間違ったものの考え
「そうしたところだけど、ちょっとだけ時間が足りなかったかな?」
「はい?」
俺が返事をすると、同時に一限目終了のチャイムが鳴った。
「ごめんね、ボクは二限目には出ないといけないからさ、話したいことがあったら第二寮に来てね」
最後に自分の部屋番号だけ教えて、雫李はどっかに行ってしまった。
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雫李が消えてしまっとはいえ、まだやれることはあるはずだ。ここで放課後まで無為に時間を消費する必要もないだろう。
とりま、疑いを持たれないように泉さんに監視の目でも付けておきますか。戦闘以外にも貢献できるぞ、ということをイービス先輩に教えなくては、信用は得られない。
「Aera・oculis」
俺が生成したのは不可視の巨大な瞳。あらゆる罪業を見過ごさぬ、ミノス王の瞳だ。この目はあらゆる罪を見通す、と言われているが、俺が使えるのは例によって劣化版である。
この目にできるのは、せいぜいが特定の人物の心の中を四六時中見続けられる、という程度のものだ。監視カメラとしては最適な魔法だが、時々見たくもないその人の本性も映し出すので、使うのをためらわれる魔法だ。
それを三つ生成する。内二つを王とアーサーに送り、残りをイービス先輩に送った。言い訳用に泉さんにダミーを送ることも考えたが、ダミーとはいえ泉さんの私生活を覗き見るのは忍ばれた。
よし、ただの空気の玉を送ろう。適当ぶっこけばなんとかなるだろう。
イービス先輩程度の魔導師ではあの目は見破れないだろうし、他の二人も同様だろう。そもそも第九層魔導師以上で始めて見破れる監視の目だ。あの三人にはちょっとだけもったいなかったかな?あと、瘴素の無駄だったかも。
*
その日一日を使って、俺は情報を収集し続けた。まずは今日の朝俺を付け回していた学生たち。それからイービス先輩がいないのを見計らって、部屋に侵入したりとか、盗んだりとか。
とはいえ、さすがにイービス先輩も馬鹿ではなく、簡単に見つかるような場所に自分の秘め事を隠すようなことはしていなかった。いくつか重要そうな資料を見つけて、転写したがすぐにエリスを統括委員会の会長にするための根回し書類だとわかったので、気づかれない用にイリアの執務室に送っておいた。
やはり今日一番の収穫は雫李だろう。あいつは多少なりともイービス先輩に信用されているから重要な情報を引き出せる。それでいてイービス先輩に悪意を持っているからこっちとの利害は一致しているわけだ。
ことが済んだら泉さんに頼んでこっちサイドに招き入れてもいいかもね。
「随分と嬉しそうだな」
放課後、一人隠し笑いをしていた俺を後ろから刺すような声がした。振り向くと、エリスが眉間にしわを寄せて立っていた。
一目で怒っていることがわかったが、何に対してかは皆目見当もつかなかった。
「イリアから聞いたぞ。貴様、執行委員を辞めたそうだな」
「それが?」
「貴様、本当にあの男の軍門に下る気か?そんなに地位がほしいのか!」
ああ、これは本気で切れてるみたいだな。事前に俺の計画はエリスに言っといたはずだけど、イリアのアドリブのせいで予定が狂った。エリスも俺が執行委員を辞めるとは思わなかったのだろう。
それで、本当に俺がイービス先輩の軍門に下ったと勘違いしてるってとこかな?いや、それだけじゃないな。イリアの奴、何を吹き込んだんだよ。
これじゃあ、ことが済んでもエリスとはしばらくコミュニケーションに支障がでるな。主に煙たがれるとかいう意味で。
「俺はさ、勝率の高い方につくんだよ。で、天秤にかけた結果イービス先輩についた方が、実りが大きいと考えたわけ……」
「貴様のその腐った根性を叩き直してやろうか?」
急激に周囲の瘴素がうねりをあげる。これはマズイな。今はほとんどの生徒が下校中。ここでエリスが魔法を行使しようものなら、他の下校生も巻き込まれる。
しかも、怒りで正常な判断なくしてるから手加減はしないだろう。ほんと、イービス先輩もなんでこんなじゃじゃ馬現代貴族を会長なんかにしようとしたんでしょうね?
「じゃぁ、寮に帰ったら何回でも決闘してやるから、それまでお預けでいいか?」
「私を犬扱いするなよ?だが、その意見には賛成だ。ここでは他の人間に迷惑がかかる」
ああ、よかったー。これで密室での会合、略して密会ができるよ。
とりま場を抑えられてよかったー。ほんと、エリスは扱いが難しい。
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その後、俺が逃げ出さないようにずっとエリスは俺の後ろを尾けてきた。転移で逃げてやろうか、と考えたがそれでは密会ができないので、やめにした。
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寮に戻って、スクールバッグを置いて、ロビーに向かうと、待ち構えていたようにエリスがソファーに腰掛けていた。しかもその様子からして、怒りは絶頂に至っているらしい。
「うわー、めんどくせー」
と言いたくなる口をギリギリ抑えて、俺はできるだけ明るい口調でエリスに話しかけた。
そして返ってきた言葉がこれなのだから笑える話だ。盲点を突かれたとも言うな。普段の彼女からは想像できな言葉だったから。
「ぶち殺す……」
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