17.「理想のカップル」
校舎の渡り廊下で成瀬姉妹と別れ、図書館の入口までたどり着く。
未来ノートの模範解答作り、もはや作業だ。
今日は色々な人に出会い、色々な感情を持った。
あの『源氏物語』大好き美少女、名前は神宮司葵が本名らしい。
姉も同じ苗字のはず。
という事は姉は神宮司楓。
どちらも超がつく美人の女の子。
まさか成瀬の姉さん、成瀬真弓にまで出会うとは、今日の俺は運が悪い。
野球部のマネージャーやってるって言ってたな。
まだ高校で入る部活を決めていないと言っていた成瀬。
もしかすると、姉と同じ部活に入る事も十分ありえるだろう。
そうなれば太陽とはお似合いのカップル。
エースとマネージャー、これ以上ない組合せ……か。
本当は太陽も成瀬の事が好きで、俺に遠慮して成瀬の告白を断っただけの話。
時間が経てばあの2人はいずれくっつくだろう。
すでに成瀬の気持ちは知っている。
俺は勝手にそう思ってる。
「あっ、神宮司泣かせた馬鹿な男いた」
「ん?なんだよお前……どっかで見たな」
「同じクラスだっつうの」
随分と口が悪い女だな。
髪の毛茶色いし、校則違反だろ?
未来ノートの不正行為に手を染める俺が、作新高校の校則だけは厳守しようとする。
図書館で本の試し読みは2冊まで。
この校則を守ったせいで、俺はこの子の言ってる神宮司と出会ってしまった。
「同じクラス……あれ?お前はカラオケ行かないのか?」
「行くわけないっしょ。つるむとか、マジだるいし、そんな事してる場合じゃないし」
一匹オオカミ的な女がS2クラスに混ざっていたらしい。
遊びを知らない他のガリ勉女子たちは、今頃人生初のカラオケで盛り上がっているに違いない。
「あんた、あんな好き勝手言ってて平気なわけ?」
「うるさいな。俺が何か馬鹿な事でも言ったか?」
「そうよ、馬鹿じゃん」
俺をストレートに馬鹿にしてくる。
一体こいつは何者なんだ?
「理事長の娘」
「えっ?」
「ほらやっぱり、知らなかったし」
「理事長の娘って……誰が?」
「本当、馬鹿」
理事長ってなんだ?
長がつくから偉い人には違いないだろうが……神宮司を泣かせた馬鹿な男……理事長の娘……。
俺、もしかして……とんでもない女の子を泣かせてしまったのか?
「……偉い人の娘なら、なにやっても良いってわけじゃないだろ」
「S2にいるあんたと私。S1ともうすでに差付いてんの。実力テスト、あんた出来たわけ?」
「……いや、そんなに」
「話になんないっしょ」
そう言い捨てて彼女は先に図書館の中に消えて行った。
S1とは差がついている……。
カラオケに行ってる場合じゃない。
そんな事してる場合じゃない。
口の聞き方はともかく、彼女は自分の実力をわきまえて行動しろとでも言いたいのかも知れない。
その証拠に彼女が向かった先は、カラオケボックスではなく、俺と同じ図書館だった。
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夕方。
バイトの時間が迫り、俺はあわててバイト先のローソンに向かう。
作新高校の門を抜ける。
明日の小テストの対策は何とか大丈夫と言ったところ。
模範解答が無い未来ノート。
カンニングの定義は分からないが、俺のやってる事は広義にこれに当てはまるだろう。
この未来ノート。
もしかすると日本で俺以外に何人もノートを所持している可能性は十分にある。
もし俺以外に……。
俺の隣にいるかも知れない別の誰かがこのノートを手にしたとして。
一体何人の人間が俺と違い、このノートを捨てる事ができるだろうか?
俺は太陽と成瀬に追いつきたくて、この悪魔のノートに手をかけてしまった。
このノートは一度使うと2度と手放せなくなる悪魔のノート。
このノートを手放した瞬間、俺の今の日常はすべて壊れてしまう。
バイト先に到着する。
今日バイトが終わったら太陽の家に寄る。
明日の小テスト、予習は十分できている。
昨日は実力テストの予習でかなり無理した。
今日は太陽の家に寄って帰ったら、早めに休む事にしよう。
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バイトが終わり、ローソンを後にする。
売れ残りの弁当とからあげ君を店長から渡された。
弁当は家に帰って食べる事にする。
食費も浮いて助かる。
太陽の家に向かう。
時間は夜9時過ぎ。
さすがに太陽も家にいるはず。
太陽の家に到着すると……玄関の前で話し込む男女の姿。
女の子が振り向く……成瀬だ。
成瀬は俺に気付くと、慌てた様子で何かをカバンに仕舞い込む。
俺にお辞儀を一度して、無言でその場から走り去ってしまう。
何か俺、タイミング悪かったのかも……。
玄関前に立つ太陽と目が合う。
「悪い太陽、俺今来ちゃいけなかったな……」
「そんな事ねえよシュドウ。来るのは結衣から聞いてた」
「そうか……」
「なあシュドウ」
「お、おう。どうした?」
「ちょっと俺に付き合わないか?」




