ひどく面倒くさがりで、 2-4
生徒会室のさらに奥、特別棟二階右翼最端にある空き部屋は、これから補助委員のための活動拠点になるらしい。
まだ机やら椅子やらが雑然と散らばっているその部屋は、それでも少しずつ掃除されているのか、清潔感がある空間になっている。
あのあと生徒会役員から質問攻めにされそうになったところを、俺の姉こと折無結月が強引に話を切り、俺と九を連れてこの部屋まで来た。
「何のつもりだよ、結月」
「実の姉に向かってその態度は何だ弟よ、サナの手前見栄でも張っているのか?」
結月は楽しそうに言葉を躍らせながら教室内部へと歩を進めると、真新しいソファにどっかと腰掛ける。
「まぁ、座れ」
くいと顎で己の対面にある椅子に座るように指示されたので、俺と九はしぶしぶ座ることにした。多分しぶしぶだったのは俺だけだが。
「紅茶の一つも用意できず、すまないな」
「いや、別に」
「お前に言ってない」
さいですか。
「しかしまぁ、生徒会室でのネタばらし・・・・・・いやぁ、実に愉快だった。みんな目を点にして驚いていたなぁ」
からからと笑う結月だが、俺にしてはたまったものではない。
折無結月。俺の姉にして、生徒会役員の一人。
あまり話をしないので詳しくは知らないが、その豪快な性格からは予想もつかないくらい繊細かつ丁寧に仕事をこなす、生徒会きってのエリート。二年ではかなりの人気を誇る生徒であり、男子からというよりは、女子からの支持が厚いとか。別に百合百合んな意味ではない。
もちろん俺がその折無結月の弟であることは学園中に知られていない。隠しているというわけでもないが、結月がその話を他人にすることがないのと、単純に俺の知名度が低い故だろう。
「本当に意外でした、まさか結月先輩の弟さんだったなんて」
九が驚いたように俺を見る。まぁ、こんな目立つ姉の弟なのに、俺は冴えない普通の男子生徒ですからね。
「まー私もこんな弟を持って正直苦労してるよ」
それは悪うござんしたね。
俺が心の中で悪態をついていることも知らず、結月は懐から棒つきキャンディを一つ取り出し、それを咥える。俺は何度も見た光景なので驚かないが、九はそれほど姉と共にいることがないのだろうか。怪訝な顔でその様子を見ている。
そして結月はそれを噛んだ。
「!?」という記号で表現できそうな表情で九が驚愕するが、俺にとってこれは見慣れた光景である。じゃりじゃりと飴を噛み砕きながら、結月は話を切り出す。
「で、本題だけど武月、アンタほんとに生徒会に入る気ないの?」
いつになく真剣な表情で訊ねてくる結月。
俺はこの姉が苦手で、弟という身分では姉に逆らうのは少し躊躇いがある。だが、今俺達の間にある関係は先輩と後輩であり、ならば遠慮する必要もないと自分に言い聞かせる。
「何度も言うけど面倒臭いことは御免だ。やる気はない」
「でも、アンタ暇じゃん」
俺の答えは予想していたのだろうか。とんでもない切り替えしの速さで結月は言葉を紡ぐ。
「家帰って家事するでもないし、部屋でオタクみたいにネット漁ったりゲームしたりするわけでも・・・・・・まぁ、それはちょっとやってるか。でも、趣味に全力注いでるってレベルでもないでしょ」
「・・・・・・」
「だったらさ、生徒会入ればいいじゃん。暇な日常に終止符打てるよ」
確かに、結月の言うことは正論だ。暇な時間があるのなら、この機会にいっそのこと生徒会に身を投じてみるのも悪くはないだろう。
だが、俺はどうしてもそういう気分にはなれなかった。
なぜなら。
「それとも、中学校の時、生徒会やってたことまだ根に持ってんの?」




