いろいろと諦めているけれど、 3-4
ふわぽわメガネ先輩の先導の下に生徒会室に入ると、既に先客が一人いた。
あの目立たない人である。
体格はやけに小柄。男子の制服を着ているので多分男子なのだが、髪が長くて顔が見えない。廊下側の席にちょこんと座っている彼(?)は、こちらを見向きもせずにひたすら本を読んでいる。
「いーくん、はろはろ~。お疲れ様~」
ただ、そんな目立たない彼(?)でも生徒会役員の一人らしい。ふわぽわメガネ先輩は慣れた足取りで自分の席(目立たない人の隣だった)へと進みながら、気軽に挨拶をした。
それに顔を上げたいーくんとやらは、そのまま一つ会釈をすると、そのまま読書に戻ってしまった。
会話終了である。コミュ障の典型例みたいな人だなおい。だがまぁ、それもいつものことなのだろう。ふわぽわメガネ先輩は特に気にする様子もなく椅子に腰掛ける。
「沙奈ちゃんと弟くんも適当なところに座ってね」
促されたので、俺達はそれぞれ「うっす」「失礼します」と返事をして、適当な場所についた。
「うん、それじゃあさっそくだけど始めよっか。まずは改めて、沙奈ちゃん、弟くん、生徒会に入ってくれてありがとう。そして、これからよろしくお願いします」
ご丁寧に真面目な顔でそんなことを言うと、ふわぽわメガネ先輩はぺこりと頭を下げる。
唐突のことに驚きはしたが、俺はほぼ反射的に頭を下げた。隣にいる九もそんな感じである。
「よし、挨拶が済んだところで改めて自己紹介。私はニ年Ⅲ組所属、生徒会書記の東雲杏㮈。東の雲に杏、その後にちょっと難しい『㮈』って漢字が入るんだけど、意味はよくわからないんだー」
自分の名前のことなのに随分と適当である。
まぁ案外自分の名前の由来や意味など考えないものだ。かくいう俺も親から聞いたことなど一度もない。むしろ親とほぼ話をしないまである。
しかし改めて自己紹介といわれたところで、俺はふわぽわメガネ先輩改め東雲先輩の名前を聞くのは初めてである。
これから生徒会に入るにあたって、憶えておかなければならない名前だろう。俺は印象薄くて興味ない人の名前は三十分後に忘れてしまうので、そうならないよう頑張らなければならない。
「さて、さっそく本題に入るんだけど、二人とも大丈夫かな?」
なんだかころころ話題変える人だなぁ、とか思ってしまうが、まぁここで雑談に入っても仕方ないことだろう。というかコミュ障のボクはガールズトークに混ざれなくてそこにいる目立たない人みたいになってしまうので勘弁してください。
さておき、俺と九はそれぞれ首肯する(九だけは「はい」と返事をした)と、ふわぽわ―――もとい東雲先輩は、にっこり笑って話を進めた。
「今日二人をここに呼んだのは、今後のお仕事の予定についてお話しておきたかったからです。また、生徒会補助委員がどういった部門なのかも、改めて簡潔に説明しようと思います」
なんというか、急に雰囲気が変わった。
普段ふわぽわしている東雲先輩だったが、どうやら仕事の話になると真面目モードになるらしい。
「まずは補助委員についてだね。前から話していた通り『生徒会補助員』は、その名の通り生徒会を補助する部門にあたります。といっても、生徒会の手伝いばかりをするというわけじゃなくて、一つの独立した組織として、生徒会とは別の案件を引き受けてもらうこともあるから注意してね」
つまり、生徒会の手伝いと、それとは別件で補助委員で行われる仕事の二つがあるということだろう。なんとも面倒臭そうな部門である。
「生徒会補助委員の扱いとしては、厳密にはクラブ活動ということになるね。そもそも今回は初めて実施される試みだから、今後内申点にどう影響してくるかとかはわからないの」
「私はそういったものは気にしませんが」
「沙奈ちゃんが気にしないのだとしても、こういうことはきっちりしないといけないからね。とにかくその辺については今後の活動次第だって先生も言ってたよ」
なるほど、正当な評価がもらえるか否かは今後の俺達の活動にかかっているというわけだ。
まぁ俺も内申点目的で補助委員に入ったわけではないので、その辺はどうでもいい。もらえるのならもらっておくが。
「あと、一応は部活動という扱いになっているから、部長的な人を決めないといけないの」
それは考えもしなかったことである。
元々、補助委員は生徒会傘下の組織だ。それも、二人という少数で構成された部門である。必然、役職など関係ないグループになるという考えに至るだろう。
「まぁこれについては結月ちゃんの方から沙奈ちゃんを任命するって聞いてるけど」
知ってた。
そもそも九は最初から補助委員に入っていた最初のメンバーであり、能力もあって意識も高い。結月が選ぶのは当たり前だろう。
「というわけで今後九室長としてがんばってね、沙奈ちゃん」
「室長、ですか」
あれなんか九ちょっと嬉しそう?
室長という言葉の響きが気に入ったのだろうか。しかし最年少学年で室長とは、背伸び感が半端じゃない。九も室長という柄ではないので、違和感満載である。
「わかりました、私でよければ引き受けさせていただきます」
「うんうん、それじゃあ補助委員の事情についてのお話はここまでだね。次はお仕事の話に移るけど、大丈夫かな?」
ずいぶんトントン拍子で話が進んでいくので若干頭が追いつかない部分はあるが、今までの話はほぼあってないようなものだから問題はないだろう。
九が真剣な顔をして頷いたので、俺もそれに倣って頷いた。




