ひどく面倒くさがりで、 2-11
しぶしぶ、である。
本当にしぶしぶ、これ以上ないくらいに仕方がなく。
四月二十八日の金曜日の放課後、俺は生徒会室の横、生徒会補助委員の活動拠点教室予定地前にいた。
しぶしぶ、生徒会に入ったのである。
明確な理由なんてない。いや、それを答えられるだけの考えがまとまっていないというべきか。
なにはともあれ、俺は生徒会に入ることに決めたのだ。というわけでさっそく放課後になって生徒会室を訪れると、まずふわぽわメガネ先輩ににやにやされ、結月は対応こそ真面目(傍から見ると適当)だったが、時折後ろを向いてはくすくすと笑いを零していた。
ちなみに、今日も生徒会室は二つ空席があって、ふわぽわメガネ先輩と結月、そして一昨日もいた影の薄い坊ちゃん刈り頭の男子生徒が一人。いや、あなた本当に影薄いですね。一昨日なんて影薄すぎて、ラノベだったら文章描写するの忘れられるレベルだったじゃないですか。
幸運なのは、九沙奈がいなかったこと。彼女が生徒会室にいたら、ふわぽわメガネ先輩と結月、そして九の三人でいろいろな化学反応が連鎖爆発して地球がやばかっただろう。何を言っているかわからないと思うが、それぐらいカオスな現象が起きるに違いないということだ。
ともかく、無事生徒会への入会手続きを終えた俺は、今日から補助委員として生徒会に所属することになる。
思わずため息が零れる響きである。
だが、もはやここまで来たら諦めの境地だ。意を決して扉に手をかけると、がらりと横にスライドさせる。
教室内は、一昨日来た時よりも綺麗に片付いていた。今もせっせと物を運んでいる九が、昨日の今日でいろいろ整理してくれたのだろう。
扉が開いた音に気がつくと、九はこっちを見て一瞬固まる。
「よ、よう」
そんな反応をされたらこっちもどうしていいかわからず、なんかぶっきらぼうな挨拶をしてしまった。
「あ、はい」
向こうも向こうで対応に困ったらしく、なんかニンジャが使いそうな言葉で反応された。
そのままお互いに固まること数秒。
さすがにこの異様な光景に耐えられなくなったのか、九がどさりと運んでいた書類の束を机の上に置く。
「えっと、とりあえずどうぞ」
椅子に座ることを奨められたので、おそるおそるといった風に俺は一昨日も座った真新しいプラスチック椅子に腰掛ける。
そして九は対面のソファに腰掛け、そこでまた時間が止まった。
えっと、何なんですかね、この雰囲気は。
先日は自然と九と話していた気がする俺だが、なんというかこの状況下でどうすればいいのかわからない。
そもそも彼女と普通に話をできていたのは、半ば勢いみたいなものだ。あの幻想的な屋上の雰囲気に飲まれ、つい気分が舞い上がってしまったことが大きい。その後は流れでなんとなく会話できていたが、今はそんな雰囲気も流れもない。
言いようもない気まずさが訪れ、言葉を発することすら憚られる。だが、そんな沈黙の時間は九によって破られた。
「生徒会、入ってくださったんですね」
突然の言葉にびっくりしたが、これは好機だ。いつも通りの平常心を装い、俺は会話に乗る。
「まぁな、なんつーか、なんとなくな」
「それはなんというか、あなたらしくないですね」
「俺は気分屋なんだよ、そういう時もある」
「そうですか。あなたがそう言うのならそういうことにしておきましょう」
くすりと微笑む九。
ここは俺も笑うべきところなのだろうか。とりあえず笑顔を作っておくが、絶対変な顔になってそう。
「ありがとうございます」
唐突に礼を言われ、俺は少し戸惑った。
「何がだよ」
「補助委員に入ってくれたことに、です。正直、私一人でやっていけるかどうか、不安だったので」
なるほど。それはごもっともだ。一人で委員を切り盛りしていくのは大変だろうし、そもそも一人では委員会ですらない。本当に、俺が入らなかったらどうするつもりだったのか。
「別に大したことじゃねーし。それに、俺が入らなかった時は、その時は他の人を入れればよかっただろ」
「それは、そうですけど・・・・・・」
九はそこで少し言葉に詰まる。
「ほら、ここって魔法使いのための部門みたいなところあるので」
ああ、それは確かに。
魔法使いは世間にそうごろごろいるわけではない。俺達のように、東の島国という辺境の地にある一つの学校に、別々の家系での二人の魔法使いがいることは、結構稀な例なのだ。
アニメやマンガの世界ではないし、おそらくこの学校には折無家と九家以外の魔法使いはいないだろう。
「でも、別に魔法使い以外の生徒がこの補助委員に入っちゃいけないなんてルールはないんだろ?」
「それもそうなんですけどね」
まぁ、この補助委員は結月の作った部門だ。その辺は適当で、今後会員が増える可能性もあるだろう。
正直に言ってしまえば、九の言わんとすることはわかる。この部門は魔法使いのために作られたものであり、よって魔法使いである俺と九がメインとなる場所だ。
その九が魔法を使って問題を解決するということであれば、九はこの先補助委員に新しいメンバーが増えようと、誰の手も借りることはできない。なぜなら、魔法の存在を一般人に知られることは避けなければいけないからだ。
だが、魔法使いが二人いれば、互いにフォローしながら活動ができる。その事実はこの先何が起こるかわからないこの補助委員での活動への不安を、幾分か和らげてくれるものだ。それは、俺自身もそう思っているからこそ言えることである。
「なにより、折無君はきっと」
俺はそれだけだったのだが、九は他にも理由があるようで。
そう前置きをして、ぱっと顔を上げてから、
「きっと、なんだかんだ言って、ちゃんとやってくれそうですから」
にっこりと、無邪気な笑みを浮かべてそう言った。
この作品はここで一区切りとなります。
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