18.第2章最終話「太陽の本心」
太陽に誘われて、太陽の家の近くにある公園に場所を移す。
公園のベンチに2人で座る。
夜空に綺麗な星が輝いている。
「食うか?」
「食う食う。分かってるなシュドウ、サンキュー」
「おう」
店長からもらった売れ残りのからあげ。
夜にも関わらず、太陽もからあげに余裕でがっつく。
俺もついでに一つ食べる。
高校生になっても太陽とこうしていられる事は嬉しい。
この高校に来て良かったと感じられる瞬間。
無言で走り去った成瀬の事が気になるが、今は話題に出さない方がいい気がする。
今日俺がここに来たのは、太陽の入部テストの結果が知りたかったから。
人から聞くのは違う気がした。
結果がどうあれ、親友の人生を左右する結果は直接本人から聞きたかったからだ。
「どうだった結果」
「バッチリ、明日から一軍」
「マジか、すげえな太陽」
「まあな」
甲子園の常連校。
作新高校の野球部に一年生から一軍なんて普通の努力じゃ到達できないはず。
頑張ったな太陽。
「やったな」
「おう」
俺たちの会話はこれだけ。
これだけで俺たちは分かり合える。
それだけ聞けて今日俺は満足した。
ここに来た目的は果たせた。
太陽は何か話があると言ってたな。
一体なんだろう。
「シュドウ……俺、実はお前に言えなかった事があったんだ」
「そんなの俺にもたくさんあるよ。どうした?」
言いにくい事なのか、太陽も発言に躊躇している。
公園には灯りが一つだけ灯る。
街灯1つに照らされる薄暗い夜の小さな公園。
薄明りの中で太陽は神妙な表情を浮かべていた。
「俺さ、お前が隣町の公立高校行くって言った時、一緒に行くって言わなかっただろ?」
「そんなの当たり前だろ?作新高校だぞ?俺がお前でも絶対そうする」
「そうか……」
「当たり前だろ?そんな事気にしてたのか?」
「ちょっとな」
「ちょっとかよ」
太陽の顔に笑みがこぼれる。
こんな風に相談されるのは小学生以来だな。
小さい時は俺が太陽から相談される事の方が多かった。
中学に上がってからは、ずっと立場が逆転していたように感じる。
気持ちが楽になったのか、太陽はいつもの軽い口調で話を始める。
「実はな、俺、どうしてもここの野球部に入りたい理由があったんだ」
「えっ?」
「お前にも、誰にもずっと話せなかった。すまんシュドウ」
「あ、ああ。別に良いって」
思いがけない太陽の告白。
野球部に入りたい理由って、甲子園に行く以上の事でもあるのか?
「甲子園は当然行きたい。野球やるやつなら当たり前だ」
「そ、そうだよな……」
「……シュドウ。俺、最低の男なんだよ」
「お前が最低の男になったら、俺はマイナス突き抜けるだろ」
「あはは、違いねえ」
「違わないのかよ」
お互い自分の事を弱い人間だと言い合ってきた。
自分の弱さを相手に伝えられる。
俺と太陽はそういう関係だとお互い信頼している。
だからこそ。
そうだからこそ。
太陽の本心に、俺はこの世界で唯一気づける立場の人間になっていたのかも知れない。
「楓先輩?あの3年の神宮司楓?」
「さすがだなシュドウ、知ってたか」
「知ってたも何も、偶然今日成瀬と一緒に会って話したんだよ」
「そうだったのか。それでな……」
まさかここで楓先輩が話に出てくるとは予想すらしていなかった。
たしかに楓先輩、成瀬の姉さんの成瀬真弓と2人で野球部のマネージャーやってるって成瀬が言ってたな。
太陽は野球部だし、楓先輩の事を知っていて当然だ。
「中学の試合の時に偶然会ってさ。まあ、なんだ。一目惚れ……だな」
「そうだったのか。楓先輩、超が付くほど美人だもんな」
「だろだろ?分かるかシュドウ」
「お前じゃなくてもそりゃ憧れるな……それで作新に?」
「ああ……」
中学で成瀬と3人で遊んでた頃から、太陽は甲子園に行く目標以上に作新高校を目指す動機があったんだな。
隣町の公立高校に行く事は出来ない理由が太陽にはあった。
それで少し俺に引け目を感じてくれていたようだ。
「このスケベ野郎が」
「うるせえよ。それでな……1軍決まったこのタイミングでアタックしたんだよ」
「マジか?玉砕だろ」
「半分上手くいって、半分上手くいかなかった」
「なんだよそれ」
太陽は野球部の1軍に選ばれた今日、楓先輩に想いを告げたようだ。
最初断られた太陽は粘った。
中学からずっと先輩に憧れて、ついには作新高校に来た想いを伝えた。
それが実り、最後に発した言葉を受け止めてくれたと言う。
「甲子園に?」
「ああ……連れて行ったら付き合ってくれるって言ってくれたんだ」
「俺と一緒で無謀な挑戦する気か太陽?」
「ああ。だけど俺、行けると思うんだ。それを証明してくれたのはシュドウ、お前なんだよ」
「あ、ああ……」
俺は全国から5000人も受験する作新高校の一般入試。
その30人枠に見事に合格出来た。
そう、悪魔のノートの力を借りて……。
「お前が作新合格した時、俺は心臓が飛び出るかと思ったぜ」
「まったく信じてなかったなお前?」
「すまんシュドウ。正直、絶対無理だと思ってた」
「お前、全然奇跡信じてないじゃないかよ」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ信じてた」
「ちょっとかよ」
ハタから見れば奇跡的な合格。
皮肉にもその俺の成功を、太陽は自分にも出来ると心の支えにしていると話す。
「動機はどうあれ、それで練習頑張れるんだろ?」
「そうなんだよ。俺、最低の男だろ?」
「別にやましい事だとみじんも思わないよ。俺だって、作新入りたかった理由がお前と成瀬、3人で同じ高校入りたかった。ただそれだけの理由だぜ?でも死ぬ気で頑張れたのは、お前と成瀬のおかげなんだよ。理由は大事だ、俺はそれを尊重する」
「シュドウ……お前、昔から本当、俺を裏切らないな」
「甲子園目指して練習頑張れよ太陽。負けたら俺がからあげ君持って来てやるからな」
「そんなからあげ君ならいらねえよ……サンキューなシュドウ」
言いたい事を言い終えたのか、太陽の表情はすこぶる晴れやかになる。
思いのほか長い時間太陽と話していた気がする。
俺は太陽と公園で別れる。
太陽は青春してるな。
これでますます練習にも身が入るはず。
今日は太陽の本心に触れて。
それを俺に話してくれた事が凄く嬉しくも感じた。
さて。
家に帰って弁当食って、今日は早く寝るかな。
―――あれ?
―――今になって自分が何を聞いたのか冷静に振り返る。
―――成瀬の話がどうして出てこない?―――
成瀬が太陽を好きだと言ったのは今年の1月。
太陽が楓先輩に憧れて作新高校を目指したのが……中2だった去年の話……なんだよそれ。
って事は……太陽は成瀬に告白された時点で、もうすでに心に決めた人がいた事になる。
俺が成瀬を好きなのを知っていて、わざと振ったわけじゃ……そうじゃ無かったのか……。
確かに太陽は成瀬が好きだなんて、一言も発言した事は無かった。
想い恋焦がれる人がいたから。
太陽は成瀬の告白に対して、気持ちには答えられないと言っていた。
俺が成瀬の事が好きで、知っててわざと振っただろと聞いた時も……そんなつもりは無いと言っていた。
太陽は何も嘘をついていない……。
……ヤバいかも俺。
恋愛偏差値が低すぎる。
人は人の心を勝手に動かす事は出来ない。
人は他人の行動や言動で、勝手に自分自身の心が揺れ動いていく。
俺、勝手に太陽は成瀬の事が好きだと、成瀬の告白以前からずっとずっとそう思い込んでいた。
太陽は俺のために成瀬の告白を断ったと勝手に信じ込んでいた。
そんな事、太陽は今まで一言も言ってない。
全部俺の勘違いだし、太陽の考えていた事を俺は今日初めて知った。
あの日の衝撃的な告白。
成瀬のあの告白は……彼女の一方通行の片思いに過ぎなかった。
第2章<夢と現実> ~完~
【登場人物】
《主人公 高木守道》
平均以下で生きる平凡な高校男子。あだ名はシュドウ。ある事がきっかけで未来に出題される問題が表示される不思議なノートを手に入れる。県下随一の進学校、作新高校特別進学部S2クラスへの入学を果たす。
《朝日太陽》
主人公の大親友。小学校時代からの幼馴染。スポーツ万能、成績優秀。中学では野球部に所属し、3年間エースとして活躍。活発で明るい性格の好青年。作新高校1年生、特別進学部SAクラスに所属。
《成瀬結衣》
主人公、朝日とは小学校時代からの幼馴染。秀才かつ学年でトップクラスの成績を誇る。作新高校1年生、特別進学部S1クラスに所属。
《成瀬真弓》
成瀬結衣の姉。作新高校3年生。野球部のマネージャー。幼い頃から主人公の天敵。
《神宮司葵》
主人公と図書館で偶然知り合う。作新高校1年生、S1クラスに所属。『源氏物語』をこよなく愛する謎の美少女。
《神宮司楓》
現代に現れた大和撫子。作新高校3年生。野球部のマネージャー。誰もが憧れる絶対的美少女。神宮司葵の姉。




