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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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113.カーラVSトニー

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

「ぐはぁ!!」トニーは研究所最深部の廊下を転がり、激しく吐血する。彼は全身の骨に皹が入り、カーラのつま先が腹筋を突き破られ、激痛に苦しむ。が、それ以上に彼はこの状況をこの上なく楽しんでいた。眼前には冷めた表情のカーラが見下ろし、追撃の為に右脚をゆっくりと上げていた。トニーは激痛や疲労、絶望的な戦闘力差に打ちのめされそうになっていたが、眼前の今までにない絶壁を目の当たりにして嬉しんでいた。更に先ほどケビンに言われた言葉が心を撫で、悔しさを燃料にして立ち上がり、彼女の疾風の蹴りを頬に喰らい、壁に叩き付けられる。


 カーラとの実力差は歴然であった。クラスの差、魔力循環云々ではなくカーラの蹴り技とトニーの拳闘術では天地の差があった。それは彼と彼女の辿って来た経験だけでなく産まれや学びにあった。が、それだけでなくカーラは催眠術によって容赦が無くなっていた。昆虫の様な無心の殺意とカーラの戦闘力が合わさり、理想的な戦闘兵器と化していた。


 それに対するトニーは先ほどからワザと彼女の蹴りを防がずに喰らい続け、腹の底にあるモノを滾らせていた。


「ぐぁ……最高だよ……お前が敵に向ける時の蹴りってこんな風なのか」ヨロヨロとした足取りで腕も上げずに彼女の眼前に立つ。


 カーラは眉ひとつ動かさずに下段、中断、上段と一瞬で三連蹴りを放つ。不気味な音を立ててトニーはまた壁に叩き付けられ、血のスタンプが押される。が、彼は笑いながら彼女の前に立ち、血と砕けた歯を吐き捨て、力強く胸を張る。


「だが、正気のお前の方がもっと強いんだろうな……反撃も防御も許さず、こうして立ち上がる事も許さず、一瞬で圧倒的に倒すんだろうな……」トニーが口にした瞬間、カーラの蹴りが彼の顎を撃ち抜く。彼の後頭部が背中に激突し、天井に血唾が飛び散る。返って来た勢いでカーラの方へ前のめりに倒れるが、彼女は容赦なくまた彼の顔面を蹴り飛ばし、後方へ吹き飛ぶ。トニーは受け身も取れずにゴロゴロと転がり、そのまま動かなくなる。


 その戦いとも呼べない一方的な暴力を観察していたアルバス博士は詰まらなさそうにため息を吐く。


「ん~、彼は何がしたいんだ? スティーブと戦っていた時はいいデータが摂れたが、今のこれは? 理解が出来ない。おい、お前から見てどうだ? 理解できるか?」と、足元で転がっているキャメロンの髪を掴んで戦いの方へ向ける。


「……知らねぇよ……」


「これが闘志って奴なのか? ここから何か見せてくれるのか? まぁどちらにしろ、勝った方はサンプルにしてやる。あぁ、カーラはソルツへ返さなきゃな……」アルバスはキャメロンから手を離し、手に付いた血糊をティッシュで拭う。


「……っ」キャメロンは口の中で言いたい事を押し殺しながら何やらごそごそとさせ、アルバスに見えない角度で微笑んでいた。




 その頃、ローズを無理やり気絶させたエルは自分の腫れた頬を押さえながらスティーブの傍らで腰を降ろしていた。彼の身体をアリシアの光が弄り、頭部の中を診察する。


「どう、あんたの先生ならどうにかできるんじゃないの?!」マリーは鼻息を荒くさせてエルを揺り動かす。


「光魔法は回復向きだけど、脳の欠損までは……ていうか、どの属性の回復魔法でも厳しいと思います……」と、彼にしか聞こえないアリシアの声を聞き、顔色を悪くさせる。彼女の見立てでは脳の修復は不可能であり、彼女自身にも理解しがたい改造が施されていて最早専門外であった。


「そんな……奇跡を信じて彼を吸血鬼に変えてみない?」マリーは涙ながらにケビンに訴える。


「断る。俺は悪戯に吸血鬼は増やしたくないし、都合の良い奇跡は信じない事にしている」



「それが正解よ」



 突如、彼らの背後に黒スーツにサングラスの者が立っていた。彼女はもう1人のアリシア、アリアン・ブラックアローであった。


「っ!! アリアン!!」反射的にマリーが襲い掛かるが、一瞬でアリアンは光の矢で迎撃し、頭の上半分が吹き飛びその場に倒れる。


「懲りない子ね。再生しても記憶まで戻るか約束できないな、コレは」アリアンは周りの警戒の眼差しに怯まずにスティーブの方へ歩を進める。


「何しに来た?」ケビンは警戒しつつも大剣に手を掛けずに問う。


「彼を迎えに。貴方達で彼をどうにか出来るとは思えないのでね」と、エルの正面でスティーブを挟む様にしゃがみ込み、彼に手を置く。すると敵意をむき出しにした光の球が彼女に襲い掛かる。が、アリアンはそれを蠅でも追い払うように叩き、エルの方へ飛ばす。


「魔力を制限されない場では、お前なんか小鳥程度よ。この身体は私のモノ」


「……アリアンなら彼を助けられるんですか?」エルは恐る恐る口を開く。アリアンはしばらくその問いには答えずにスティーブの身体を調べ、後頭部の傷を診てため息を吐く。


「部品の一部を取り外したみたいね……ったく、何も知らないなら下手に弄っちゃだめよ。で、今の問いだけど私では助けられないわ。でも、面倒は診られる。貴方達は彼の扱い方を知っているの? エネルギーの補給方法や排便のやり方、整備方法……彼は最早、今迄の彼ではないの」と、アリアンはひょいとスティーブの身体を担ぎ上げる。


「スティーブをこんな風にしたのは、この施設に送ったのはお前だろ?」ケビンは目を座らせて口にする。


「私が対峙した時には既に手遅れだったし、研究所へ送ったのは私の指示ではないわ。ま、私を憎みたければどうぞ。今日は彼を迎えに来ただけよ。この研究所とアルバスはあげるわ。彼の研究成果や兵器の大部分は輸送済みだし」と、彼らに背を向けて歩き始める。


「まてアリアン! アリシアさんに身体を返せ!!」エルは勢いよく立ち上がり、彼女の背後から掴みかかる。が、アリアンはカウンター気味に回し蹴りを見舞い、彼の顎を蹴り抜く。エルは勢いが嘘のように膝が抜けて前のめりに倒れ込む。


「万全だと、これだけの差があるのよ。あと魔王様の前だったら誰もお話にもならないから、そのつもりで。あとこの研究所を潰した程度では傷ひとつ付かないわ。無事に国を抜ける計画を練る事ね。じゃ」と、アリアンはピースサインと共に閃光を放ち、一瞬でその場から消え去る。


「……玩ぶ感じが彼女らしくないというか、らしいというか……楽しんでやがるな」ケビンは苦々しそうに口にし、頭を消し飛ばされたマリーを抱き起す。彼女の脳はジワジワと再生を始め、指が小刻みに震えていた。




 トニーは酔っ払いの様な足取りでカーラの間合いへ近づく。カーラは相変わらず無感情な表情で彼を眺めていた。


「よし、もういいぞ……もう見切ったぞぉ……遊びは終わりだ……」彼は首を赤子の様にグラグラさせながらも、ここでやっと腕を上げ、拳を握り込んだ。


 それを見たアルバスは眉を顰めたが、まるで期待はしていなかった。


「ここから逆転? 生物学的に見てもありえない」


 彼の失望とは裏腹にトニーは何かを確信した様に笑み、一歩一歩身体を引き摺る様に彼女の間合いへ近づく。


「ガキの頃、一撃必殺に付いて話し合ったのを覚えているか? どんな相手でも一発で倒すすんげぇ技だよ。父さんに聞いてもそんなモノは無いと笑われたが……どうだ? 今のお前だったら出来るんだろうな。俺は……万全のお前には通じなくても、今のお前になら通じると思っている……」と、彼女が反応する半歩手前まで近づく。


 カーラは未だに眉ひとつ動かさず、ただ次の蹴りの準備を一瞬で済ませていた。


「俺の望みは強くなる事、パトリックをぶち殺せる程に、そして……お前を守れる程にだ。十分すぎる程強いお前を守る必要はないかもだが、今のお前は、助けを欲している様に見えるぜ? どうだ……?」青タンで腫れあがった瞼を無理やり見開き、彼女の瞳を見る。


 カーラの瞳の向こう側では、雁字搦めに縛られて椅子に座らされた彼女は必死に叫んでいた。その隣ではそっと催眠の大元であるソルツが肩に手を置き、無駄だと嘲り笑っていた。


「そこまで言うなら助けて見ろよ、トニー!!」そこで彼女は涙声で叫ぶ。同時に彼は間合いに入り込み、無感情のカーラは条件反射で上段蹴りを見舞った。



「っそこだよ!」



 トニーは彼女の蹴りを紙一重で掻い潜り、彼女の顎に豪速の拳を掠めた。その拳に破壊力は無かったが、掠めた事によりカーラの脳は今までにない程にシェイクされ強制的に意識を消し飛ばされた。カーラは白目を剥いて倒れ込んだが、トニーはそれを抱えながらも共に崩れ落ちる。


「やっと助けられたかな?」トニーは満足そうに笑いながら前のめりに倒れた。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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