15.クロード
ラングを倒し、父の仇を取ったエド達は、王国と皇都の丁度中間に位置する"クロード"の街を目指していた。
「見えてきましたね」
「あれが…クロード!」
クロードの街は水の都として、王国でも有名であり、睡蓮の華の浮かぶ広大な"クロード湖"に浮かぶ水上都市であった。
1時間程してクロードに到着した二人はグレンを入り口近くの馬屋に預け、中心部に向かって歩き始めた。先程エドは、"夜切笛"を使ったがここでも反応はなかった。
「今日はこの街で一泊しましょう。長旅の疲れも溜まってきたでしょう。」
「正直、かなり疲れました。一週間近く水浴びも出来ていませんし。」
そう言うと、ソールは先程より少し軽やかな足取りになっていた。
「まずは宿を確保致しましょう。ピーテルと比べれば圧倒的に大きな街なので、隠密には気づかれにくいと思いますが、やはり、あまり出歩いているのはリスクが高いでしょう。」
二人は湖畔にある少し上等な宿を取った。
二人とも水浴びを済ませ、食堂でお昼を食べていた。
「魚を食べるのは久しぶりですね!」
ソールはクロードの名物である、新鮮な魚料理を幸せそうな表情で食べながらそう口にした。
「流石に釣りをしている暇はありませんでしたからね。」
「そういえば、昔お父様の釣りについて行って二人で川に流されたことがありましたね。」
今より少しお転婆だったソールが、エドが止めるのも聞かず岩の上を飛び回って遊んでいると、足を踏み外し川に落ち、助けようとしたエドと共に川に流されたのである。
「後にも先にも、あの時以上にあの方から怒られたことはありませんよ。」
ソールはまだしもエドが一国の王に直々に怒られる経験など普通ならあるはずがないが、まるで父親のように叱りつけられた。
最も、ソールを止められなかったことではなく、ろくに泳げもしないくせに飛び込んだことに対してであったが。
「ふふっ、普段怒られるのは私ばかりでしたからね。あからさまにしょげているあなたを見てちょっとだけすっとしましたわ。」
「元はといえば姉上のせいでしょう。」
いたずらっぽく笑うソールに、エドはただ苦笑いを浮かべていた。
「さて、少し旅の道具を補充してまいります。姉上はお部屋でおくつろぎください。何か必要なものはございますか?」
「そうですねぇ…。いえ、特にはありませんわ。」
「かしこまりました。何かありましたら、これを投げつけてください。強い衝撃が加わると煙が出る仕掛けになっています。できる限り早く戻りますので。」
彼は、煙幕玉を手渡すと、部屋をあとにした。
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(おや?これは)
買い物をしていたエドは、武具屋で目を留める。
「あんちゃん、そんなんに興味あるのかい?何のモチーフなのかも分からんし、別に魔導具ってわけでもねぇ。正直売れ残りだぜ?」
「そうですね、買わせていただきます。」
「そうかい?まぁ買ってくれんならありがてぇけどよ。んじゃー、サービスしとくぜ俺お手製のクッキーだ!」
エドは予想外のサービスに目を白黒させながら、宿を目指して歩き始めた。
ーーーー優しい微笑みをしながら
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「戻りました。姉上変わったことは?」
「おかえり、エド!強いて言うなら湖に豚が浮いていました!」
そして、エドが手に持っていたクッキーに目を留めた。
「それは、"浮豚"という魔物ですね。見た目が可愛いので、穴があかないように倒して、そのまま水筒にする人もいるそうですよ。後、このクッキーは武具屋の方にいただきました。お召し上がりください。」
「あと、もう一つ」
エドは少々無骨な金属のペンダントを取り出した。
「見栄えはそこまで良くありませんが、笛が売っていましたのでもしもの時のためにお持ちください。」
「あれ、これはソールの…」
その笛には少し不格好だが、ソールの名前の由来になったお伽噺で夏の女神が持つ最高の宝とされる炎をまとった玉のレリーフがついていた。
「ええ、この国では唯一神以外崇められていませんから店の人も知らないようでしたが…。今の姉上らしいかなと思いまして。少々不格好なのでポケットにでも入れておいてください。」
「いえ、その…、エド、これ私に付けては下さいませんか?その、落としてもいけませんし…」
「明日でもいいのではないですか?」
「い、いえ、今付けてください!寝てる間に何かあるかもしれません!」
「かしこまりました。では、失礼いたします。」
エドがちょっぴり無骨なそれを首につけてあげると、ソールは幸せそうな笑顔で、鏡に映るそれを見つめていた。
エドはいつもより少しだけドキドキしながらその笑顔を見ていた。
夏の女神がそろそろ訪れそうな初夏の夕暮れ、広大な湖は炎のように赤く、夕暮れに染まっていた。




