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魔法使いにできないコト  作者: 水無雲夜斗
第二章 ひどく面倒くさがりで、
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ひどく面倒くさがりで、 2-10

 「あの後、私は考えました。確かに、私の考え方は『傲慢』かもしれません。強者が弱者を救うという発言をして、私自身がそれを実行するということは、つまりそれは、私が強者の位置にいるということを私自身が無意識に自覚しているということになりますから」


 踊り場につき、くるりと弧を描くように右側へターンをすると、俺達は次の階段に足をかける。


 「私は、クォーターです。おじいちゃんがイギリス人で、あの、こういうことはあんまり言いたくないのですが、お金持ちでした」

 「魔法使いの家系は金持ちが多いって聞くが、あながち間違ってないのかもな」

 「はい、実際おじいちゃんは魔法の力を使って富を手にしたと言っていました」


 階段を上りきり、息を吐く。

 だが、足を止めることはない。それと同じように、九の言葉も止まらなかった。


 「でも、おじいちゃんは決して富に溺れませんでした。それどころか、そのお金のほとんどを孤児院や老人ホームに寄付している、という話を聞きます」


 なんとまぁ、そんなアニメやゲームでしかいないような紳士なご老人が、まさかこの世に実在しようとは。

 だが、この孫にしてそのおじいちゃんありといったところか。きっとそのご老人も、九沙奈のように馬鹿みたいに真面目な人なのだろう。


 「おじいちゃんは他人のために努力する人です。たとえ見ず知らずの他人のためでも、その人のためになる行いをします。そんなおじいちゃんがよく言っていたのが、『高貴なる者の義務』です」


 ノブレス・オブリージュ。

 高貴なる者は、義務を強制することの意。

 実際にはこの言葉は貴族に自発的な無私を促すためのものだったとされているが、現代では「富を持つ者が持たざる者のために働くことは義務だ」みたいな意味で使われることもある。話から察するに、九のは後者だろう。

 しかし、九のおじいちゃんはまるで英国紳士の模範のような御人である。そんな人が実在するのかというレベルだ。


 「なーんて、全部作り話ですけどね」


 おーい!!

 やけに深刻に話すから信じきってしまった俺は、心の中でそれはもう見事なまでにずっこける。現実でも首がかくんとなった。

 いたずらが成功した九は、子供のようにくすくすと笑った。


 「ごめんなさい、でも、私にとって『高貴なる者の義務』は座右の銘みたいなものなんです」

 「さいで・・・・・・」


 しかし、意外だった。

 九沙奈は真面目な人間で、冗談の類は言わない、カテゴライズするなら「カタブツ委員長」キャラかと思っていたが、こんな風に冗談を言うこともあるのか。

 とはいえ、九沙奈とはたった二日程度の付き合いだ。俺が持っている彼女に対するイメージは、きっと彼女のほんの一部分に過ぎないものなのだろう。

 そうこうしている内にも渡り廊下を通り終え、俺達は生徒会室の前にいた。

 思えば、これは少し失敗だったかもしれない。

 昨日の今日だ。俺が九を手伝ったことによる、生徒会メンバーが勘違いして話がややこしくなる可能性はあるし、なによりあの姉がいる。正直、生徒会室には入りたくない。

 そんな俺の気持ちも知らず、九は躊躇いなく生徒会室の扉を開ける。だが、幸いなことに中には人一人おらず、無人の生徒会室はまるでただの雑然とした物置のようだった。

 ほっと胸を撫で下ろして中に入ると、九の指示に従い荷物を部屋の隅に置く。

 そうしてようやくこの重い荷物から解放された俺がトントンと腰を叩いていると、九は窓際まで移動していた。

 夕陽の差し込む窓辺で、たそがれるように窓の向こう側を見る少女を見ていると、あの幻想的な屋上を思い出す。


 「折無君は」


 ぽつりと、零すように九は話の続きを口にする。


 「どうして、他人のために行動するんですか?」


 それは、頼まれ事を断れず、しぶしぶやっていることを言っているのだろうか。

 質問の意図を考えていると、その間に九がさらに言葉を重ねる。


 「ここ三日ほど、私はあなたを観察していました。一昨日屋上で言われた『傲慢だ』というあなたの言葉に、言いようもない悔しさを感じていたからです。だから、あなたはどうなのか、それを知りたかったんです」

 「それは、なんつーか、悪かったな」

 「いえ、いいんです。こっちも大変ご迷惑をおかけしたようですし」


 そこで九は振り向いて、苦笑を浮かべる。


 「ですが、私はあの後考えました。傲慢であるということはどういうことか、私のしていることは間違っているのか」

 「・・・・・・」

 「考えて考えて、でも、私は自分がしていることが間違っていると思えませんでした」


 それは、きっと。

 逃れようもなく傲慢で、見方によっては、彼女は救いようがないほど愚かであるように思える。

 それでも。


 「だって、私がしていることって、決して悪じゃないと思うんです。人のために動くことが、悪であってはならないと、私は思うんです」


 その考え方は綺麗で、まるで傷一つないぴかぴかと輝くガラス玉のような。


 「だから、私はこのスタイルを貫きます。たとえ傲慢と言われようと、私は今の私のまま生徒会で頑張っていきたいと思うんです」


 ああ、と俺は心の中で核心する。

 この九沙奈という少女は、きっと。


 「折無君が生徒会に入るのか入らないのかはまだわかりませんが、どちらに決めても、私を応援してくださると嬉しいです」


 ちょっとしたはずみで落として割れてしまいそうなほど、危なっかしい。

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