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魔法使いにできないコト  作者: 水無雲夜斗
第二章 ひどく面倒くさがりで、
12/75

ひどく面倒くさがりで、 2-5

 ぴくりと俺の肩が無意識に動くのを、俺自身が感じた。

 多分、空気が変わったとはこのことを言うのだろう。部屋の中が静まり返り、異様な雰囲気が辺りに漂い始める。

 結月が口にした話は、俺にとって封印したい過去であり、いわゆる黒歴史である。

 それを何も知らない他人の前で、一部とはいえ明かされたのだ。大きな怒りを感じても、何らおかしくはない。


 「結月」


 自分で思っているよりも、その声は怒気に包まれていた。

 ただならぬ雰囲気を感じ取った九が、隣で心配そうに俺達を見ているのがわかるが、今はそんなことどうでもよかった。

 言葉をぶつけられた結月は、何ら気にしている様子はない。どころか、次の瞬間には不敵な笑みすら浮かべていた。


 「別にサナにバラそうってわけじゃない。ただ、そのことで生徒会に入るの躊躇ってるなら、それはアンタがビビってるだけって話」

 「偉そうに・・・・・・」

 「偉いよ、だって副会長だし」


 なん、だと・・・・・・?

 生徒会役員という話は俺も聞いていたが、何分俺と結月は家でもあまり話をしない。なので、姉の身分がそこまで高いとは思ってもいなかった。


 「ちなみにだけど、この補助委員設立を立案したのも私」


 もはやこの姉、無茶苦茶である。生徒の身分で提案して実行できるものなのか、それ。


 「会長には反対されたけど、まぁ成果を見込めるならってしぶしぶ認めてもらえたかな。だから、アンタ達には期待してるんだよ」

 「『達』って、俺はまだ入るって決まったわけじゃないぞ」

 「はいはい、そうだね『決まったわけじゃない』ね」


 にやにやと俺の言葉の痛いところを繰り返す結月。つくづく嫌な姉である。


 「ところでだけど、アンタってサナが魔法使いだってこともう知ってるんだっけ?」

 「へ?」


 唐突な質問に、変な声を出したのは九だ。

 特別に驚くようなことでもないと思うが、一体どうしたのだろうかと九を見てみると、彼女は心底驚いた様子で結月を見ていた。


 「あの、なんで結月先輩がそのことを・・・・・・?」


 ああ、そういうことか。

 きょとんとした顔の俺と結月は、思わず目を見合わせてしまう。


 「え、もしかしてサナ、気付いてないの?」

 「九、お前それは魔法使いとしてどうかと思うぞ」

 「へ? ・・・・・・へ?」


 つまり、九は結月が魔法使いであることを知らないのだ。

 魔法使いは血によって成り立つものであり、先天的なものである。故に、魔法は親から子に引き継がれ、魔法使いの子供は自然、魔法使いになる。

 即ち。


「折無家は魔法使いの家系なんだから、弟の武月が魔法使いなら、当然私も魔法使いに決まっているだろう」

「お前、これくらい魔法使いなら一般常識だぞ」


 ということを九に説明すると、納得と同時に小さくなってしまう。まぁ、魔力は血によって受け継がれるという点から単純に考えればわかる話だったわけで、気付かなかったことを恥に思うのも仕方がない。


 「話を戻して、せっかくサナっていう優秀な魔法使いが生徒会に入ってきたのに、それを使わないまま一生徒会役員として運用するのは、どうにも惜しいのよね」

 「それはわかります」


 うんうんと頷く九。いや、別に魔法使わずに生徒会役員やっても学園の行事とかが成り立つなら別にいいんじゃないかなぁ。他校ではそれが常識なわけだし。


 「そこで、せっかくある魔法をガンガン使えるような部門を設立してやろうと思ってそれを形にしたのが、この補助委員ってわけ」


 ん? それってまさか。


 「おい結月、もしかして補助委員って・・・・・・」

 「そう、魔法使いによる、魔法使いのための生徒会。せっかくある魔法を腐らせないための部門」


 なんということだ。

 その理論からいくと、補助委員は九沙奈のために設立された部門であり、そして同時に。


 「最初から俺を入れるつもりだったのか」

 「正解」


 子供のように無邪気な笑顔で言ってのける結月。

 なんということだ。

 この姉、最初からいろいろ仕組んでいたのだ。もしかしたら、九が俺に接触することすら、この女が仕組んだ運命だったのかもしれない。


 「わぁ、素敵な部門なんですね!」


 そんなこととは露知らず、姉を褒め称える九。残念ながらお前が尊敬の眼差しを向けているのはとんだ悪女である。


 「折無武月さん!」


 がっしと隣から俺の両手を掴まれる。もちろん、掴んだのは九だ。

 思わずドキッとする。なにぶん、俺は女性とはほぼ無縁の存在だったもので、こういうのには慣れていない。それも相手が美少女とあってはなおさらだ。


 「な、何・・・・・・?」


 あまりの出来事に、メガネ臆病僕っ子ショタキャラみたいになってしまった。落ち着け俺、いつもの俺はもっとクールで何事にも動じないナイスガイだったはずだ。

 しかし手を掴まれたまま九にずいっと迫られ、心を落ち着けている余裕すらない。なんかこの子いろいろと積極的すぎやしませんかね!?

 そんな俺にはおかまいなしに、九はキラキラとその目を子供みたいに輝かせる。


 「ぜひ、私達魔法使いの力で、補助委員を盛り上げましょう!」

 「い、いや・・・・・・」

 「あなただって、その力を腐らせたままにしておくのは、望むところではないでしょう?」


 あまりの勢いに、思わず「イエス」と返事をしてしまいそうになったが、ギリギリのところで踏みとどまると、スキを見てやんわりと九から手を離す。

 ああ、これは仕方がない。別に九の色気に負けたとか、そういうのではまったくない。だが、この場は間違いなく俺の負けだ。

 きょとんとする九に、俺はそっぽを向くと、


 「まぁ、考えとく」


 ぼそりと、本当に聞こえるか聞こえないか、そのくらいの声量でそう言った。

 だが、他に誰もいない静かな教室だ。その言葉は当然全員の耳がばっちりとキャッチされており、結月が声を上げて笑い始める。


 「そうかそうか、じゃあせいぜい期待しているよ、少しでも私の仕事量を減らしてくれることを」


 それだけ言い残し、席を立って笑ったまま教室から出ていってしまった。

 後に残された俺は、不本意ながらも「なんだかんだで似た者姉弟なんだなぁ」という感想を抱いていた。

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