↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
行き遅れ子育てメイドは冷徹侯爵さまに玉砕前提のプロポーズをする!~「わかった、結婚しよう」って私たち初対面ですけど大丈夫ですか!?~  作者: 有沢真尋
【3】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/27

「お前のクワガタを見せてみろ!」「俺のクワガタを?いまここで?」

 廊下の真ん中で立ちはだかっているのは、仁王立ちのニコル。そして、そのやや斜め後ろには両腕を胸元で組んで斜に構えたように睨みをきかせているアンドレイもいた。


(お二人とも登場の仕方が悪役っぽい! あと「クワガタ好き」は正確な情報ではありません! 申し訳ありません!)


 せめて確認がとれるまで呼称にするのはお待ちください! と言いそうになったが、確認がとれたからと言って呼称にしてはいけないとアンナは思い直す。

 しかし、ではなんと呼べば良いのであろうか。ミッドフォード卿であろうか? と一秒足らずの間にあれこれ考えるアンナの横で、ウォーレンがのんびりとした声を上げた。


「俺のことだよな? よく言われるんだ。クワガタっぽいって」


 そんな会話がこの世にあるとは思えない。この顔及びパーフェクトな外見のどこをもってクワガタとの類似を語ると言うのか。それとも、両者ともに造形としてパーフェクトであるところが共通点ということなのだろうか?


(あっ、もしかして子ども心を尊重し、エクストリーム気遣いをなさってます!? どんなボケ(パス)も拾う(スーパーセーブ)……そんなのフォローの達人すぎるじゃないですか! もう絶対に「冷徹侯爵」ではありませんね。あの評判はなんだったのでしょう……!?)


 どうにかその話題を切り出したいアンナをよそに、ウォーレンはゆったりとした足取りで一歩前へと進んだ。

 制止を無視されたニコルが、眉間に皺を刻んで睨みつけてくる。

 よく見ると頬が強張っていた。ウォーレンの存在感に気圧されつつ、かなり虚勢を張って踏みとどまっているのかもしれない。


(わかりますよ。この方は顔立ちに迫力がありますが、体格にも恵まれていて接近されるとその背の高さに圧倒されるんですよね。私の身長差でこうなのですから、ニコルお嬢様にとってはかなりの脅威なのでは)


 悪意や害意のあるなしにかかわらず、知らない大人の男のひとに警戒心を持つのはニコルのような子どもには絶対に必要であるとアンナは思う。身の安全のためを思えば、逃げ出しても良いくらいだ。

 同じように考えたのかもしれない、弟であってもすでに男気溢れるアンドレイが「ここは自分が」とばかりにニコルより前に出てきた。

 ウォーレンを見上げて、びしっと指を差しながら厳しい声で言う。


「お、お、お前のクワガタを見せてみろ!」


 クワガタで迎撃する気のようであった。


「俺のクワガタを? いまここで?」


 ふむ、とウォーレンが考える仕草をする。


(なんという無茶ぶりを! 悪いのは私です。すみません。ついついクワガタ好きそうなんて印象で語ってしまって)


 全方位に謝罪して、クワガタバトルを幕引きにしてもらおう。そのつもりでアンナは発言しようとしたが、それよりも先にウォーレンが軽い口ぶりで答えた。


「惜しいな。今日はパラポネラしか持ち合わせがない」

「逆になんでそんな危険なアリをもっているんです? うっかり逃がしたら皆さんを危険に晒すことになりますよ」


 ノータイムで食いついてしまった。

 パラポラ……? とニコルとアンドレイが聞き取れなかったように呟くのをよそに、目に見えてウォーレンの瞳が輝きを増した。


「さすが、マンドラゴラは虫にも詳しいんだな。パラポネラを知っているのか」

「世界最恐のアリですね。針を持つ虫の中では、ハチを抜いてトップクラスの痛みがあると書物で見ました。どこに持ってきているんですか。預かることはできますか?」


 アンナが手を差し出すと、ウォーレンは上着の内側のポケットから小さな箱を取り出した。


「ここに来る前に、世界中で珍しい植物や虫を採取している知り合いに会って託されたんだ」

「何か理由があって引き取ったのだとしても、どこかに置いてくるべきだったと思いますよ。危険生物は公爵邸に持ち込むようなものではないです」


 スケジュールが詰まっていて、休む間もなく慌ただしく公爵邸まで来たのかと彼の境遇に思いを馳せつつアンナは箱を受け取った。

 濃いブルーのベルベットでコーティングされた小箱は、虫を入れるにしてはずいぶんとおしゃれな作りに見えた。

不思議に思いながらも、どこかに穴があっていきなりパラポネラが飛び出して来ると恐ろしいので「中をあらためても?」と尋ねる。

 ウォーレンは目に毒なほど魅力的な笑みを浮かべて頷いた。


「どうぞご自由に。それはアンナ・ギボンズに進呈する」

「あ、いえ、没収するつもりではなくお帰りの際にきちんとお返しします――」


 言いながらぱかっと開けて、アンナは目を瞠った。

 青い宝石のはまった耳飾りが二つ、煌めきを放ちながら収まっていた。


「……パラポネラ? パラポネラ?」


 うわごとように繰り返すアンナの前で、ウォーレンはいたずらっぽく目を細めた。


「攻撃力の高さがパラポネラ。今日ここに来る前に世界中の珍品を集めている知り合いに会ったのは本当なんだけど、婚約者の元へ何か持参したほうが良いのだろうかと聞いたらこれをすすめられた」


 さらっと言われて、アンナはもう一度彼の言葉を思い出す。


(「アンナ・ギボンズに進呈する」と言いましたか? 「婚約者」?)


 もしかしてこれは自分へのプレゼントなのだろうかと慄くアンナの横に、アンドレイが素早く走り込んできた。


「クワガタでもパラポラネラでもないだと!?」


「パラポネラ。そうなんだ、悪いな。『お前のクワガタを見せてみろ』というのは『お前のとっておきを見せてみろ』という意味かと思ったんだけど、俺の今日の奥の手は正真正銘これだけだよ。クワガタはまた今度」


 実にスマートに詫びるウォーレンにそれ以上食い下がることもできないようで、アンドレイは「うっ」と歯を食いしばっていた。

 その背後で、ニコルが苦しげに胸を押さえていた。「え?」と二度見してから、アンナは思わず「衛生班!」と声を上げてしまう。いるならいまこそ来て欲しい。

 ニコルは苦しげなまま笑みをアンナに向けてきて「平気よ、ちょっと胸が苦しいだけ」と言った。


 首を傾げたウォーレンが「大丈夫か?」と言いながら近づく。その指先が軽く手に触れた瞬間、ニコルは「きゃああああああ」と盛大な悲鳴を上げて背を向け、走って逃げ出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。