114.闘志の正体
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
眼前の激闘の成り行きを見届けたアルバス博士は楽しそうに笑いながら髪を掻き上げた。
「こいつは素晴らしい!! これが、これこそが『闘志』という奴か!! 格下が格上を刺すとは……どういった条件が他にあるのだ? 脳から分泌されるドーパミン? しかし肉体は満身創痍で勝つ見込みはなかった。いや闘志というモノは理解できん!」彼は手帳に殴り書きを続け、鼻息を荒くさせる。
それを見たキャメロンはクスクスと笑いながら見上げる。彼女はカーラとトニーに負けず劣らず満身創痍で立ち上がれず、プルプルと震える事しか出来なかった。
「いい勉強になった? 良ければ、あんたにもあたしのトウシって奴を教えてやってもいいけど?」キャメロンは苦しそうに笑い、アルバスの顔を睨む。
「ほぅ、お前も教えてくれるのか? さぁ、どうやってだ? ん? この私に勝てるとでも? 私の実力は身を持って思い知った筈。それに今ここにいる3人が万全でも、私には万に一つも勝てるとは思えんが?」自信満々に早口で言う。彼は己の身体の魔力循環を最大限に改造しており、自分では六魔道団に匹敵する強さを秘めていると自負していた。
「じゃあ、ちょっと立たせてくれる? 口頭で説明してあげるよ、分かり易くね」キャメロンは歯を見せて笑い、手を差し出す。アルバスも笑顔で応え、彼女に手を貸して立たせる。
「で、この私に闘志を、どうご教授してくれるのかな?」
「そうね、まずあたしは……そこまで強くないわ。傭兵としては上の並ってところ? でも、あたしの仕事は強くある事ではないの。士気を高める事よ。そしてどうやって士気を高めるのか? それは……策を持って勝機を手繰り寄せる事。その策の出来によって士気の上がり幅が断然違ってね」
「おいおい、策や士気の説明は求めていない。闘志について説明しろと言っているのだ」アルバスは手に付いた彼女の血を拭いながら口を尖らせる。
「まぁまぁ結論を焦らないの。で、あたしのボスがいるんだけど……彼から士気を高める方法、策を練る方法を色々と教えてもらったわ。彼は凄い司令官だった。戦場での指揮も自由自在で、策は必勝。それは士気も上がって……」
「だから、私が聞いているのは闘志についてだと言っているだろう?!」アルバスはイラつきながら彼女に詰め寄る。彼は彼女からどんな不意打ちが飛んできてもはじき返す自信があったため、悠長に彼女の戯言に耳を傾け続けた。
「だから焦るなって! ここからが闘志についての説明よ。毎度、司令官の敵は各上だった。時には賢者、時には一国の軍隊、時には……魔王? そんな連中に一発くれてやる策ってのは毎度決まっているのよ」
「ほぉ、その方法と言うのは?」アルバスは「やれるものならやってみろ」と言わんばかりに近づき、耳を傾ける。
「侮る格上ってのは格下としか戦った事の無いの。つまり格下が勝つためにどんな事をするのか想像できないのよ」と、キャメロンはアルバスの目を睨みながらゆっくりと手に持ったある物を近づけ、彼の身体にそっと突き刺す。蚊が刺す程度にしか気づかなかったが、アルバスは余裕の笑みを覗かせながらキャメロンの不意打ちに気が付く。
「ん? 何をした? ナイフで刺したか? 無駄だぞ、私の身体には回復魔法も巡っている」
彼の満面の笑みを睨みながらも彼女も笑顔で返す。
「本当は高性能なナイフが欲しい所だったんだけどね……それよりも面白いモノを手に入れてさ……で、こいつが策で士気で闘志ってやつ? いや士気は関係ないか。まぁ、こいつがあんたの欲しがっていた答えよ」と、手に握られたある物を見せる。
それは金属製の筒であった。それを見つけたのは武器保管庫であり、新型エレメンタルガンや爆弾などに混じって置かれていた代物であった。彼女はそれの説明書にも目を通していた。
「これは……ん?! エレメンタルブースター……だとぉ!!」アルバスは目を剥いて金属製の筒を凝視する。それは彼が開発した新型のエレメンタルブースターであった。対応する属性は雷と風であり、それ以外の属性使いが撃つと拒否反応を起こすデータが摂れていた。因みにアルバスはエレメンタルブースターを使わない方法で身体を改造しており、この属性とは対応していなかった。案の定、刺された部分から血管が浮き上がり、体内の魔力循環が暴走を始める。
「うぐぁ! 貴様! やってくれたな!!」アルバスは大股を開いて狼狽し、刺された部分を押さえる。彼の肉体は内側からグズグズに崩壊していき、あまりの苦痛に目を剥く。彼の本来の属性は炎であり、内側から火花が漏れ出る。
「こいつがあんたの知りたかった闘志ってヤツよ。クソ野郎からは絶対に勝利をもぎ取るし、ついでにぶっ殺す」キャメロンは勝ち誇ったように笑い、エレメンタルブースターを彼に向かって投げ捨てた。
「カーラ……おい、カーラ」倒れ伏した彼女をトニーが揺り動かす。彼もうつ伏せに倒れていたが、起き上る前に彼女の無事を確かめようとしつこく揺らす。
「……ん、ぐぁ……頭が回る……顎に良いのを喰らった証拠だなこりゃ……って、トニー? なんでここに?」カーラはキョトンとした顔で彼の酷く傷ついた顔を見る。
「お前を追って来たら……ここにすんごい強い奴がいてさ、まぁお前ほどではなかったが……ぶっ倒してやったよ……大丈夫か?」
「もうダメってぐらいボロボロだけど、なんとか……ん?」カーラの耳にアルバスの悲鳴が届き、その方へ顔を向ける。次の瞬間、カーラの穏やかな表情が鬼面へ変わり、心に再び復讐の炎が着火する。トニーが声を掛ける前に彼女は床を蹴り、アルバスの間合いへ一瞬で入り込む。
「ぅぐあ……きざば……っ!!」アルバスは口から炎を漏らし、大股で崩れ落ちそうになり踏ん張る。
「アルバァァァァァス!!!!」
カーラは飛びかかったその勢いのまま蹴り足を振りかぶり、隙だらけの股下目掛けて振り抜く。彼女の蹴りはアルバスの股間を蹴り上げ、そのまま脚は彼の身体を股下から引き裂き、首のあたりまで真っ二つにする。彼女の脚が最後に彼の顎下まで到達すると、そのままアルバスの頭をボールの様に蹴り上げた。彼の頭はそのまま天井へ潰れた果実の様にへばり付いた。彼の肉体は内側から崩壊寸前だった為、この様にグズグズの真っ二つに成り果てたのだった。
「なんだ、この妙な手応え……本当にこいつはアルバスか? てか人間か?」脚で不気味な手応えを感じ取り、首を傾げる。
「うわ、カーラ!! ……ん? 正気に戻ったの?」催眠状態のカーラに蹴られたキャメロンは彼女を警戒し、反射的にしゃがみ込む。
「正気って何よ? あたしは最初から正気だけど……何かおかしいな。てかキャメロン、こいつに何かした?」と、真っ二つに崩れたアルバス博士を指さす。
「あ……トドメはあんたが刺したんだからいいじゃん」
「……こいつはアルバスなんだな? 正真正銘、あのクソ野郎なんだな?」カーラは確かめる様に再三に問う。
「そう。他にアルバス二世とかアルバスジュニアとかいなければ、ね」キャメロンはおどける様に口にし、彼女に手を差し出す。
「二世とジュニアって同じでしょ」カーラは彼女に手を貸しながら笑む。
「とにかく、ここのボスは倒したって事で……てか、あんたさっきあたしの事、蹴った?」
「蹴ってないよ」カーラは即答し、廊下で倒れ伏すトニーに近づく。彼は力尽きたのか、失神していた。「ったく、失神したいのはあたしの方だって……」と、気絶する彼を肩に担ぎ、怠そうな声を漏らしながら廊下を歩く。
「いや、蹴ったでしょ」
「蹴ってないって……蹴ったとしたら、あんたが何かふざけたんでしょ? あんたが悪い」
「……そっか。もういいや」キャメロンは納得した様に相槌を打ちながら彼女を追う。彼女はカーラに蹴られた事を追及する程のスタミナは無く、速く飛空艇に乗って気絶する事しか考えていなかった。
「てか上の状況はどうなっているの? なんでキャメロン達がここにいるの? くそ、後で詳しく聞かなきゃな……でもその前に、あたしも限界だな……ねぇキャメロン?」
「何?」キャメロンは壁に体重を預けながら何とか歩いていた。
「あたしとトニーを運んで上へ戻れない? 出来ればヒールウォーターとか用意してくれるとありがたいんだけど?」
「お前、図々しいな」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




