16.フィンセント
"フィンセント"
皇国の西に位置するその都市は"花の都"と呼ばれていた。
「一面まっ黄色ですよ!エド!」
「ええ、見事なものですね!」
二人はフィンセント周辺に広がるひまわり畑を眺め、夏に入りギラギラと照りつける陽射しに向かって必死に首を伸ばすその花に、感嘆の声をあげた。
クロードを発ち一週間程後に二人はこの都市にたどり着いた。久しぶりにゆっくりできそうなことに、二人は少しほっとしていた。しかし、のどかな光景とは裏腹に暗い影は二人のそばまで近づいていた。
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「街の中もお花でいっぱいなんですね!」
しばらくして、街の中を見回しながらソールは微笑む。
「なんだかお祭りのような雰囲気ですね。賑わっているのでこの辺りで笛を使ってみましょう。もっとも見込みは薄いと思いますが…」
そう言うとエドは、"夜切笛"を取り出し、音の無い音を奏でた。
そして、笛が僅かに震えた。
「姉上、今晩用事ができました。姉上は宿でお待ちください。何かあればその笛を吹いてください。」
いくつかのメッセージを王国の間者との間で交した後、エドはそう告げた。
「分かりました。あなたも十分気を付けてください。」
ソールはクロードでエドに貰った無骨な笛を握り締めながら強く頷いた。
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「この辺りか」
その夜、ソールを宿に残してエドは、人気のない路地裏に来ていた。
「エドワード様!よくぞご無事で!正直、罠かと思っていました。」
ふらりと路地裏に現れた白髪の男が、驚きの声を上げる。
「申し遅れました。ダリルと申します。ここ一ヶ月程の間にほとんどの仲間と連絡が取れなくなっていましたから、相当疑っていたのですが…本当に生きてらして…良かった!」
「ありがとうございます。ダリル殿。エドワードと申します。私も他の街で仲間と出会うことができなかったのでかなり警戒していたのですが、どうやら本物のようで良かったです。」
「早速ですが、計画を話させていただきます。お二方は明日の朝この街を出発して下さい、三日後までにここから西に200、北に40のところにある皇国の砦に到達してもらいます。場所はこちらに。」
ダリルはエドに地図を手渡した。
「三日後、王国の兵がこの砦を攻めます。お二方は王国の兵と合流してもらい、兵達とともに王国へと脱出して下さい。」
「分かりました。ダリル殿は?」
「私はこの後直ぐに王国に戻りこの作戦の準備をしてまいります。道中はお供できませんが、あちら側でお待ちしております。必ずやあちら側での再会をお約束いたしますよ。作戦について何かご不明な点は?」
そう言うとダリルは微笑んだ。
「いえ、特にはありません。ありがとうございます。直ぐに彼女にもお伝えしてきます。きっとお喜びになられるでしょう。」
「そうですか。えー、なにか道中足りていないものはございますか?すぐに用立て出来そうならお持ちいたしますが?」
「ええ、そうですねぇ…。いえ特に…」
その時、突如笛の音がねっとりとした夏の空気に包まれた夜の街に響きわたった。
「くっ」
笛の音が聞こえるやいなやエドは宿に向かって疾走していた。
家屋の屋根に上がり音もなく疾走していたエドの目に、白いワンピースを着た姉を担いで、夜の街を疾走する男が写った。
「はっ」
彼はすぐ様男に追いつき躍りかかった。
ザンっ
鮮血が飛び散る。
ーーーーエドの右腕が宙を舞っていた。




