115.アリアンの涙
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
アルバスを倒したカーラ達はヨタヨタと研究所最深部から皆のいる格納庫へと向かう。
「よ、みんなお揃いで」キャメロンは道中で拾った機材を杖にして歩いていた。カーラは未だに気絶しているトニーを荷物の様に肩に担ぎながら歩く。彼女自身は3人の中でも重症であったが、クラス4の魔力循環を全て回復魔法へ回していた。
「その様子だと、ここのボスを倒したんですね?」エルが問うと彼女はカーラの肩を叩きながら頷く。
「こいつの蹴りは凄いね。股間を蹴り上げてそのまま身体を真っ二つよ? で、あのムカつく頭を天井に叩き付けて果実みたいにグチャ! あんなに鋭い蹴りは見た事がないね」キャメロンは自慢げに口にし、カーラの肩をポンポンと叩く。
「あたしが蹴る前からグズグズに崩れかけていたからね。あんたが何かやったんでしょ?」カーラは清々したと言わんばかりに微笑む。
そんな彼女らを見てケビンは口笛を吹きながらマリーに自らの血を与える。彼女の頭は既に再生仕切っていたが、脳が不完全である為、未だに目覚めなかった。
「怖いネエちゃん達だな。お前もそのぐらい強くなってくれよ」と、手首からの出血を直ぐに止血し、コートに付いた埃を払いながらエルを見る。「で、これからどうするんだ? エレンさんを探すとして……」
「そうですね。場所はサンシャインシティの外れにある小さな村で診療所をやっているそうです。そこまでの移動手段ですが……」と、倉庫の天井に空いた大穴を見上げる。
「上? お前らここまで飛空艇で来たのか?」ケビンが問う最中、マリーが勢いよく起き上る。
「んぁ……んぉ? ここは……?」彼女は脳を丸々消し飛ばされた後だったため、記憶が混濁していた。ケビンはため息交じりに死体から切り離した腕を2本取り出し、彼女に与える。するとマリーはそれを愛おしそうに齧り付き、血を啜り始める。
「そうなんですけど……あのアリアンがアレを放っておくとは思えないんですよね……」と、エルは天井の穴目掛けて一足飛びに屋上へ上がり、空を見回す。照明弾代りに光弾を数発撃ちあげると、真下から飛空艇がぬっと現れる。「うわぁ!!」
エルは飛空艇が今迄、研究所の近場で着陸していた訳をパイロットから聞いた。なんでも急に乗り込んできたアリアンに脅されたが「そんな旧式くれてやる。なるべく低く飛ばないと撃ち落とされるから気をつけなさい」と、言われて冷や汗を掻いたそうだった。
「……ふぅん? 確かに旧式だけど、空飛ぶ乗り物を大人しくくれるなんて、どういう……」エルが首を傾げると、光球が懐から飛び出して彼に囁いた。「……え? それはどういう事ですか?」
その頃、アリアンはエレメンタル研究所から数キロ離れた小高い丘に座っていた。傍らではスティーブが未だに失神していた。
そこへ先日の選抜サバイバルで生き残り、魔王の矢に選ばれた狩人のひとりがやってくる。
「今後は如何いたしますか?」
「連中が去った後、研究所は無属性爆弾で跡形も無く吹き飛ばして更地にします。その前にアルバス博士の死体を回収し、水分を一滴残らず採取。ヴァイリー博士の元へ送ってください」
「襲撃者たちは捕えないのですか?」
「連中は私が相手をします。あの中には手練れの吸血鬼やクラス4、戦場経験豊富な使い手もいますから。それに、あえて泳がせたら大物が釣れるかも……」
「承知しました。クラス4程度なら我々でも狩れますが、貴女の命令ならば……」と、言いながら彼は風の様にその場から消えた。
アリアンの手足となって動く『魔王の矢』は集団で動かずアリアン同様、個人で動いていた。ひとりひとりに秘書長伝いで指令が下されていた。その中でも優秀な者らは必ずアリアンの周辺で活動し、彼女の動きに合わせてまさに気の利く手足の様に動いた。そんな彼らの働きは魔王も不気味がる程であった。
「……連中は必ずラスティーやエレン、ヴレイズと接触する筈……そこで芋蔓式に」アリアンは無理やり笑う様な表情を覗かせるが、頬に一筋涙がつたう。その涙に触れ、忌々しそうに奥歯を噛み絞める。傍らで未だに失神しているスティーブを見ると、静かにため息を吐いた。
「私も感情が無ければ、こんなに苦しむことはないのでしょうね……」と、口にした途端にポロポロと涙が溢れる。必死になって涙を払うが、今迄せき止めていた感情が溢れる様に背中を揺らして泣き声を上げる。
「ヴレイズ……会いたいよぉ……」
アリアン・ブラックアローと名乗る様になってからは冷徹な声、言葉しか吐かなかったが、今だけは嘗てのアリシアの様な声色で呟いた。
キャメロン達は全員で飛空艇に乗り込み、ケビンを除いて全員ぐったりと横になっていた。皆、疲れ果てておりこのまま眠りにつきたい心境であった。そんな中でこれからの事を話し合う為にキャメロンが唸りながらも上体を起こす。
「って事で、ここから真っ直ぐその村へ行くのね? なんて村だっけ?」
「日記帳によるとサンレイ村だそうです。そこで精神医療の診療所を開いて中々に盛況らしいですよ」得た情報を口にしながら日記帳を捲る。
「そこにラスティーもいると思うか?」ケビンが問うと、エルが頷く。
「あの人は彼女がいないと始まりませんから。そういえばヴレイズさんの同行は知りませんか? あの人は俺たちと別れてから音沙汰がないので……」エルは何かを心配するかのように口にし、手の中の光球へ目を落とす。
「あいつはミランダって使い手と一緒に修行の旅に出たからな。必要な時に駆け付けるとは言ったんだろ? だったら絶対に来るだろ」ケビンはヴレイズの事を信頼し切っている為、何の心配もしていない様に答える。
「でしょうね……でも、ちょっと心配なんですよ」
「何故?」
「アリシアさんが言うには、魂が2つに別たれた時、互いに色々と奪い合ったそうなんです。で、アリアンは魔王と共に世界を平和にしたいという想いと攻撃的な光魔法の使い方……そして」口にしようとした瞬間、光球が彼の口を塞ぐ様に飛び回る。
「どうした? なんでそんな動きを?」
「あ、いや……恥ずかしいから言うなって。で、アリシアさんは仲間と共に魔王を討つ倒したいという想いと防護や解呪の光魔法の使い方、そして仲間たちへの想いなどを」エルが口を結ぶと、キャメロンが彼らに割って入り、エルの胸倉を掴む。
「んで? そのアリシアが知られたくない事って、なに?」意地悪そうな表情を覗かせ、光球を握り込む。
「……まぁ、恥ずかしかろうがね……『ヴレイズさんへの想い』です」
「え? ヴレイズへの想い? マジ? こいつヴレイズの事が?」と、キャメロンは大声で笑おうとするが急に真顔になって光球を離す。「まぁ、以外でも何でもないか詰まらない」
「そこが厄介でして……もしアリアンの方が先にヴレイズさんと接触したらどうなるか……そして事情を知らないヴレイズさんはどう反応するか……」
「確かに心配だな……でも俺達がまず接触するのはエレンさんなんだろ?」ケビンが問うと、エルと光球は激しく頷いた。
「おそらくアリアンも俺達の思惑は知っている筈です。それにアリシアさんが実態を取り戻す条件も……故に彼女の裏を掻かなきゃ……どうすれば?」
すると今迄うっとりした顔でケビンから渡された腕をしゃぶっていたマリーが目をカッと開く。
「アリアン?! どこだアリアン!!」記憶を取り戻した彼女であったが、ケビンの拳一閃が顎に入り、気絶する。
「一旦黙っていろ。で、あいつの裏を掻く方法は簡単だ。この飛空艇ではアリアンに向かって欲しい方角へ向かい、最低限エルとアリシアさんはそのサンレイ村へ行けばいいんじゃないか? そうすれば一石二鳥だろ」
「いいアイデアですね! では、二手に別れましょう。俺とアリシアさんと……キャメロンさんは村の数キロ手前の地点で降り、皆は……好きな方へ」
「好きな方ってどこがいいかな?」ケビンが腕を組んで唸る。するとカーラが手を上げた。
「チョスコ方面へ向かってくれる? とある野郎に挨拶してやりたいんだよね」と、彼女は再び殺気を漏らしながら物騒な笑みを覗かせた。
「うーわ、怖ぇ~」ケビンは呆れた様に呟き、寝転がった。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




