↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第三章 審判の前



退院を翌日に控えた午後。


病院内の相談室には、息苦しい沈黙が漂っていた。

長机を挟み、片側には結衣と美和子。

向かい側には、翔太と義父母が座っている。


出産からまだ数日しか経っていない。

結衣の身体は完全には回復しておらず、硬い椅子に座っているだけでも下腹部が痛んだ。


それでも、背筋を伸ばしていた。


検査結果が出るまでの間に、結衣は病院の相談員を通じて、弁護士へ連絡を取っていた。


録音。

翔太からのメッセージ。

義父母から届いた侮辱的な文面。


すべての記録を整理し、すでに弁護士へ送ってある。

そのことを、翔太たちはまだ知らない。


翔太は椅子に深く座り、何度もスマートフォンを確認していた。


「弁護士には話をしてあるからな」


誰に聞かれたわけでもないのに、翔太が口を開いた。


「結果が出たら、すぐに慰謝料を請求する。相手の男からも取れるだけ取るつもりだ」


「その相手の男は、まだ見つかっていないのでしょう?」


美和子が冷たく尋ねた。


「結衣が吐けばわかります」


「存在するかどうかもわからない人間から、どうやって取るの?」


「今は強がっていればいいですよ」


翔太が鼻で笑った。


「証拠が出れば、態度も変わるでしょうから」


義父母は病室へ押しかけたときほど威勢がよくなかった。

義母は膝の上でハンカチを握りしめ、義父は落ち着きなく何度も座り直している。


当然だった。

彼らが想像していた結衣は、泣きながら許しを請う女だったはずだ。


ところが結衣は、弁解も懇願もしなかった。

取り乱すどころか、結果が出る日を静かに待っていた。


その態度が、義父母の中に小さな不安を生んでいるのだろう。


「一つ、確認してもいい?」


結衣が尋ねると、翔太が顔を上げた。


「何だよ」


「検査の結果、湊があなたの子供ではないとわかったら、どうするの?」


「決まってるだろ」


翔太は即答した。


「離婚して、慰謝料を請求する。お前と相手の男から徹底的に取る。子供のことは、お前たちで勝手にすればいい」


「では、あなたの子供だとわかったら?」


翔太は一瞬、黙った。


「そんなこと、考える必要はない」


「仮定の話よ」


「俺の子だったら、普通に家族としてやっていけばいいだろ」


翔太は面倒そうに言った。


「疑いが晴れるんだから、お前にとってもいいことじゃないか」


「私への謝罪は?」


「どうして俺が謝るんだよ」


翔太は、本気で意味がわからないという顔をした。


「慎重に確認しただけだろ。むしろ、お前は何もなかったって証明できるんだから、俺に感謝したっていいくらいだ」


美和子の表情が険しくなった。

義父母も、さすがに居心地が悪そうに視線を逸らす。


結衣はそれ以上、何も言わなかった。

翔太の発言も、机の上に置いたスマートフォンが記録している。


コンコン、と扉を叩く音がした。


全員の視線が集まる。


「失礼します」


担当医が、病院の相談員とともに入ってきた。

医師の手には、封をされた茶色の封筒がある。


「検査機関から、親子鑑定の結果が届きました」


翔太が勢いよく身を乗り出した。


「先生、早く読んでください」


「検査結果は、非常に重要な個人情報です。内容については、落ち着いて最後まで説明を聞いてください」


「わかってますよ」


翔太は笑った。


「俺は最初から落ち着いてますから」


医師が席に着き、封筒を開ける。

紙の擦れる音が、やけに大きく響いた。


数枚の書類を取り出し、記載された氏名と検体番号を確認する。


翔太は口元に笑みを浮かべ、結衣を見ていた。

早く謝る準備をしておけ。

その目は、そう言っていた。


医師が報告書の本文へ視線を落とした。

一度、言葉を選ぶように息をつく。

そして、静かに告げた。


「検査結果を申し上げます」


誰も動かなかった。


「父権肯定確率は、99.99%以上です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。