ザ・ジョブ・ザット・アイ・ドント・ワンツ・トゥー
こういう場合、泉さんがいい話をすることは殆どない。
どうせ、氷空が何かよからぬことをしないか見張れ、とかいう命令を下すのだろう。別にやってもかまわないけど、不快な気持ちにはなる。
「で、何をしろと?」
「実は今回の件に関して懐疑的なグループが学園側にいるんです。ひょっとしたら、貴方の妹さんに危害を加えてくるかもしれないので、貴方はその警護に当たって下さい」
懐疑的、ね。
それは結構なことだ。
例え、その懐疑的なグループとやらが氷空に危害を加えてきたとしても、あいつは何も感じないはずだ。人とはそういうものであり、自分に対する僻みでしかない、という傲慢な女だから。
自分以外の弱者をなんでもかんでも見下しているようなあいつが、自分以外の弱者のすることを気にするはずがない。
そう説明すれば、泉さんも俺を仕事から降ろしてくれるだろうか?
「あの、泉さん……」
「ああ、そうそう」
何かを思い出したかのように、泉さんは顔の前で軽く両手を合わせた。ぽすん、という空気を弾くような音がした。
「ちなみに、氷空さんが問題行動を起こしたときは貴方の監督責任になるので、憶えておいてくださいね」
めっちゃキレイな笑顔で、めっちゃ酷いこと言われた。
それはあれですか?俺に対する脅迫ですか、泉さん?つまり、必ず俺に仕事を受けろ、と。それは卑怯じゃないすかねー。
「それって、この仕事断っても適応されるんですか?」
「まぁ、そうですね。ほら、だって貴方の妹さんじゃありませんか。貴方が面倒を見るのは当然でしょう?」
「そういうのを責任転嫁、とか言うんじゃないですか、この国では?」
つか、どう考えても責任転嫁以外の何物でもねーだろ。普通こういうのって、会長の仕事だろ。会長の責任ってもんでしょ。
なぁんで、俺が責任問われるわけよ!納得行かないんですけどー。
「もし、この仕事を受けてくださればどんな願いも一つだけ叶えて差し上げます。無論、私が許容できる範囲での願いですが」
「それマジですか?」
俺の変わり身も早いもので、すぐにこの仕事を受ける気になった。どんな願いっていうのは、あんな願いやこんな願いでもいいんですよね?
つまるところ、泉さんの大事な部分に手を出したりしてもいいんですよね。それならやります、やりますとも。泉さんのために。
「マジですよ。で、その仕事の内容ですが、まず茨木君には常時彼女に監視を付けてもらいます」
「あの、泉さん」
「なんですか?」
泉さんは無垢を演じるように小首をかしげた。見た目がかわいい、ではなく、美しい、なので少しだけ騙されたが、すぐにその仕草は可愛くない、と判断した。
雫李辺りがそういった仕草をすれば、かわいい、と思ったかもしれない。というか絶対に思ったね。
「今の泉さんの言葉を聞く限りだと『警護』ではなくて『監視』に聞こえるんですけど……」
「いえ、警護には監視も必要でしょう。でなければもし、彼女が危機に貧した時に対応できません」
その理屈はおかしい、と言おうとしたが、言っても無駄なのでやめた。ここでなんか文句を言っても、なんかよくわかんない理屈で反論してくるに決まっている。
「でも、監視するにしたって、あいつはすぐに気づきますよ?そもそも、俺程度の監視魔法じゃ……」
「無論、統括委員会や執行委員会の面々でも監視魔法は使います。貴方のはその一角に過ぎません」
もう完全に滅茶苦茶警戒してんじゃん。それのどこが警護だよ。ただの監視じゃねーか!
俺は口をへの字にして、難しい顔で泉さんを睨んだが、彼女は平然とした。俺に睨まれたくらいで動じるような玉じゃないだろうが、落ち着きすぎでしょう。一応俺の階位、あんたより上なんだけど。
「あいつよりも、懐疑的なグループとやらに監視を付けたほうがいいんじゃないですか?」
ダメ出しとばかりに俺は泉さんに反論する。そもそも、そんな懐疑的なグループがいるのかも不明だ。ひょっとしたら泉さんの出任せかもしれない。
「そっちに関しても進めています。今洗い出しをイリアにさせているところです」
うわー、イリア可哀想ー。泉さんから厄介事押し付けられてやんのー。
「他になにか聞きたいことはありますか?」
「そう……ですね。あの、氷空に関してはもう口外してもいいんですか?」
「別に構いませんよ?どうせ五日後には本人が来ちゃうわけですし」
即答だった。
それくらいにどうでもいい質問だのだろう。俺自信どうでも良い質問だな、と思うくらいだ。
しかし、これでエリスと雫李に愚痴が言える。あの二人ぐらいしか今、愚痴が言えないんだよねー。イリアはイリアでそのことでストレスを抱えているだろうし、いわんや泉さんは論外だ。
愚痴を言えるならここで言っている。
「それと、貴方にはもし彼女が何かを企んでいた際は、それを止めてもらうことになりますがいいですか?」
「ま、この島でアレとまともに戦えるの、俺くらいしかいませんからね」
これは謙遜とかではなく単なる事実。言ったかもしれないが、魔法の才は俺の方が月とスッポンレベルに上だ。
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