↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
白夜来日編――Nebula ,she is
84/546

ブレイジング・フィーリング

 氷空が少しだけ自分の周りの瘴素の動きを乱した。挑発、なのだろうな。瘴素を乱した、と言っても魔法を行使するには少なすぎる。あえて、俺の緊張を誘うおうとした、というところだろう。

 安易だけど、初っ端から挑発かましてくるところとか、いいねぇ。


 「あの、兄弟喧嘩は他所でやってくんない?」


 一瞬だけ黙っていたイリアが不平不満をぶつけた。

 彼女はすでに修復した、自分の木机に司令官ずわりをしていた。先程までのしおらしさが、まるで嘘の様に感じられた。


 「あ、ごめん。つい、ね」

 「まあ、この島で第九層魔導師同士が喧嘩されるのも困るんだけどね」


 すっかりいつもの調子に戻ったイリアに、違和感を感じはしたが、それはまず置いておこう。

 ここは俺が悪うございました、と謝れば済む話だ。


 「えっと、今回はすいませんでした」

 「え、あ、うん。後で報告書提出しといて。あと、アルコール中毒になった連中は……反省文五枚くらい書いといて」

 「意外と少ないね」


 「ま、そこは寛大なあたしに感謝すれば?」

 死んでも氷空に脅されたから、と言わないあたりがいいですなー。できれば、反省文もなくして欲しいなぁ、などと言ったら、


 「はぁ?何いってんの?バカ?」

 と返された。バカではないんだけどねー。


 「それじゃぁ、話はもう終わりですよね。私はこれで失礼します」

 氷空はもう話すのも面倒なんで、と言外に付け加えて、その場から去っていった。


 バタン、という音が耳に届くと同時に、イリアは溜まっていた鬱憤が爆発したのか、執務室内の瘴素が一気に震えた。

 全く言葉を発していないのに、部屋中のものが燃え始める。絨毯や、ソファー、本棚、とまぁ色々燃えていく。うわー、これは酷い。


 「Pugunatum・ignim」

 イリアに火災を起こされても困るので、すぐさま消火に当たる。単純に燃えている部分の水を生成して、ぶっかけているだけなのだが、多少の効果は……全くと言っていいほどなかった。


 イリアの怒りの炎──あ、この表現なんかいいね──はかけられた水を一瞬にして気化し、室内の酸素を吸っていった。

 このままじゃ二酸化炭素中毒になっちまう。


 「あのさ、イリア。今日飲まない?」

 「あぁ?」


 気軽に話しかけたらものすごい剣幕で睨まれた。形相、鬼のごとし。焼け石に水、いや火に油かな?それとも高濃度アルコールに火、かな?

 どちらにしろ燃えているものに掛けてはいけないものを掛けたのは確かだ。


 この調子だと、瘴素が枯渇するのも時間の問題。そうなれば、もう火を止めることはできない。こっちが二酸化炭素中毒になるか、焼け死ぬのが先か、それとも学園が家事になるかの三択しかない。

 うーん、困ったなー。

 仕方ないし、あれ使うか。


 「morietur」


 これ以上部屋を燃やされても困るので、火を殺した。殺されれば、もう燃えることはない。ついでにイリアを気絶させられれば完璧なんだけどなー。

 それをする前にもう部屋の中の瘴素が枯渇していた。


 したがって、もう部屋が燃えることもないのだが、イリアの鬱憤は溜まったままだった。

 仕切りに全く力のこもっていない拳を木机に叩きつけていた。いや、力はこもっているのだろうが、そもそもがもやしっ子の魔導師の女の拳を、千年間木机にぶつけようと凹み一つ出来はしない。


 「あの小娘!」


 これまでで一番強く、イリアは木机を叩いた。その衝撃で、机の上に置いてあったインクケースからインクが跳ねた。

 インクは短い時間空を舞い、机の上の資料に黒いシミがじわりと広がった。


 気は収まったか?

 とは聞けないな。少なくとも今は。

 今聞いたら俺にとばっちりが来る。


 さて、イリアを乱心状態にしたまま、この部屋を出るわけにもいかないし、部屋の片付けでもするか。魔法が使えないっていうのが不便だなぁ。

 燃えてしまった本棚とかソファーとかは魔法を使わなければいけないとして、灰とかは塵取りを使えばいいか。


 用具入れからほうきや塵取りを取ってきて、そそくさと掃除を始める。魔導師は魔法に頼った生活をしているため、基本は力仕事が得意ではない。

 魔法で肉体を強化すればトップアスリートクラスの身体能力は有するだろうが、一時的なものでしかない。


 ちなみに俺は色々と常人を超えた身体能力を有しているので、その枠組みには入らない。

 さて、これくらいでいいかな?


 気がつけば灰の掃除はあらかた終わっていた。

 そして、ほぼ同時に多少、そう多少イリアの怒りも収まっていた。まだ、鼻のスジに少しだけシワが寄っているが、さっきまでの怒りは感じられない。


 「多分、少しだけ収まった」

 非常に不安しかない言葉だから、一抹の不安は残るが、収まったのならまぁ、いいだろう。帰るか、と俺が言うと、ああ、と少しだけ怒気がこもった声でイリアは唸った。


 部屋をである際に、再充填された瘴素を使って、燃えた本棚なりソファーなりを復元して、俺とイリアは執務室を出た。

 どうせ、復元するなら、早いほうがいいじゃないの。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。