雷剣と焦土の釜
次と次と繰り出されるエリスの剣を避けつつ、俺は自分に防御障壁をかけまくる。随時移動しているので、瘴素には事欠かない。
が、それ以前にこの攻撃をいつまで凌ぐかが問題だ。
手っ取り早く凍結魔法をこの闘技場全体に行使すればいいわけなのだが、それをするにはスキがない。一旦全力疾走でもして距離を取るか?
いや、後ろから斬られるかもな。防御障壁と言っても簡易的なもので、そこまでの耐久性はないに等しい。
こうなったら……
「Nebula!」
目くらましを使うしかない。
まえにエリスと戦ったときは、唇だか舌の動きを加速させる魔法で切り抜けられたけど、今回はそんな強化魔法かけてるヒマはない。
加速をかけて、とりあえず十メートル移動だ。
そして、十分距離を取ったところで、
「Terra・glacies!」
闘技場全体に凍結魔法を発動させる。
これでエリスは闘技場の壁に叩きつけられるはずだ。摩擦力ない空間で、地球の回転に耐えられるわけが……
は?
霧の中から躍り出た影があった。言うまでもなくエリスだ。エリスは凍結され、力の動きが一切なくなった地面を歩いている。
そんなわけあるか。凍結魔法で俺が立ってるとこ以外は重力も、摩擦力も、引力もないんだぞ?
迎撃とばかりに鉄線を十本、エリスに投げつけるが、それらをエリスは回避する。回避しつつも確実に接近してくるので、俺には久しぶりに恐怖が湧いていた。
「面白いじゃないの」
多分、あの高熱の剣で斬られたら骨とか筋肉は紙切れみたいにあっさり斬れるだろう。が、それをさせないのが俺というものだ。
近接戦なんてもの俺がするわけ無いでしょ。
「Wall・de・chakybe・ab・quatro!」
エリスの四方に鋼の壁を作り出し、彼女を閉じ込める。囲いの中からエリスが必死で壁を切ろうとしている音が聞こえるが無駄なことだ。
「Flamma・auxilium・recursum」
そこそこ巨大な炎を生成し、囲いを囲んだ。温度二百度の炎は、鋼の性質によって、囲いの中のエリスに熱を伝える。
いわゆる蒸し焼きというわけだ。中では急激に酸素が失われ、二酸化炭素が徐々に生成されていく。加えて高熱の焦熱地獄だ。
常人では耐えきれたものではない。
例えエリスが得意な雷魔法をいくら連発してもあの鋼の壁を破壊することはできない。雷というのは鋼に弱い。電気を通す性質がある、というのもあるが、主に威力が分散されるのが大きいだろう。
ここで魔法というものの細かな系統について教えよう。
主に魔法は先にも話したように四系統(瞬関係、持続系、即発系、遅発系)に分類されるが、その中にも様々な系統がある。
大きくまとめると、生成魔法と変質魔法の二系統のみだが、その二つからのヴァリュエーションが非常に多い。生成魔法は水だったり火だったりを生成する魔法で、種類は数知れずある。対して変質魔法は現在のシステムの一部を変える類の魔法で、こっちの方が種類は少ない。
エリスが得意とする雷系統の魔法も生成魔法の一種で、弱点が少ない魔法だ。俗に魔法と言われたらこっちがお見浮かべやすいだろう。対して、変質魔法は治癒系統、錬金術、精神魔法、みたいなイメージが強い。本当はもっと色々とできるのだが、それができるのは一握りだ。ちなみに俺が使っている凍結魔法もカテゴリー上は変質魔法だ。
多くの場合は生成魔法と変質魔法の合わせ技を使う。風の刃などがいい例だろう。
「Resurgens・it・temperature」
中々エリスが音をあげないので、もう少し苦しめることにする。炎の温度を上げ、気絶しない程度に囲いの中を有毒ガスで満たす。
「Martello・del・tuono・del・multiple」
という叫び語が聞こえた。頭上で雷鳴が聞こえたので、天井を見上げる。ああ、これはマズイ。そう感じるより数瞬速く、無数の雷槌が闘技場に振り始める。
凍結魔法を解除し、闘技場のすべての土を使って巨大な傘を作り出す。雷槌はそれを幾度となく粉砕していく。その度に俺は傘を再構成する。
俺がそれに気を割かれている間に、視界の端で鋼の壁の一枚に風穴が空いていることを視認した。そのことに気づいて対処しようとした時にもう遅く、エリスが俺に向かって突進してきていた。
彼女の持っている剣はところどころ溶けている。多分、電熱の付与時間が長すぎたんだな。とはいえ、切っ先はまだ生きている。俺の体に刺さることは必須だろう。
でも……
「Diruam・maceriam」
第八層クラスの障壁魔法だ。この魔法の最も素晴らしい点は、触れた魔法による生成物を瘴素に変換する、という点に限る。耐久力はそれほどなく、普通に使ったらただ大量の瘴素を消費するだけの使えない魔法だ。
切っ先が障壁に触れると同時に、錬金術の産物である剣は空気中に霧散する。エリスは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに冷静な思考を取り戻し、俺が想像していないような手を打った。
「Potenziamento」




