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57.「玉虫色の決着」

 生徒会室を先に出ていった生徒会長の叶美香と神宮司楓。

 楓先輩が過去生徒会に所属していたのは初耳だったし、パン研の不正会計に関しては玉虫色の決着に終わる。


 俺が言いたかったのは生徒会はここ2年間、パン研の会計処理に適正意見を出し続けていた事実。


 たまたま発見した2年前のパン研会計報告書。

 そこには生徒会会計担当、叶美香と神宮司楓の名前が載っていた。


 消滅必死と思われたブラックカンパニー、パンダ研究部はひとまず窮地を脱したように見える。

 



「ふみ~ん。良かったよ~もうダメかと思ったよ~」

「しっかりしなさい夕子、あんたはまったくもう……。それにしても高木、よく言ってやったわね」

「何がです姉さん?」

「私も聞いてて気持ち良かったわよ。まさか楓と一緒に生徒会長みずから、このズサンな会計報告認めてたなんて」

「部費使い込んでた共犯は僕も真弓姉さんも一緒ですからね」

「そうね~これからはちゃんと帳簿を付けましょう。分かったわね夕子」

「ふみ~ん」



 パンダの研究にしか興味がない南先輩。

 なんでもすべて部長に押し付けるのも申し訳ない気がする。


 部室も旧図書館も自由に使わせてもらってる。

 基本南先輩が悪い人ではないのは俺が一番よく知ってる。



「南部長はこれまで通り活動していただいて結構ですよ」

「高木君?」

「俺バイトで会計勉強してるんで、会計帳簿なら俺が作りますよ」

「本当?」

「たった6人の部活ですから、年一の報告書なんてシレてますって。南先輩は何か部費を使ったら領収書だけちゃんと保管しておいて下さい」

「でも高木君にやらせるのは申し訳ないし……」



 年に一度の会計報告くらいなら勉強の邪魔にもならないだろう。

 パン研の会計担当、これならいくらか南先輩の負担も軽くなるだろう。



「そうしなさい夕子。あっ高木、野球部でも使ってる会計ソフトあるからそれ使って。年に1回溜まった領収書を打ち込めば印刷してすぐに会計報告出来るわよ」

「そんな便利なソフトあるなら手で書かなくてもいいですね。お願いします姉さん」


 

 手書きを覚悟していた会計報告。

 真弓姉さんの申し出はありがたい。



「今度うちに来た時に渡すね~。今日はカッコ良かったし、最近デキる男になってきたわね」

「おだてても何も出ませんよ」

「夕子こんなだし、高木が一緒にいてくれて良かった、ありがとね」

「え、ええ」



 珍しい真弓姉さんからのお褒めの言葉。

 生徒会とのドタバタが一段落。

 

 太陽たちが待っている旧図書館の部室に3人で戻る。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「岬、お前も来た方が良かったぞ。アデューだぞアデュー」

「馬鹿じゃん」

「生徒会かぁ~俺にはまったく縁がねえな」

「大変だったね高木君」



 事前にスケジュール合わせをしていた通り、計画的マックへやってきた朝日太陽、成瀬結衣、岬れな、俺の4人。


 駅前にあるマクドナルド2階のいつもの席。

 以前は空席だった俺の隣の席には、今は岬が座っている。


 勉強とバイトばかりの俺のスケジュールを見かね、太陽の発案で全員が空いている日程で計画的にマックに行く。


 バカみたいな話ではあるが、クラスも部活もバラバラな俺たち4人には意外にマッチしていると感じる。



「俺が戻った時、神宮寺もういなかったな」

「葵さんの方なら楓先輩が連れて行ったぞ」

「楓先輩、生徒会長連れて来ちゃってビックリしたよ」

「マジか」


 

 楓先輩は生徒会室で別れたあの足で、パン研の部室にいた妹の神宮寺を迎えに行ったようだ。

 確かにお茶会が何とかって言ってたな。


 ああいう学内の危険人物とは、なるべく関わらないようにヒッソリと生きていきたい。



「そういえば、なんでパンダ研究部だけ臨時で会計監査だけあったんだろうね?」

「成瀬の言う通りだなシュドウ。そもそもなんで今日生徒会に呼ばれてたんだ?」

「昼間部長と岬の3人で部室にいたら、生徒会の何とかって人がいきなり来たんだよ」

「あんた目付けられたわね」

「目を付けられたのは部長だろ?」

「どうだか」



 確かに、言われて見れば少なくとも2年間放置されていたパンダ研究部の会計帳簿に対していきなり監査が入るのは不思議な話。


 1年生の俺たち4人には、その理由を知るよしも無い。



 話題は変わり、野球部の話。

 太陽と成瀬の話では、今度の日曜日は野球部の練習試合が予定されているらしい。



「じゃあ土曜日バイト頑張って日曜試合応援行くわ」

「本当かシュドウ?」

「また投げるんだろ太陽?今度は打たれるなよ」

「ああ、次は絶対抑えてやるぜ」

「じゃあ日曜わたしも行く。あんた土曜日バイトね、何時から?」

「9時から夕方まで」

「オッケー」



 野球部マネージャーの成瀬は日曜日試合に帯同。

 岬とバイトのシフトを合わせる。

 同じ学校だと簡単にスケジュールも合わせられる。

 隣町の公立高校に行っていたら、こんな日常は叶わなかっただろう。


 今日も色々な事があった。

 部活も友達も大事だが、俺が全力を注ぐ必要があるのは1にも2にもテストの予習。


 未来ノートには来月の全国模試とは別に、英語や数学の小テストが1ページ目から新たに表示されていた。


 小テストではこれまでいくつか予習ミスした問題もいくつかある。

 この前あった中間テストの結果はもう忘れよう。


 冷静に考えれば、今の俺の立ち位置は断崖絶壁。

 全国模試に続いて期末テストを赤点取れば、S1クラスへの昇格どころか、学費が多額に発生する総合普通科への転落もチラつく。


 S1に上がれば、S2降格というワンクッションの予防線が生まれる。

 失敗が許されない俺にとって、それは重要な意味がある。


 俺は未来ノートが未来永久、高校卒業まで未来の問題を見せ続けてくれるとは思っていない。


 ある日突然、未来の問題が表示されなくなる恐怖……。


 ……対策はない。


 唯一この恐怖への対策は、点を取れるうちに取っておく事だけ。


 俺は誰にも言えない、未来ノート所持者にしか分からない、見えない恐怖と戦い続けていた。









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