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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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117.カエデVSロザリア

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

「少し休むか?」ロザリアは青年を大地に皹が入る程の力で叩き伏せた後に問いかける。白目を剥き、瞼をピクピクトさせた彼は声を出せず、ただ小さく頷いた。彼女は彼の手を取って起き上らせ、近場の木にもたれ掛けさせる。


「あ゛ぁ……半端ないですね、師匠」青年はロザリアの事を師と仰ぎながら空を見上げる。


「傷は回復させず、しばらくそのままだ。その痛みがおまえを成長させる」と、彼女は水筒の水を一口飲み、彼に手渡す。


「マジすか? あばらに左上腕、脚も何か所か折れてるんすけど?」


「我慢だ、ビリー。修行の一環だ」


「そうっすか……」ビリーと呼ばれた青年は首を傾げながらも折れた個所、打撲の痛み、口内の鋭い痛みをゆっくりと味わい、激痛の痺れに身を委ねる。彼は肉体の痛みに関しては不快に思わず、水の流れの様に容易に受け入れていた。


「今の修行から何を学べるか、わかるか?」ロザリアは腕を組みながら彼に問いかける。


「……あー、いざ投げ飛ばされた時の受け身の取り方と、痛みの我慢の仕方、とか?」彼はあまり考える間もなくゆっくりと即答する。


「それもあるが、もっと重要なものをいくつも学べるんだ。私は幼少期から道場で幾度も投げ飛ばされたものだ」


「ガキの頃からっすか? そりゃあスゲェ……道理で強いわけだ」ビリーは口笛を吹き、呆れた様な表情を向ける。


「お前も強くなれるさ。筋が良い」と、微笑ましそうに頷く。すると遠くから近づく何かの気配を察知し、立ち上がる。


「何か来るんですか? っ痛ぅ!」ビリーも直ぐに起き上るが、折れた軸足の鋭痛に怯む。


「手練れが3人……私が相手をする。いや、知ったのがひとりか」と、ロザリアは気配の方へ腕組をしたまま凛とした表情を向けた。




 カエデ達3人は大型獣の足音の様な地響きを聞き付け、港の外れにある森の中へ入っていた。地響きが止まるとカエデは目を瞑り、耳を澄ませ、風魔法で気配を探る。


「……いる……アスカともうひとり……戦っていたのか?」彼女は魔刀を握る力を強めながらも慎重に進む。


「間違いないな、アスカだ」漂う気配だけで彼女だと確信したケンジは嬉しそうに頬を緩める。それを見たヨーコはため息を吐きながら彼の後頭部を叩いた。


「感動の再会だか知らないけど、今回はアスカの捕縛が任務よ」


「そうだが、『もうひとつの任務』もあるだろ。手伝ってもらうのもアリだ」


「何を呑気な……」


 するとカエデは立ち止まり、腰を落として軽く抜刀体勢をとる。彼女の眼前には仁王立ちしたロザリアが立っていた。


「フミヅキ・アスカとお見受けする。間違いないか!」カエデは声の震えを誤魔化す様に勢いよく大声を出す。


「今はロザリアと名乗っている! 魔王軍の手の者か? ん?」カエデの顔を確認し、ロザリアは目を細める。


「魔王の剣、局長のアラカゼ・カエデだ! 覚えているか!」


「勿論、覚えている。思い出話をしに来たわけでもなさそうだ……ケンジもその魔王の剣なのか?」と、一歩背後にいる彼に問う。


「まぁ、一応な」ケンジは肩を上げ下げしながら頷く。


「神妙にしろ! 大人しく捕まるならよし。抵抗するのなら覚悟しろ!」カエデは目を鋭くさせて構え、いつでも飛び出せるように更に腰を落とす。


「そうか……なら、いつでもこい! 相手をしてやる」ロザリアは腕を組んだまま胸を聳やかし、余裕の笑みを覗かせた。その背後でビリーはひょこひょこと片足立ちで距離を取り、師匠の戦いを見逃さない様に集中する。


「抵抗するんだな? なら……」カエデは殺気を滲ませ、じりじりと近づく。するとヨーコが彼女の肩を掴んで制止させる。


「ちょっと、相手は見た感じ丸腰よ? それを、魔刀を使ってまで?」彼女が指摘するが、カエデは彼女の静止を振りほどき怒声を上げる。



「何が丸腰だ! お前には見えないのか?!」



「え? は?」ヨーコは目を凝らし、注意深くロザリアを観察する。が、刀や剣、その他武器と呼べる物は帯びていなかった。それを見てケンジは笑いながら口にする。


「お前は剣士ではないからな。見えなくて当然かもな」


「あんたらには何が見えるの?」


「背中に大剣、腰に刀……ヤオガミで戦った時と同じ戦力の彼女が見える」ケンジは嬉しそうに口にし、大きく頷く。


「へぇ~……でも、丸腰じゃん」ヨーコは頬を膨らませながら指を差す。その指を斬り落とす勢いでカエデがチラリと彼女を睨む。


「黙っていろ! これ以上、口を出すな!」


「はいはい……」ヨーコはため息交じりに数歩下がり、手頃な切り株に腰を掛ける。彼女の隣にケンジが立ち、2人の間合いに集中する。


「さぁ、いつでも間合いに入って来い……」カエデは抜刀の構えのまま間合いギリギリの場で集中する。


「あの女、怖がってやがる」2人の睨み合いを見物しながらビリーがポツリと呟く。


「どうしたカエデ、あと1歩で真っ二つにできるぞ?」ロザリアは余裕の笑みで挑発する。彼女は素手ではあるが全く弱味を見せず、勝ち誇るように胸を張っていた。


「真っ二つか……確かに」カエデはゴクリと音を立てて唾を飲み込む。彼女は既に消耗しているのか大汗を掻き、膝は震え始めていた。彼女の脳内には幾度も自分の腕が折られ、胴を払われ、首を捥ぎ取られる様なイメージばかりが浮かんでいた。


「どうした? その魔刀は飾りか?」


 次の瞬間、ロザリアの挑発に乗る様にカエデは抜刀し、真空波の斬撃を放った。間合いの外から撃てる牽制技にはもってこいの技であったが、何故か彼女はこの攻撃すらも出し渋っていた。


 するとロザリアは腕組みを解き、右腕を背中へ回す。まるで背の大剣を取る様に拳を柔らかく握り込むと勢いよく振り下ろす。彼女の右腕から凄まじい勢いで魔力と共に突風が噴き上がり、土煙を上げながら迫りくる真空波を掻き消した。同時にその場からロザリアの気配が消え失せる。


 カエデは瞬きもせずに集中していた筈だったが、抜刀の刹那と轟音、土煙の目晦ましによって一瞬でロザリアを見失ってしまう。そしてコンマ数秒後、背筋にヒタリと何かが当たる。


「決着だ」


 ほんの一瞬でロザリアの手刀がカエデの首を捕え、優しく触れていた。


「……まだだ!」勝負がついたにも関わらずカエデは抜刀し、ロザリアの方へ向かって刃を振り抜こうとする。が、寸でのところでロザリアが魔刀の柄を押さえ、完全な抜刀を阻止する。同時に左手刀をカエデの顎下に置く。


「もういいか?」


「ぐぬ……くっ……」カエデは悔しそうに顔をくしゃくしゃにし、奥歯を鳴らす。



「大きくなったな、カエデ」



 ロザリアは彼女に笑顔を向け、頭を優しく撫でた。すると憑き物が落ちた様にカエデの表情が溶け、涙ながらに崩れ落ち、彼女に抱き付く。


「お、お会いしたかったです! アスカさんっ!!」


 それを見たヨーコは目を丸くして驚く。


「え? なんか恨んでいるとか因縁があるとかじゃないの?」それに対しケンジが彼女の肩に手を置きながら答える。


「あの2人は色々あり過ぎるんだよ。カエデは昔、俺達の道場に出入りしていたんだ」


「あんたらのって確かフミヅキ流だっけ? でも、カエデは……本当に色々あったのね」察したのかヨーコはため息を吐きながら頷いた。


 そんな彼女らをよそにビリーは嬉しそうに拍手をし、ガッツポーズをしていた。


「流石、俺の師匠! やっぱ最強だ!!」


 今度はそれを聞いたケンジは目を丸くした。


「弟子? あんな奴が? どういう事だアスカ!」


「色々あってな……」カエデを撫でながらロザリアは困った様に笑った。

如何でしたか?


次回もお楽しみに

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