↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽炎  作者: 音音
二章 スカビオサ
15/24

14.仇

二人の戦いは熾烈を極めた。


手数で勝るエドも、パワーで勝るラングも決め手に欠けていた。


エドにとっての最大の障害はラングの着る最上級の鎧だった。エドも業物の短剣を使ってはいるが、その黒いプレートアーマーにはかすかな傷しかつけられず、このままでは確実に短剣の方が先に折れる。


ラングにおいてもパワー型であるため、弱体化した今でも捉えることができれば一撃で沈めることができるだろう。しかし、もともと高くない敏捷性が更に弱体化しているため、急所を狙った攻撃を凌ぐことに注力することを余儀なくされ、攻勢に出あぐねていた。


(くっこのままでは)


エドは、時間経過とともに重みと敏捷性の上がるラングの攻撃に焦りを感じていた。


(一か八かだっ!)


そう決心すると、一気に手数を増やし翻弄したラングの黒い鎧に触れた。


【転位】


しかし、鎧が転位することはなかった。


「はははっ、息子と同じ手が通用するとでも?皇国の魔法使いを使って研究したよ。まさか、鎧を体に固定すれば良いだけだなんてね。タネさえ分かれば大したことはないね。最もかなり厳重に縛り付けなきゃだから動きにくいったらないけど、ねっ!」


そうニタリと笑みを浮かべながら、踏み込んで渾身の一撃を振り抜きにかかる。


ーーーーそして、ラングは燃え上がった(・・・・・・)。


エドが転移させたのは、鎧ではなく火炎玉(・・・)であった。

息子を殺され皇国の中で最も自分を憎む人物が自分のスキルを研究していないはずがないと分かっていた。そして、自分の切り札の欠点は誰よりもよく理解していた。


だからそもそも鎧の転移を選択肢から外していた。そして、彼はこれまで戦闘で使ったことのない使用法で賭けに出た。

この方法で相手の鎧の中に火炎玉を転移させることができるかは、これまでの研究から五分五分といったところだった。鎧の中に火炎玉が入り込む隙間があるか推し量る術はない。通気性の確保のために、鎧に少しゆとりをもたせることはあったがあまりゆるめれば動きにくくなるため本当に五分五分といったところだった。

しかし、エドにはいくつかの幸運が重なっていた。


まだ春といえども夏も近づき日中であればそれなりの気温になっていたこと。

その日がよく晴れた暖かい日であったこと。

まだ夜になったばかりで気温がそこまで落ちていなかったこと。

最高級であるがために他のものよりも分厚く熱がこもりやすかったこと。

黒い鎧が他の色よりも熱を吸収しやすかったこと。

そして、何より鎧の胸部をしっかりと縛り付けていたため、ラング自身も気づかぬうちに腹部の締め付けが普段よりも僅かにゆるくなっていたこと。



そんな僅かな幸運の重なりが明暗を分けた。


通常の戦闘であればあまりにリスクの高い賭けである。しかし。彼は最大MPの3分の1近くをベットした賭けに勝利したのである。


ーーーー


「あああああぁぁぁぁぁっ!」


ラングの獣のような咆哮が轟いた。


(一気にいくか?しかし、時間をかけたほうが有利か?)


エドは僅かに迷った。


ラングは一瞬たりとも迷わなかった。


その身を焼かれ、全身に火傷を負い、並の人間ならば即死。強者であっても即座に鎧を脱ぎにかかるその状況で、


【暗黒龍鱗(あんこくりゅうりん)】


彼は特攻を選んだ。


スキルにより黒いオーラを纏ったラングが炎を避けて少し距離を取っていたエドに迫る。一分間そのステータスを大幅に上昇させるそのスキルは彼の切り札だった。



ーーーーエドが即座に火炎玉を投げつける。

もはや全身が燃え上がるラングは気にも止めない。


ーーーーエドが片方の短剣をラングの首に目掛けて投擲した。

ラングはもはや躱しもせず、首に短剣が刺さっても怯みもしなかった。



ーーーー【転移】エドがラングの顔前にかなりの大きさの土塊を転移させる。

もはやその目の水分は蒸発し始めから何も見えていなかった。



【縮地】それでもラングは鍛え抜かれた五感で感じ取ったエドの背後に、超速の移動スキルで移動する。



【一閃】もはや絶命しながらも化物を超え、悪魔の領域に踏み込んだそのステータスで、渾身の一撃を振るう。


もはや、剣の煌めきすらも置き去りにして超速の一撃が放たれる。



「がああああぁぁぁぁぁぁ!!!」



ーーーー息子の仇(・)を取るために。



そして、陽炎が揺らめいた。



【陽炎】

エドはその手を焼かれながらも、ラングの首に刺さった短剣で頭を切り飛ばした。


ーーーー


エドは自らの父の仇を取った後、いつもの仏頂面で立ち尽くしていた。


ミラは優しく後ろからエドを抱きしめた。


「誰も見ていませんよ。」

ミラは優しい声でささやく。


いつしかエドは、声を殺して泣いていた。


(父よ、私はーーーー)



ミラが初めて知った彼の涙だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。