58.「そうだ京都へ行こう」
生徒会が臨時に実施した会計監査。
生徒会室という名の裁判所で、存在すらしない南部長の会計帳簿は大炎上。
元々お友達だった楓先輩の弁護が効いたのか、南先輩が3度の飯より愛するパンダ研究部は消滅の危機を脱っしたと俺は勝手に思ってる。
結果はどうなったのか、部員である俺だが正直そこまで興味がない。
パン研が消滅すれば、また新しい自習室を探すまで。
無いなら無いなりにやる。
お金も彼女も夜遅くまで帰ってこない旦那も、無いなら無いでなんとでも生きていける。
人生あきらめは重要。
「アホヅラ」
「誰が山ピーだって?」
「死ねし」
会計監査の翌日。
S2クラスで次の授業が始まるのをボーっと待っていると、いきなりハリネズミのハリがビシビシ突き刺さる。
「優等生様、さっきの小テストは?」
「全然自信ない」
「また嘘ばっかり」
「本当だって。そういう岬は出来たのか?」
「あんま自信ないかも……」
「一緒じゃねえかよ」
先ほどの授業で英語の小テストが実施された。
問題は事前に分かってる。
ただ答えとなると、いくら頑張って翻訳しても正解している確証は一切ない。
文法問題なら問題集からいくらでも類似問題が拾える。
英語最大の難関は、1にも2にも長文問題だ。
さすがの岬も今日の英語の長文問題には苦戦したようだ。
俺と違って実力のある岬ですら自信が無いと言ってる。
この俺に自信などあるはずがない。
小さい頃から英語を習っている幼馴染の成瀬。
彼女がもし未来ノートで未来の問題を把握出来たなら、俺と違って完璧に模範解答を仕上げてテストに取り組む事ができるだろう。
そう、彼女なら……。
「ちょっと宜しいですか?」
「だから俺は山ピーじゃないって……」
「うちじゃないし」
「えっ?あっ……」
「どうも~」
どこかで見た事がある2人。
昨日昼間、パン研に臨時の会計監査に来た生徒会の女子2人組。
岬はこの2人を見ると、途端に口がだんまり。
ソリが合わないのは分かるが、話し相手が俺だけになってしまう。
「生徒会の桐生沙羅です。S1クラスだよ、よろしくね」
桐生……この子は生徒会で会計担当をしている女子。
S1クラスの生徒だったのか……しかも1年生で、成瀬と同じクラス。
ショートカットでボーイッシュな女の子。
性格も明るそうで、ボッチの俺にも気軽に話しかけてくる。
「ほら美雪、早くお話しないと休憩時間終わっちゃうよ?」
「分かっています」
この桐生って子の隣にいるのも、俺と同じ1年生なのか?
凛とした雰囲気を漂わせ、透き通るような声が耳に響く。
隣にいる女子とは対照的な性格だが、美少女過ぎるにもほどがある。
普段ボッチの俺がお話する事がまず無い女の子。
名前は……覚えてない。
テストに出ない事は基本覚えようとしない俺。
誰だっけこの子?
「宜しいでしょうか高木さん」
「えっと……誰でしたっけ?」
「……一ノ瀬です」
「いい加減名前覚えろし」
「こんな可愛い子、俺の知り合いにいないって」
「はは、良かったね美雪。可愛いだって」
「桐生さん」
S2クラス、一番後ろ中央の席に座る俺。
岬も含めて女子3人に囲まれた。
一体何をしに来たんだこの子たち?
「あなた……よくも私を利用してくれたわね」
「えっ?なんですそれ……」
「私に会計監査でわざと不適切意見を出させた事よ。おかげで叶生徒会長の顔に泥を塗ってしまったわ」
「美雪、お話したいってそれの事?」
「桐生さんはお黙りなさい。高木さんはああなる事が分かってて私を泳がせたんです」
どうやら昨日の生徒会室での一件が気に触っている様子。
第一印象最悪。
可愛い女の子から嫌われる天才だな俺は。
「それは生徒会長と楓先輩の責任ですよ。一ノ瀬さんは優秀です、見事にうちの部の不正会計を見抜きましたよね」
「あなたは頭が良いから、そうやってワザと私をおとしめたんでしょ」
「まあまあ美雪、そんな怒らない」
「そうですよ。そんな怒ってたら岬みたいに顔にシワが……痛たたたたたっ!?」
「あんたはいつも一言余計っしょ」
「痛い!痛いから、ツネるなって岬」
女子たちから非難殺到。
突然やってきた女子から文句を言われるわ岬にツネられるわ。
テストの点以外は平均以下で生きる俺。
一ノ瀬さんは言いたい事を言って気が済んだのか、岬に攻撃されている俺を見て呆れている。
「変な部活には入ってるし、こんないい加減な男子がなんで満点なんか取れるのかしら……」
「こいつがパン研入ってるの、旧図書館で自習できるからっしょ」
「えっ?」
「部活中もずっと勉強してるし、動物園行っても行きも帰りも待ち時間も勉強してるし」
「そんな事してたの……」
「それバラすなって岬」
「ラクして満点取ってるわけじゃないのは私が一番よく知ってる」
「さすが岬。俺の事よく分かってる」
「そしてこのアホヅラ」
「それ余計だって」
「あはは。君たち面白いね~ねっ美雪」
「面白くなんて……ありません」
そう言い残して、一ノ瀬さんはS2クラスから1人出て行く。
一緒にいた桐生さんが俺と岬に声をかけてくる。
「ごめんね突然。あの子、超が付くほど真面目だからあんな風にしか言えなくて」
「生徒会に入るために生まれてきたような女の子ですよあの子」
「はは、それ言えてる。美雪に言っとくね、じゃね~」
本当に桐生さんという女子は性格が明るい。
裏表が無さそうな性格。
岬も黙って自分の席に戻っていく。
もうすぐ次の授業が始まる時間だ。
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今日、俺は不幸の真っただ中にいる。
とにかく朝からツイてない。
昨日生徒会長にタメ口叩いた事でバチが当たってしまったようだ。
朝から突然襲来した生徒会の……えっと……名前なんだっけ?
とにかく可愛い女の子に文句を言われるわ……。
岬も俺を褒めているのかケナしているのか分からない。
お昼休憩を迎えた俺にさらなる悲劇が訪れる。
『ようシュドウ、おはようさん』
『もう昼だって太陽……なにその手紙?』
『真弓先輩から、お前にだってさ』
『そんな危険物持ってくるなって。無かった事にして捨てちゃおうぜそれ』
『ちょっと高木君、お姉ちゃんに言うわよ』
妹の成瀬がいる前で、さすがに姉の真弓姉さんからの手紙は捨てられない。
渋々手紙を拝見する。
どうせロクな事は書かれていないはず……。
……
………
……………
『高木守道殿。あの写真をバラされたく無ければ至急校庭中庭、噴水前まで来られたし。さもなくば、あなた様の人としての尊厳は永久に失われ……』
………はいはいはいはい。
………行きます行きます、すぐに行きますから。
くそ……。
俺の天敵、成瀬真弓……。
幼い頃のお茶目な俺の弱みを握る最も面倒な女……。
指定場所の校庭中庭とか、いつものお茶会やってる場所に決まってるだろうに。
呼び出し方がヒレツ過ぎる。
なんて非人道的なんだ。
渡り廊下から繋がる石畳の通路。
3年生が住まう校舎の中庭、そこは1年生が立ち入れない作新高校の桃源郷。
噴水前までもうすぐ。
指定された処刑場に到着。
俺のギロチンはもう目の前。
「あっ、高木こっちこっち」
死刑執行人、成瀬真弓。
俺の顔を見て笑顔で笑っている。
「もうちょっと普通の呼び出し方できないんですか姉さん?」
「あっちの方がインパクトあるでしょ?ほら~すぐ飛んできた」
「野球部の後輩パシりにさせて何やってんすかあんた」
「ごめんごめん。太陽君、私のお願い何でも聞いてくれるの」
「そりゃ姉さんに言われたら何でもしますよあいつは」
真弓姉さんは野球部のマネージャー。
しかも3年生。
1年生球児の太陽に「逆らう」という選択は存在しない。
「ごめんなさいね守道君。葵ちゃんが一緒にお話したいって聞かなくて」
「楓先輩も僕の呼び出しに絡んでたんですか?先輩ちょっと妹に甘すぎますよ」
楓先輩の隣に座る神宮司。
3人とも人魚座り……あ~もう無理だ、目のやり場がない。
この桃源郷は俺のいるべき場所じゃない。
「……僕用事が済んだらパン研帰りますんで」
「まあゆっくりして行きなさいよ高木。葵ちゃんお話あるんでしょ?」
「うん、シュドウ君」
「なんだよ神宮司……」
この子はこの子で……いつも通り可愛い笑顔で俺に話しかけてくる。
今日の俺はとにかくツイていない。
最近生徒会からも絡まれ始めた。
楓先輩は生徒会長とお友達の可能性もある。
ここにいると学校の危険人物が近寄ってくる。
要件を早く聞いて、この場からすぐに立ち去る事にする。
「国立博物館でね、あれ始まったよ」
「あれ?」
また不思議な事を言い始める妹の神宮司。
国立博物館……鳥獣戯画展はもう終わったはずだよな……。
……ああ、そういえば次は宇宙が始まるんだったな。
「スターウォーズ展か、それがどうした?」
「一緒見に行く?」
「なんでそうなるんだよ」
「う~ん……この前一緒に見に行ってくれたから?」
「別にいいよこの前の事は。俺勉強で忙しいんだから上野まで行かないって」
「う~ん……そっか……」
はた目にも残念そうな顔をする神宮司。
申し訳無いが俺は女の子と日曜日に博物館を回っている余裕はない。
「用は済んだな、じゃあ俺はこれで……」
「シュドウ君、あのねあのね」
「今度はなんだよ」
「葵ちゃん。そのお話……お姉ちゃんちょっと恥ずかしいかも……」
「楓先輩?今度は何をしたお前?」
「えへへ」
不適な笑み……。
嫌な予感しかしない……。
後から聞いても今聞いても俺の不幸は変わらない。
だったら今聞く。
「……とりあえず聞く、言ってみろ」
「古典の世界っていう特別展が始まったの」
「ふ~ん、良かったな。お前そういうの好きそうだしな」
「それでね、一緒に見に行こうかなって」
「ふ~ん……ん?誰といくつもりだお前?」
「シュドウ君と」
「なに言ってんだよ、おかしいだろそれ?お姉さんと行けよ」
「だってお姉ちゃん、遠いから一緒に行けないって」
「葵ちゃん、さすがに京都まではお姉ちゃん遠くて……」
「京都!?行くわけないだろそんな遠くに」
「だって~」
「だってもクソも無いよ」
「ふふ」
自由過ぎるこの子の行動と思考。
なんで真弓姉さんも楓先輩も妹を止めようとしない?
2人とも微笑ましい顔で妹の様子を見守っている。
楓先輩に至っては笑顔で笑い出す始末。
俺は全然微笑ましくない。
「それでね」
「まだあるのかよ」
「お父様にね」
「ちょっと待て。なんでそこでパパが出てくるんだよ?で、なにしたお前?」
突然のパパの登場。
絶対マズい予感しかしない。
「言ったの」
「何を」
「シュドウ君と一緒に行っても良い?って聞いたらね」
「言っちゃったのかよ。なんて事してくれたんだよ」
「なんで?」
「なんでじゃないよ。そういう重大な決定は俺の許可を取ってから言えって。で、どうなった?」
「お父様ビックリしちゃってね。お食事してたお皿が落ちちゃって割れちゃってもうビックリ」
「そんな事になってるの知った俺がビックリだよ。なんて事してくれたんだよお前」
「ふふっ」
「笑い事じゃないですよ楓先輩。一緒にそこに居たんならこの子ちゃんと止めて下さいよ」




