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双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
九騎士決闘編――Nine round of Knights
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根回しは気づかれたら負け!

 それからエリスが目を覚ましたのは、決闘が終わって一時間後だった。その間俺は魔法で生成した壁だったり、えぐれたフィールドだったりを修復していた。

 特に大変だったのは、雷撃のせいで崩れた観客席だ。最初の雷撃と雷槌の影響で、闘技場の八十パーセントの観客席が壊れていたので、直すのに一苦労した。自分に対して復元魔法を使うのとは違うのだな。


 目が冷めたエリスは体がまだ痛むのか、腕だったり、肩だったりを抑えていた。

 「随分と痛めつけてくれたものだな」

 その声には敵意があり、心底俺を恨んでいるように感じられた。だって、しょうがないでしょう。そっちのせいでこっちは制服が焦げたりしたんだよ。


 「もう少し手加減というものができないのか?」

 「それをしようと思ったらそっちが剣振り回してきたんでしょうが。つか、その手の平大丈夫?」


 俺に指摘されて、エリスはようやく自分の手の平の現状に気づいたのか、目を細めた。エリスの手の平は高熱の剣を握っていたせいで、焼けただれている。皮膚などはグズグズに崩れ落ち、ゼリーのような半透明感を醸し出していた。

 少し手を振っただけで、皮膚は崩れ落ち、ボチャリという音を立てた。


 「早く治癒の魔法を使わないと、細菌とかが傷口から入るよ?」

 「そうとわかっているのなら、なんで使わないんだ?」

 「いや、俺そっち系の魔法は全くといって使えないんだよね。適正ゼーロ」


 エリスは一瞬金槌で思いっきり頭を殴られたような顔をしたが、すぐに取り繕い自分で治癒魔法を使った。治癒魔法といっても、本来の医療の工程を無視して、簡易的な応急承知をするだけのものなので、使ったからといって別に細菌が入ってこないわけではない。


 そもそも、エリスが使っているのはかなり低位の治癒魔法だ。高位のものならガンだろうと脳腫瘍だろうと、両足切断だろうとなんだろうと、立ちどころに治してしまうらしい。

 エリスの両手の治癒が終わったところで、俺が話を切り出す。


 「なぁ、エリス。イリアに何言われたか知らないけど、これ全部作戦だから」

 「作戦?言っておくがイリアは貴様の執行委員会の退会届を受領した、と言っていたぞ?」

 「だいじょーぶ、ただ受領しただけであって、別に除名はされていないはずだから」


 俺のその言葉にエリスは小首を傾げつつ、ポケットから四つ折りにした紙を俺に差し出した。俺はそれを開いて、愕然とする。

 『千乱へ、作戦のためにあんたのこと執行委員から除名しとくわ。そっちのほうが信憑性出るでしょ?』

 あんの、クソおんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。信憑性出るかもだけど、やりすぎだって。俺の欄に『退会届受領』とか書いとくだけでいいんだよ。何余計なことしてんの!


 ここでもしことが済んで、また執行委員会に入ることになったら、白い目で見られるじゃん。完全にイリアに媚び売って執行委員になったとか思われるじゃん。

 それが嫌だったから受領扱いにしてもらいたかったのに。


 イリアからの手紙をビリビリに破いて、燃やしたくなった。実際にそうした。


 「反応を見る限りでは、貴様の言っていることは正しいようだな?」

 「あぁ?」

 「そう睨むな。どうせすぐに泉が強引にねじ込むのだろう?」


 そういうのを職権乱用っていうんだよ。そういう風に特定の学生を贔屓してるから泉さんは恨まれるんじゃん。


 「で、貴様は私と話があるそうだな?」

 「ああ、実は……」


 俺はその場で今日俺が収集した情報、雫李のことや新島の事件の真相、その他イービス先輩が関与している事件について語った。

 また、常時監視するためにイービス先輩に監視の目をつけたことも告げた。


 特にエリスが興味を持っていたのは雫李についてだ。彼女自身は雫李についてしていたようで、何故俺が彼女を知らないのか、という質問に対して彼女は不登校だから、と答えた。

 曰く、彼女は特待生、というカテゴリーで入ってきて学園序列十三位以上と、似たような権限があるらしい。


 そんなの初耳なんですけど。ていうか、それならなんで21位とかいう席にいるのに、俺が顔を知らないのさ。その質問に対しては彼女はこう答えた。


 「つい三週間前に雫李が前の序列21位を倒した」というシンプルな答えだった。それなら俺が知らなくても仕方ない。序列の変動はよくあることだし、そう一々気にしてはられなかった。


 「ふむ、貴様の話を聞く限りでは、まだ情報収集が必要のように思えるな」

 「ああ。だけど、それを一気にチャラにできる手段が一つだけある」

 「ほお?」


 エリスは興味深げに、片眉を上げてみせた。俺は咳払いをして、俺の計画をエリスに伝える。

 「まず、イービス先輩には今日この場所で起きたことを多少捻じ曲げて伝える」

 「確かに、貴様と私が会っていた、などということになれば少し問題になるからな。貴様に疑いの目が向けられる」


 一応最初の部分にはエリスは同意を示してくれた。問題はこれからだ。


 「その捻じ曲げて伝える内容だけど、エリスは会長になることを了承した、という風にする」

 「はぁ?」

 俺の発言にエリスは心底嫌そうに口を曲げた。


 「そうすれば、イービス先輩は少しだけボロを出す。そのボロに付け込む。とにかく、エリスの仕事はイービス先輩に愛想よくすること、オーケー?」

 「オーケーなわけがあるか!まず、貴様のさっきの話を聞く限りでは、私が了承すると同時にイービスは私を会長にできるようではないか!なんで、そんなリスクを私が犯す必要がある?」


 さっき俺が言ったこととは、俺がイービス先輩の執務室で見つけたエリスを会長にするための根回しだったりだ。それを見る限りでは、エリスの同意さえあれば、いつでもエリスを新統括委員会会長の席に据えることができるように思えた。


 「リスクを犯す目的は二つ。一つは、イービス先輩を表舞台に引き出すことができること。もう一つは、その機に乗じてイリアの執行委員会が強行捜査を行うから」

 「それは昨夜貴様が言っていたことか?」


 俺は沈黙をもって頷く。

 昨日の夜、イリアとエリスを交えて俺のイービス先輩陣営崩壊作戦について説明した。その最終段階として、孤軍となったイービス先輩にとどめを刺す、という目的でイリアに執行委員会の強行捜査を確約させた。その前に王とアーサーを離反させる必要があるが、それはこっちでなんとか対処する。


 人の構築した信頼関係なんてものは壊すのは余裕だ。会社にしばらく来なかった社員は自然解雇される、みたいなことを想像してもらえばいい。

 で、そいつをこれから実行するんだ。


 「エリス、これは俺からあんたへの指示だ。よく聞けよ」

 「貴様に指示されるというのは非常に腹立たしいが、イービスを潰すためなら仕方ない。で、なんだ?」

 「エリスは今日から四日後にイービス先輩の傘下に入る、とイービス先輩に告げに行く、いいな?」

 「つまり、その期間内に貴様は王、アーサー、雫李を離反させる、という意味だな?」


 「イエース!じゃ、明日からイービス先輩がエリスに話しかけてきても、嫌そうな顔しないようにがんばってね」

 「努力はするつもりだが……」


 エリスの言葉は歯切れが悪かった。まぁ、今まで嫌っていた男にいきなり愛想よくしろ、とか言っても無理だよな。


 「じゃぁ、できるだけ自然な受け答えをしてくれ」

 「努力する……」


 エリスの声は自信をまるで感じさせなかったが、この際仕方ない。妥協すべきかな、と適当な理由を付けて、その日の密談はお開きになった。



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