フーリッシュ・アクト
仕事内容を伝え終わると、泉さんから遠回しに、出て行け、と言われたので俺は執務室を出た。ほんと、ストレートに言えばいいのになんで遠回しに言うのかねー。
呼び出されたのが三時半ぐらいで、今が四時だから三十分ぐらい立っていたことになる。足の裏が少しだけ傷んでいた。何度か関節を回して、痛みを誤魔化しつつ、俺は自分の教室にバッグを取りに行った。
授業が終わってすぐに泉さんの呼び出しを食らったから、今は手ぶらである。
いやはや、まさか氷空がこの学園に来るとはなー。予想外も予想外。
あいつとはもう二年くらい連絡取ってないし、向こうで楽して学園生活をエンジョイしてんのかと思ったよ。実際にそうだったけど、ここに来る理由がわからない。
俺に会いに来た、なわけはないな。それだけは断言できる。
だとすれば密偵的なポジションでこっちに来るのか?だとしても、あいつでなくてもいいだろ。あいつはそこまで隠密系統の魔法は使えねーぞ?
うーん、全くわからない。
まさか、アレか?アレなら納得できるけど、今の氷空には必要のないもの、というか意味のないものだろう。それに、あいつはアレがここにあることは知らないはずだしなぁ。
考えれば考えるほどわからなくなってきた。
そも、女性の気持ちがまったくわからない俺に女性の気持ちを理解しろ、という方が無理なのだ。考えるのを止めたほうがいいな。
それが俺のため、俺のため。
そう自分に言い聞かせて、俺は教室に置いてあったバッグを取りに行った。
*
教室に入ろうとすると、栗色の髪の少女がいた。少女は俺が入ってくるのに気づくと、よ、と実にボーイッシュ挨拶した。
内の学園の序列9位である、渭水雫李だ。俺のひとつ下の学年だが、成績は俺より全然上である。
彼女の美貌は夕暮れの荒野のようだ、と俺は考えている。少なくとも、生来美形である魔導師の中でも最高傑作の美貌の持ち主だった。
「なんで、俺の教室にいるのさ」
「いや、茨木先輩と一緒に帰ろうと思ってね」
そいつは傍目から見れば非常に嬉しいことだ。学園でも最高クラスの美少女一緒に帰れるなんて嬉しいことこの上ないのだが、こいつに限って言えばそんなわけはない。
こいつは俺から泉さんとの密談内容を聞き出す気だ。
泉さんも全校放送とかしないでよ。あんときめっちゃ恥ずかしかったんだから。
「ああ、はいはい。じゃ、そん時に密談内容話すよ」
「おお、さすが茨木先輩。ボクがそのことを口にする前にボクの目的を当てるとは思わなかったよ」
「いや、でなきゃお前が俺に会いに来るわけ無いじゃん」
わざとらしく驚く雫李に俺は嫌味を口にする。しかし、雫李は笑みを浮かべ、全く気にしている様子はなかった。
やりづらいんだよなぁ、こいつとの距離の確保って。
*
「で、茨木先輩は何を話したんだい?」
「留学生について」
バッグを引っさげて、俺と雫李は並んで歩いていた。こうやって帰っていると恋人みたいなんだけど、そんな都合のいいことはない。
ただ、話しやすいから、という理由で並んで歩いているだけなのだった。
「へー、留学生。どこから?」
「ずいずい来るなぁ。──イタリアだよ」
「へー、イタリア。てことはミラノか。でも、なんでこんな辺鄙な時期に……」
雫李は俺や泉さんと同じことを気にしていた。当然の反応だ。
「それでその留学生の名前はいつ来るんだい?一週間後、とか?」
「五日後……」
「早いね」
反応あんまないなー。ちなみにこのことを知らされたのが二週間前なんだよなー。そのことは伏せとけばいいか。
「で、その留学生の名前は?年は?」
「年はお前と同じ十六歳。向こうだと四年制だからな、こっちだと高等部一年扱いか」
「うーん、脱線して気がするなー。まぁ、いいや。それで肝心の名前は?」
俺は言うべきかしばらく迷ったが、意を決して言うことにした。絶対にこいつが絡んでくるだろうなー、とう予想をしながら。
「留学生の名前は茨木氷空。俺の妹だ」
「ブッッ!」
美女がなんかすごい勢いで吹き出した。美女がビジョビジョだよ、なんつって。
なんて、そんなことを言ってるヒマなんてなくて、なんで吹き出したんだよ。今のとこ、笑うようなとこじゃないよね。
「ちょっと待ってね。〜〜〜〜〜〜〜……………。よし、収まった」
かなり必死に笑いをこらえていらっしましたけど、何が面白いのでしょうか?
「いや、これは笑いものだね。ボクとしてはすごく面白い展開だよ」
「何が面白いんだよ?」
俺は口をへの字にして、怪訝そうな視線を雫李に向けた。もう二週間以上の付き合いだけど、未だにこいつの性格がよくわからない。
「白状するとね、ボクは二日後に茨木先輩に挑もうと思ってたんだよ」
「そいつは決闘か?まぁ、児戯として付き合ってやってもいいけどさ……」
なんで、俺に決闘を挑むのかは理解できなかったが、俺は適当な答えを返す。
「でも、今は別のことに興味が湧いたよ。先輩の妹さんを倒すことで、ボクは先輩に挑戦する権利を手に入れる」
「言っとくけど、うちの妹は魔導師の中でも最高階位の第九層魔導師だぜ?雫李の力じゃ勝てないでしょ」
突き放すような冷たい声で俺は返す。
もし、氷空と雫李が決闘をした場合、勝つのは氷空だ。そこは決定事項だ。
例え、第七層魔導師や、第八層魔導師でも第九層魔導師の圧倒的な力の前には沈むしかない。
「安心してくれため、実を言えばボクの階位は……」
「第七、とか言いたいのか?それでも勝ち目ないよ。万に一つも、ね」
厳しいなー、と雫李は悔しがってみせる。しかし、その目は死んではいない。つまり、挑戦することを諦めていないわけだ。
若者の好奇心っていうのは怖いねー。
「じゃ、寮に戻ったら妹さんへの対策方法を教えてね。お兄さんでしょ、茨木先輩?」
俺が返答する前に、雫李はさっそうと先に進んでしまった。迷惑なやつだなー。
*




