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陽炎  作者: 音音
二章 スカビオサ
12/24

11.ブラッドハニー

「これはもしかして」


食事を終え、ピーテルを目指して歩く道中、何かに気がついたエドは呟いた。


「どうかしたのですか?エド。」


春風にそよぐ草花を眺めていたソールが問いかけた。


「ラッキーです。"ブラッドビー"の巣のようです。」


"ブラッドビー"は、中央大陸全域に生息する、蜂の姿をした魔物であった。大きさは大型犬程で、毒性もない。割りかしポピュラーな魔物で遭遇することも少なくはない。その名は巣から採れるハチミツに由来しており、透明色の赤い色をしたそのハチミツは"ブラッドハニー"と呼ばれていた。

"ブラッドハニー"は栄養価も高く味も非常に良い為、市場では結構な高額で取引されている。特に発色が良くルビーのような色合いの特上品(・・・)"ルビーハニー"ともなると王族への献上品として用いられる程である。


高額な理由はその希少性にある。彼らは通常巣を作らない。希少個体である女王蜂"クイーンブラッドビー"これが発生した場合のみ巣を形成する。また、"ブラッドハニー"は"クイーンブラッドビー"の幼少個体を育てる際に生成される為、単純に巣があれば手に入るという代物でもない。そもそも、一体の幼少個体を育てる為に生成するので、運良く幼少個体のいる巣を発見した所で手に入る量はごく僅かだ。そんなわけで"ブラッドハニー"は金(・)と同じ様な価格で市場では取引されていた。


彼らには路銀が全く無かった。流石にいくらかの手持ちはあったが、到底長旅を賄えるほどではない。そもそも、戦争中の敵国で自国の通貨を使うような危ない橋は渡れない。この臨時収入はまさに渡りに船である。逃す手はなかった。


ーーーー

さて、エドは【探知】のスキルによって発見していた巣に向かい、街道から外れた小さな森の中に来ていた。そこには人一人がかろうじて入れるくらいの小さな洞穴があった。


「はっ」


何匹かいた見回りらしき蜂を一瞬で屠り、彼は準備に取り掛かった。


「このまま入るのですか?」


ソールは尋ねた。


「いえ、流石に一度に何十体も相手取るのは少々骨が折れますからね。これを使います。」


彼が取り出したのは残っていた煙幕玉だった。


「煙幕で行動不能にしてしまいましょう。お目当てのものがなければ、殺さずに放置すればいつかは手に入るそうですよ。昔、冒険者から聞いた知恵です。最も、今手に入らないのなら潔く諦めますが。」


彼は手早く準備をしていた。常備していた殺虫作用のある薬草で煙幕玉をしっかりと包み、いくつかの岩で洞穴を塞いだ。


「姉上、少し離れていて下さい。多分大丈夫とは思いますが、何分初めてやるもので。もしかしたら何匹か飛び出してくるかもしれません。他の出入り口はなさそうでしたが、見落としているものがあるかもしれません。少し注意していて下さい。」


そう言うと、塞いでいた岩を少しずらし煙幕玉を投げ込む。そして体重をかけて岩を押し支えた。


しばらく、洞穴の中からブンブンと音がしていたが10分もするとそれもおさまった。


「それでは行って参ります。近くに魔物の気配はありませんが十分注意していてください。」


そう言うとエドは洞穴の中に入っていった。


五分もすると再びエドが現れた。

一抱えの赤い蜂の巣を持っていた。

ーーーー珍しく満面の笑みを浮かべながら。



ーーーー


路銀の心配もなくなり、少し明るい気持ちで再びピーテルを目指して歩を進めていた二人は、夕暮れも差し掛かり、たまたま見つけたキャンプ地で

夕食を食べていた。


夕食は道中でエドが狩ったうさぎの肉を焼いたものと"マロイモ"という大陸ではポピュラーなじゃがいもに似た芋を焼いたものだった。


「塩を常備しているなんて意外と家庭的なんですね。」


と小さく微笑みながらソールはエドに話しかけた。


「姉上、塩は大変大切なものですよ。食事の味付けができるのはもちろんですが、塩を摂取しないと死んでしまうこともあるそうです。一般的に全ての兵士が常備しています。」


ソールはそうなのかと呟きながら布に包まれていた赤い蜂の巣をそっと手に取る。


「これが"ブラッドハニー"の元ですか。宝石のような見た目ですね」


「はい、本当はここから布を使って蜜を絞り出すんですが素人がやるよりこのまま売ったほうが良いでしょうね。流石に"ルビーハニー"とはいきませんがそれなりの収入にはなるでしょう。」


ソールはくんくんと匂いを嗅ぎ、頬を緩めた。


「よろしければ召し上がってみますか?少しくらいなら構わないでしょう。漉したほうが雑味が取れて味が良いそうですが、このままでも食べられるそうですよ!」


「良いのですか!」


ソールは顔を輝かせた。


(やはり姉というよりは妹なのでは?)


と、口にすればむくれられそうなことを考えながら、嬉しそうに赤い蜂の巣を口にする彼女を見つめていた。


そして、久しぶりに見れた"太陽のような満面の笑み"にほっと胸をなでおろし、優しい笑顔を浮かべるのであった。

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