118.積もる話
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
カエデ達はロザリアを連れて港町へ戻り、定食屋へ入る。5人で大テーブルを囲い、茶を注文する。少々皆の空気を読めていないビリーは無料の食事に興奮して遠慮なく注文し、置かれる端から食べ始める。
カエデとロザリアは向かい合い、いつ話を切り出そうかもじもじし、それを隣で見るケンジとヨーコがため息を吐いた。
「お見合いかよ……こっちは色々と忙しいんだからさぁ……」ヨーコが時計を睨みながら茶を啜る。
「まぁまぁ……2人は20年以上ぶりなんだ……」事情も心情も察するケンジは腕を組みながら2人を見る。その隣で無遠慮に食べ続けるビリーを睨みつける。「お前は何なんだ? アスカの弟子とか言っているが、本当か?」と、彼に指を向ける。ビリーは箸を持つ手を止めず、飯を頬張りながらケンジに目を向けた。
「アスカ? 俺はロザリアさんの弟子だ。それも認めて貰った上での弟子入りだからな! お前が認めようと認めまいと……この魚、美味ぇ!」と、煮つけを頭から呑む様に食べる。
「こいつ……お代がこっち持ちだと言ったら……」
「そう言うお前は誰だ? 師匠とはどういう関係だよ」ビリーは手羽先に齧りつきながら問う。
「旦那だよ」
「だんなぁ!! 師匠に夫がいたのかよ!! わーマジか、びっくりしたぁ!!」と、口内の飯粒を吐き出しそうになって咳き込む。
「そうだ! 色々あったが、俺の魔剣を……ってか、アスカ! 俺の王風はどうした?」彼女が帯刀していないのに気が付き、目を泳がせる。するとその問いにロザリアは意識を取り戻した様な表情を彼に向ける。
「あぁ、旅をする上で目立つからな鎧共々……ある場所へ隠した」
「ある場所って……無くしたり誰かに取られたらどうするんだよ?!」
「大丈夫だ」と、安心する様に彼を宥める。彼女は旅を始める際に最初に立ち寄った村の民家の人に頼んで魔剣と魔刀、鎧を全て預けた。
すると話に割って入ろうとカエデがスクッと立ち上がる。
「あ、あのぉ……先ほどは見事でした! 魔剣が宿っているような強さでした!」緊張でガチガチになり、何を話せばわからなくなっていた彼女は、何とか言葉を絞り出し、座る。彼女の言う通り、真の魔剣使いは例え魔剣を所持しなくてもただの剣を魔剣の様に振るう事が出来た。が、ロザリアは所持していなくてもその素手に魔剣の力が宿っていた。
「お前も見違える程に腕を上げたな……今は魔王軍の剣術指南役で、治安維持局の局長か」ロザリアは、事情はどうあれカエデの躍進ぶりを誇る様に微笑んだ。
「私はまだまだです。いざという時に力が……まだ未熟なんだ……」
そんな彼女を見てヨーコがフンと鼻で笑う。
「若くしてアラカゼ流免許皆伝で今や当主。そんな卑下をされると、部下であるあたし達は一体、どんな精進をすればいいんだか」揶揄うように口にしたが、ヨーコの本心でもあった。彼女は今やヤオガミ列島では右に出る者の無い剣士であった。
「そうだな。今やあんたは立派な局長であり当主なんだ。胸を張って貰わなきゃ困る」ケンジも頷く。
「ま、師匠には負けたけど」ビリーが呟くと、瞬足でロザリアが彼の頭上に拳骨を見舞った。「あ゛いでぇ!!」
「剣を振っていれば勝ち負けを繰り返すものだ。常勝無敗なんてありえない。私だって……」ロザリアは自嘲気味に笑いながら己の掌を見る。
カエデは口を結び、自分の言いたい事を整理し、小さく口を開く。
「しかし……私は今やアラカゼを、ヤオガミを代表して魔王軍で働いています。私の一敗が国にどれだけの汚名を……」カエデは悔し気に握った拳を小刻みに震わせ、カーラとの戦いを思い出して奥歯を鳴らす。
するとロザリアが目付きを変えて彼女を見る。
「……お茶を濁すのはもうやめよう。カエデ……私はお前の兄の仇であり……生き方を変えてしまった。お前は私をどうしたい?」ロザリアは腹を括って彼女に問う。彼女は20年以上前のヤオガミで暴走し、ハッカイ村で大量殺戮事件を起こしていた。その際、彼女の兄を殺害していた。
「……私は兄の事が好きでした……しかし兄が貴女たちにやった事は許されません」彼女自身、事件についてあらゆる角度から調べ、最近になってようやくケンジからも話を聞き、自分の中で気持ちを整理したところであった。去年起きたヤオガミでのゼオ暴走事件を彼女が止めたと聞き、憧れだったアスカが戻ってきたと嬉しんだ。が、それでも兄の仇である為、複雑な思いで揺れ動き、先程の対峙で自分の心に決着をつけたのだった。今では『嵐薙ぎ』という伝説を作った彼女に対して圧倒されていただけであった。
「だが、私は自分でやった事を許すつもりはない……そして忘れるつもりもない。例え、お前が許してもな。私は自分で奪った命の償いの為、戦い続ける」
「魔王軍とか?」ケンジが意地悪そうに笑みながら問う。
「罪なき人を踏みつける者たちと、だ。私は魔王の地を旅しながら、色々と見極めようとしている」
「……こっちはあんたの捕縛命令が下っているんだよね。でも、それは……他の連中とは違った罪状? いや違うな……私的な感じだけど」ヨーコは頭を掻き、段々と鼻息が荒くなるケンジを見てため息を吐く。
「どういう意味だ?」ロザリアが首を傾げると、ケンジがテーブルを叩く。
「ウィルガルム、様は未だにアスカを諦めてないんだよ! 一目会わせろと、気持ちを聞かせろと……俺の嫁だぞ!?」ケンジは複雑な心境に苦しむ様に頭を掻く。彼がこうして剣を振るえる身体になったのはウィルガルムのお陰であり、またヤオガミが嘗ての頃よりもマシな国になったのも彼のお陰でもあった。彼の大恩に報いる為、ケンジは魔王軍を裏切り切れずにウィルガルム機甲団に残ったのであった。その結果、彼はバルバロンヘ呼ばれ、魔王の剣の副長に据えられたのだった。
「ウィルガルム……昔はウィリアムと名乗っていたな。あの時の記憶は曖昧だな……」彼女は嘗て魔王達と旅をしていたことがあったが、その時は心神喪失状態であった。
「最近は姿形が変わってスッキリしちゃったんだよね。その……なんていうの? 普通の人みたいな? マッチョなのは変わりないんだけど」ヨーコは彼に会った事があり、その時の様子が違っていた。以前は筋骨隆々の肉体を持っていたが上半身と右腕しかなく、残りは鎧が如き機械部品で補っていた。が、今は肉体は欠けておらず、見違えた身体をしていた。
「でだ、アスカ……ひとつ頼みがあるんだが……」ケンジが問うと、ロザリアは腕を組みながら黙って彼の頼みを聞く。
カエデ達がこの地方に来たのはロザリアを探す為だけではなかった。この付近の海域によく海賊が出没する様になり、近場のウィルガルムが管理する港が襲われ、その際に兵器や物資が強奪された。その海賊は巨大な戦艦を操り、情け容赦のない砲撃で港を火の海にして回っていた。その戦艦はフラッダ国がヤオガミで作られていた巨大兵器オロチの情報を掴み、それの対応策として建造した戦艦であった。それを海賊たちが強奪して改造し、我が物顔で乗り回していたのだった。
その海賊らが近々、この港を襲撃するという情報を掴み、その迎撃指揮を執る為にカエデ達が呼ばれたのだった。ロザリア探しはそのついでであった。
そしてその海賊の親玉がヤオガミ出身者であり、元ヤオガミ軍の剣士であるという情報を掴んでいた。それを聞き、一番表情を歪めたのはヨーコであった。
「海賊退治の手伝いか? 素手で良ければ」ロザリアは両手をヒラヒラさせる。
「武器なら貸し出す。頼めるか? 地元の軍や保安部隊だけじゃ心許ないんだ」ケンジが頭を下げようとするが、カエデの視線に気が付いて一歩引く。彼女は咳ばらいをし、テーブルに手をついて頭を下げる。
「私からもお願いします……相手は魔障壁を破る程の新型戦艦……それも5隻もの艦隊だという情報も……そして、このヴァライル地方より南東の海にはヤオガミがあります。もし、ここを抜けたら……次はヤオガミの可能性もあります。どうか、お力添えを!」カエデはヨーコにも頭を下げる様に促し、3人揃って頭を下げた。
それを見てロザリアは心苦しそうな表情を作った。
「頭を下げるのはよしてくれ。頼まれなくても手を貸す」ロザリアが頷くと、カエデは安心した様に笑顔を見せ、彼女の手を握った。
それを横目で見ていたビリーは楊枝を咥えながらご機嫌そうに口を尖らせる。
「海賊が相手か? いい修行になりそうだなぁ?」
「「「これは修業じゃない!!」」」カエデ達は彼に釘を刺す様に口を揃え、ロザリアは彼の後頭部を引っ叩いた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




