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魔法使いにできないコト  作者: 水無雲夜斗
第三章 いろいろと諦めているけれど、
19/75

いろいろと諦めているけれど、 3-1

 なんということでしょう。今年の4月29日は土曜日。

 国民の休日である昭和の日は土曜にも仕事のある社畜の皆さんならともかく、土日休日制である我が校とっては何の意味もないただいつも通りに休みの土曜へと消えてしまったではありませんか。

 そんな悲劇の週末が終わって月曜日。

 いつもながらに気だるい気分に苛まれ、眠気を欠伸ごと噛み殺しつつ俺は素直に登校した。

 新聞部の号外で何者かが生徒会に入ったことが広く生徒に知れ渡った、というアクシデントがありはしたが、誰が入ったかまでは伝わっていないのか、俺に対する周囲の反応はそこまで大したこともなく、拍子抜けするほどにさっぱりとしたものだった。

 単純に、彼らは興味がないのだろう。特に目立つわけでもない折無武月という一生徒がいきなり生徒会に入ったところで、それはテレビで全く興味のないタレントが不慮の事故で大怪我を負った時に「へぇ~」と適当な感想を漏らす程度の衝撃しかない。

 そのおかげで俺の日常はさして変わらず、穏やかなものである。

 何事もなく全ての授業が終わると、朝や昼休み同様みんなは俺に何らかのアプローチをすることもなく、いつものように各々のペースで帰路に着いていた。


 「ま、こんなもんか」


 呟きつつ青柳に適当に挨拶をして教室を出ると、俺はいつもの調子で下駄箱に向かって歩き出す。

 生徒会に入ったとはいえ、日常はさして変わらない。そのことに安堵を憶えつつ、しかし下駄箱に近づくにつれて胸の内で何かもやもやとしたものが大きくなる。

 はて、何かを忘れているような気がする。しかし、それが何なのかわからない。

 今日は頼み事をされることはなかったはずだし、誰かと遊ぶ約束をしているわけでもない。そもそもろくに友達もいない俺が何らかの約束をする時など、頼み事をされた時くらいだ。

 しかしこの胸の内にあるもやもやは、約束を忘れている時の不安感に似たものがある。そう、俺は放課後になると行かなければいけないところがあるような―――


 「どこへ行く?」


 むんずと真後ろから首根っこを掴まれる。

 その声とその行為で、俺は全てを思い出し、状況を把握した。


 「まったく、仮にも生徒会役員ともあろう者が、活動一日目でいきなりサボるつもりか?」


 ぱっと掴まれていた手を離されたので、俺は後ろを振り向く。

 そこにいたのは生徒会副会長、折無結月だ。その人気っぷりからか、周囲からは好奇の目を注がれている(主に女子の)。

 結月が見知らぬ一年男子と一緒にいるのが珍しいのだろう。周りからは「あの子誰?」みたいな声がしきりに聞こえる。

 一応、先日に結月が教室を訪問してきた時から少しずつ俺が結月の弟だという話は広まっているが、それもまだごく小規模なものだったので、こういう状況に置かれると居心地が悪い。

 それはともかく、ここで結月に見つかったのは助かったというべきだろう。

 でなければ、今日が生徒会活動一日目ということも忘れ、そのまま帰ってしまい、家で結月に怒られた挙句、翌日に九から鋭い氷の視線が飛んでくるまであっただろう。


 「あー、悪い、忘れてた」

 「忘れてたではないだろう、入ったばかりとはいえ、生徒会役員がそれでは困る」

 「そんなこと言われても、今日生徒会室に来いなんて聞いてないぞ」


 先程の「忘れてた」は、今日から生徒会の活動が本格的に開始されることを忘れていた、という意味だ。それ以外何も報告を受けていないということは、何もないということだと考えてしまうのは仕方がないことだろう。

 結月はそれで報告を忘れていたことに思い至ったのか、しまったという顔を作っていた。


 「せ、生徒会役員たるもの、放課後に生徒会室に集まるのは常識だろう」

 「そんな常識聞いたこともない」

 「とにかくだ、生徒会活動は今日からだ。わかったらさっさと生徒会室に向かえ」


 逃げるように言うと、結月は部室棟の方へ向かって歩き出してしまう。


 「そっち生徒会室じゃないけど?」

 「私は部室棟に用があるんだ、そろそろ部会の時間だからな」


 いいから生徒会室へ急げ、と去り際に残して、結月は足早に部室棟へと続く渡り廊下を歩いていった。

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