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行き遅れ子育てメイドは冷徹侯爵さまに玉砕前提のプロポーズをする!~「わかった、結婚しよう」って私たち初対面ですけど大丈夫ですか!?~  作者: 有沢真尋
【5】

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あのお美しい方ですね!

 ウォーレンは座ったまま姿勢を正して背筋を伸ばした。


「弟の行状に関しては、何か理由があって欲しいと思っている。もちろん女性を悲しませていたのであればそれは本当に申し訳ないことだ。何の咎めもなしというわけにはいかない。が、現時点では弟の行方がわからないので、女性側の話しか聞けていない状況だ」


 ああ、とアンナは納得するものがあって頷いた。


(悪い噂が先行していたために「被害者がたくさんいる」という先入観があったけど、言われてみればこれはそんな単純な話でもないわ)


 アンナはウォーレンの弟について何も知らないに等しいが、ウォーレン自身のことは少しだけわかってきた。そのウォーレンが釈然としない思いを抱えているのであれば、違和感は無視しないほうが良いと思う。

 立場上、ウォーレンは思いついても決して自分から口にはできないであろうことをアンナは敢えて言った。


「本人が出てこない限り、たとえ女性たちの中に騙(かた)りがいてもわからないですからね」


 顔をしかめつつ、ウォーレンは「そうなんだ」と認めた。


「実際に被害者だという女性がいて、弟の申し開きがない以上身内をかばうようなことは言えないが、女性たちが人の集まる場で騒ぎを起こしているのが気になっている。ただでさえミッドフォード侯爵家は先の流行り病の時に薬の開発に成功したことで『うまくやった』とやっかまれている。向いてくるその矛先をすべて受け止めていたのは、王都で実務に当たっていた弟マーカスだ。俺が領地で薬の改良を含め研究に打ち込めたのはあいつの手腕あってこそだ」


「まさか、陥れられてしまったのでは」


 反射的に、アンナはそう口走ってしまった。続けて「弟さんの安否は」と聞きそうになったが、ぎりぎりで自制した。

 それはおそらく、ウォーレンがもっとも気にしているであろうことだ。

 ウォーレンはアンナの目を見つめて、ゆるく首を振った。


「マーカスはただの失踪ではなく、何か失敗したのかもしれない。しかしそうなると、どこかにこの騒動の糸を引いている悪者がいることになる。証拠のないことを憶測だけで口にするわけにはいかない。いまの状況でできるのは、情報収集くらいだ」


 もしかしたら、とその口ぶりからアンナは閃くものがあった。


(情報収集以外にも、何か独自に動いているのかもしれませんね。この方がそこまで私に打ち明けることはないかもしれないけれど)


 力になりたいと思う。

 忙しい中で時間を割いてまでアンナに会う理由が「恋愛」のような不確かなものではなく、なんらかの目的に沿うものであるのならばアンナにもわかりやすい。

 望むところだ。利用してくれるなら利用してくれていいとあっさりと肚が決まる。

 アンナはさりげなく話を続けた。


「だから、せめてご自身で納得いくまで情報を集めるために女性側と接触しているということでしょうか?」


 当たり障りない話のつもりだったが、言ってしまってからアンナは「いけない」とすぐに後悔する。


(女性と会っていることについて、問い詰めているような口調になってしまったわ。私は口出しをする筋合いでもないのに)


 どうして黙って相手の話を聞いているだけで満足できないのかしら、と自責の念に駆られて俯いたものの、ウォーレンから「話の通りが良くて助かる」と言われて顔を上げた。

 ウォーレンは最前までの険しい表情をゆるめて笑みを浮かべていた。その顔からは、少なくともアンナへの不快は感じられなくて、アンナもまたほっとした。


「落ち着いて話してみると、女性たちの話にはどうも辻褄の合わない部分があったりして何かがおかしいと感じる。その意味で、情報収集はそれなりに効果を上げている。ちなみに、相手が女性であるだけに二人きりになるわけにはいかないので、話し合いの場には常に同席者がいる。そのうち紹介することも……あっ、そうだ。アンナさんは会ったことがあるな」


「ミッドフォード侯爵家関係の女性ですか? 私は普段全然ひとと交流がないので……」


 思い当たる相手がいないとアンナは及び腰になったが、ウォーレンは「違う違う」と笑いながら言った。


「初めて会った夜会の場で、プロポーズの場に居合わせた金髪の……」

「ああ、あのお美しい方ですね!」


 一瞬、ウォーレンは笑顔のまま言葉に詰まっていたが「……否定はしない」と呟いて話を続けた。


「弟と因縁のある相手ということで、侯爵家で客人待遇として迎え入れている。そのまま、情報収集の場に立ち会ってくれているんだ。彼(・)は常に俺とは敵対し、女性の側に寄り添う形で話を聞いてくれているんだが、なかなか役者でね。『それでそれで? なんて言っていたの? そんな愛の言葉を?』なんて相手から話を引き出してくれる。何度かさりげなく同じ質問を繰り返すうちに、証言の矛盾らしきものが出てきて」


 滑らかに話していたウォーレンが、ふと口をつぐんだ。


「どうなさいました?」


 不思議に思ってアンナが促すと「野暮で申し訳ないが」と断りを入れて胸元から懐中時計を取り出す。そして、盤面を示して楽しげに笑いながら言った。


「あっという間に時間が過ぎてしまう。デートをしよう。葉巻を入手して戻らないと、ミッション失敗にならないか?」

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