カースド・オーヴァーウェルミング・パワー
「それで、呪術ってなんなんだい?」
桜を消し、心の整理がついたところで、雫李が質問してきた。
なんですか、と聞かれてもなー。言葉通りのものだよ、とは言えないしなぁ。
普段使っていない頭をフル活動させて、説明することにした。
「呪術っていうのは単純に言えば、気に入らない奴を呪い殺すものだよ。ほら、魔法にも呪殺系統とかがあるだろ?あれに近いものだよ」
雑だな。説明しておいて自分でも何を言っているかわからない。
「雑だね」
「う……」
面と向かって言われちゃったよ。事実だから仕方ないけど、もうちょっとだけオブラートで包んでよね。心が傷つくぜ。
「つっても、それ以外の用途はある。例えば何の変哲もない紙切れに獣を飼ったりとかね」
「ああ、漫画とかによくある陰陽道、とかいうやつか。あれは星と龍脈がどうのこうの、とか言ってたっけ?」
うーん、少し違うかな、という意味を込めて、首を横に傾げた。確かに呪術の中に陰陽道はあるけど、別に呪術自体はけっこう自由に使える。
「えっと、こっから少しだけめんどくさい話になるけどいい?」
「まぁ、別に」
さて、許可も取ったところで、難しい話を初めますか。
「まず、呪術と魔法の一番の違いは、呪術は瘴素を必要としない、という点だ。つまり、例え瘴素が全くない空間でも呪術は使うことができる。
使い勝手で言えば、呪術の方が使いやすいだろうね」
「その、呪術はどうやったら使えるんだい?生まれつきのものなのかい?」
「いや、こいつは魔法と同じように特別な場所に行けば誰でも会得できる。行くのは日本の八百万信仰によく記される地獄、だけどね」
とはいえ、こっちはダンテが行ったという地獄よりも酷い。
あっちは別に先達がいたから危険な目には合わなかっただろうけど、こっちは先達いないんだよ。しかも、全世界共通の地獄のもの食えないルールだし。
お陰で地獄に入ってる間は断食状態だったんだよなぁ。
「日本の地獄、いわゆる八大地獄と八寒地獄か。そんなものが実在するなんてね」
雫李は素直に感心したような顔立ちをしていた。日本の魔導師はこぞって、そういうのには疎いからねー。だから、これまで一部の家しか地獄(日本版)については知らなかった。
俺の生家である茨木家がそれだ。まぁ、茨木家が地獄(日本版)について知っていたのは呪術以外の関係からだけど。
「で、その地獄に降りたら自然とそういう力が手に入るわけか、その辺のルールは魔法と同じだね」
「いや,そんなわけないだろ」
俺の返しに、雫李は少しだけ目を丸くした。そこまで驚くことかな?理解ができなかった。
「地獄に降りるのはただの通過儀礼さ。呪術師──ああ呪術を就ける人間ね──になるには二つ、通過儀礼みたいなものがある。そいつを済ませれば好きなだけ地獄の術を使い放題にできるわけ」
俺は一旦言葉を切って、息を整える。ほんとはあんまり気乗りしない話しなんだけどね。
「通過儀礼①、自分が使う呪術の系統を選ぶ。呪術の系統は全部で二種類あって、『炎』と『氷』っていうんだけど、そのうちのどっちかを選ぶ。これが通過儀礼①。簡単そうでしょ?」
俺がそう聞くと、雫李は首を縦に振った。俺は話を続ける。
「続いて通過儀礼②、今度はその呪術に関係する地獄──八大地獄と八寒地獄のどちらか──に行って、一ヶ月間暮らしてもらう。ちなみに飲食禁止ね。大抵は最初の一週間でリタイヤかな?」
最初これを聞いたときは俺も絶句したよ。一週間断食したことはあったけど、さすがに四週間以上はなかったからね。通過儀礼②が終わったときは、滅茶苦茶ホッとしたよ。
「それらの通過儀礼をクリアして始めて呪術師としての力を得ることができるわけ。けっこうキツイだろ?」
「いや、キツイなんてもんじゃないよ、それは。もうただの苦行じゃん。ブッダだってそんな厳しい断食はしなかったよ!」
さすがに驚いたのか、雫李は声を張り上げた。そういう反応って自然的だよね。
確かに言っていて、もうこれDVみたいなものじゃん、とは思った。でも、やり終わった後だと、存外簡単だったなー、と思うものなのだ。
ちなみに俺は思いませんでした調子こいてすいませんでした!
「うーん、そこまでキツイ修行をして手に入れた呪術が一体何の役に立つのさ?」
「そうだねー。呪術の多くは隠遁、幻影、空間跳躍、みたいな魔法の中でも特殊なものに限られるからね。言ってしまえば魔法とあんま変わらないかな。
でも、呪術は魔法よりもクリエイティブだ。さっきみたいな綺麗で、それでいて戦闘向きな術が多いからね」
ま、基本は炎を生成して、そいつを巨大化させたりするみたいな応用なんだけどね。一から新しい呪術を作り出す、というのは不可能だ。
だから、強いて言うなら呪術は魔法に劣る、と言えるかもしれない。認めたくはないけれど。
「うーん、だとすれば妹さん相手に持久戦は不利か」
「それ以前にあいつは魔法も使えるからな。呪術以外の対策も取った方がいいんじゃないの?」
「じゃぁ、そっちを先に教えてよ!」
意地悪だなー、と雫李はぼやいた。




