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双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
九騎士決闘編――Nine round of Knights
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エンド・オブ・ザ・デュエル

 エリスが使ったのは自分の筋力を向上させる強化魔法、と俗に言われるものだ。これらは地獄で苦悩する人間の象徴、ということで使う魔導師は少ない。

 それに人間の拳ではいくら耐久力のないこの障壁とはいえ、打ち砕けるものではない。


 不可能だ。

 せめて雷槌を俺の上に落とせば俺の中位は上に逸れるかもしれないのに。とはいえ、何かしらの秘策はあるのだろう。

 でなければこんな無謀な手を打つはずがない。


 「Pugno・di・ferro」

 そういうことか。

 エリスは拳を鋼の硬度に変質した。それに強化魔法が加われば、俺の障壁をギリギリ……


 ガツン、という音が響いた。それは決して大きな音ではなかったが、互いの耳に聞こえるには十分過ぎる音だった。

 そしてそれが鳴った、ということは……


 障壁は半実体化をしていたが、ヒビが入っている様子はない。つまり、エリスの拳では俺に届かなかった、ということだ。

 もう少しエリスが筋力をつけていればあるいは、と思ったが今のままでは最低二発は同じものを打たないと俺の障壁は破れない。


 そもそも拳で障壁を割る、などという芸当自体が無理に近いのだ。そんなものはカウンターぐらいにしか使えない。それさえも障壁一枚で防がれるのだ。

 もう瘴素の無駄としか言いようがなかった。


 拳を障壁に打ちつけたままのエリスを一瞥する。彼女の顔に動揺は見られなかった。魔法の防御は魔法でしか破ることはできない。そのことは頭にあったのだろう。だから、もしも、と思っての行動なのかもしれない。


 俺は苛立ちを込めつつ、右足を最大限強化し、エリスの十二指腸辺りを臓器に影響があるぐらいの強さで、蹴りつけた。

 障壁魔法さえ張っていれば防げただろうが、元から張っていなかったようで、俺の蹴りはクリーンヒット。彼女は勢いのまま闘技場の壁に打ち付けられた。


 さすがに頑丈なもので、そこそこの運動エネルギーを持ったものでは、鋼の壁には傷一つつかない。打ちつけられた衝撃で背骨にヒビとか入ってないよね。俺治癒の魔法は使えないんだよ。


 自分の焦げた制服を復元魔法で直しつつ、俺は倒れたエリスに近寄る。本来の決闘なら対戦相手が気絶するか、敗北を認めるかで決着が着くものだが、今回は特別な決闘だ。

 エリス自身の気が済むまで何度でも彼女を痛めつけなくてはならない。まだ、彼女に見せていない奥の手があるので、勝つことは容易だろうが、何度も相手を気絶させるのは忍びないと思う。


 「おい、エリス。大丈夫か?」

 とりま、彼女の名前を呼びつつ、頬をペチペチ叩く。傷ついて肌が剥けたりしてるけど、やっぱ女の肌って柔らかいなー。男も肌が柔らかいっちゃ柔らかいけど、この柔らかさには負ける。


 「おい、何をやっている?」

 エリスが目覚めないので、頬を引っ張ったりしていたら、急に覚めた声がした。無論エリスのものだが、視線が零度の如く冷たい。


 あれー、こいつって目線だけなら第九の圏並じゃね、と思ってしまうくらいの冷たさだ。いやー、怖いねー。


 とりま、彼女の頬から手を離し、二メートルほど距離を取る。一応自動防御障壁は展開したままだが、何されるかわかったもんじゃないからね。


 「なんで、そんなに距離を取るんだ?」

 不満を露わにしたエリスの声が俺の耳元に届いた。

 「いや、だって怒ってるでしょ、頬引っ張ってたこと」

 「それはそうだが、せいぜいお前の前歯と奥歯をとっかえる程度で許してやろう」


 それって、絶対怒ってるよね。前歯と奥歯をとっかえる時点で相当痛いんですけど……


 「それで、欲求不満は解消された?」

 これ以上どうでもいいやり取りをしても仕方なかったので、本題に移ることにした。エリスもそのことに不満はないようで、特に文句は出なかった。


 「そうだな、貴様が私に一発殴られてくれれば私の気は少しは晴れるかもしれないな」

 「殴られるだけでいいなら、どうぞご自由に」

 抵抗の意思はない、ということを示すために、俺は自分に使っていた自動防御障壁を解除した。それを察知したエリスは傷ついた体を立たせ、弱々しく俺に歩を進めた。


 俺の前まで来ると、左手を弱々しく握り、俺の頬に押し付けた。ぽすん、という擬音がふさわしいかもしれない。彼女の拳には全く力がこもっておらず、文字通りの満身創痍だった。であるならこれくらいの力も当然か。

 そしてエリスは俺に拳を押し付けたまま、地面に崩れ落ちた。まぁた気絶しちゃったよ。


 エリスを観客席に寝かせつつ、今度は強制的に起こすような真似をせずに見守った。ここで闘技場の外に出すのは得策ではない。

 闘技場の外に出れば、途端にイービス先輩の監視網だ。魔法的なものは簡単に消せても、人間はそうはいかない。誰にも邪魔されず密談できる場所などはむしろ少ない。


 そういう面でいえば、エリスが目を覚ますのを待って、情報共有、伝達を行うのは決して悪手ではないはずだ。もっとも、イービス先輩がなんらかの手段で結界を突破したらお手上げ状態だが。



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