの事情といえど、生徒会が全く介入できないというのはおかしいだろう」
「でも、さっき部会に生徒会は介入できないって言ってたよな?」
「名目上、部会長は生徒のナンバー2にあたる立場になる人間だから、一般生徒だってその存在は無視できない。故に、一般生徒にもある程度部会長選挙に意見する権利はある。そんな感じで強引に話を決めたそうだ」
そんな屁理屈が通ったのか・・・・・・。
「ちなみに、生徒会ができるのはあくまで推薦と、選挙に勝つためのアドバイスのみ。下準備やビラ配りなんかの雑用も認められてはいるが、肝心な部分は推薦人次第だ。生徒会からの推薦を受けたからといって、選挙で圧倒的に有利になるということはあまりない」
「それってあんまり意味ないんじゃ?」
「だからこの制度は、あくまで背中を押すためのものだよ。部会長選挙はフェアでなければいけないからな」
そう言って、結月はにやりと不敵に笑う。
ひとまず、俺が生徒会で最初に当たる山場は部会長選挙ということになるらしい。
といっても、生徒会の仕事は順調だし、俺の周りは平穏に過ぎていく日常がまだ続いてはいる。今後もそんな状況が続いてほしいとは願っているが、俺の心を過ぎる一抹の不安が、大なり小なり嵐は来るだろうと予感させていた。




