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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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112.光球のアリシア

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 エレメンタル研究所最深部でキャメロンは血達磨になり転がっていた。手を僅かに痙攣させ、弱々しく起き上ろうとするが、勢いよく吐血して膝を折る。その瞳は未だに闘志を失っておらず、眼前で見下ろすアルバスを睨み付け続けていた。


 アルバス博士は退屈した様にため息を吐き、白衣や靴に返り血が付いていないかを確認していた。


「やはり君は侵入者の中で一番の弱者だな。並のクラス3で炎使い。特別魔力を練るのが得意でも無ければ、幻術などの搦め手も出来ない。ただ炎の翼で上空を取り、炎の礫を飛ばすだけ……闘志というモノを実戦で感じたいとは思ったが、時間の無駄だったか」アルバスは教師の様な口ぶりで話し、ゴミを見る様な目を向ける。


「そりゃあ、悪かったね……でも、あんたの見たい闘志ってやつはそう簡単なモノじゃないんだよ……」キャメロンは血咳を吐きながら壁伝いに立ち上がり、手の中に炎を滲ませる。


「まだやる気か? 無駄な足掻きも闘志の一部と言う奴か?」アルバスは瞬時に間合いを詰め、キャメロンの鳩尾に掌底をめり込ませ、廊下の向こう側まで吹き飛ばす。彼女はまた血を吐き散らしながら転がり、目を剥いて動かなくなる。


 アルバスはごく普通のクラス2にも満たない一般人である筈だった。が、エレメンタル研究所での研究成果を私物化し、己の魔力と筋力、瞬発力を強化していた。その為、戦闘力は並の接近戦型クラス4と同等の実力を持っていた。更にあらゆる拳法家や戦士の戦闘データを、メモリーウォーターを介して学んでいた。そして彼の衣服はあらゆる魔法を跳ね返す魔障壁が常に展開されていた。


「さて、上の戦闘も終わったころか。いいデータが摂れただろう。後は、使える連中は捕えて……ん? この男は?」モニター越しにエルの顔を見て目を見開く。「クラス3の光使いか……欲しかったところだ」



「アルバァァァァァス!!!」



 背後から凄まじい怒声が響き渡る。そこには怒りを再燃させたカーラが仁王立ちしていた。今の彼女は重傷を負ったキャメロン以上に満身創痍であったが、練った風の回復魔法を体内で循環させぎりぎり立っていた。


「カーラ、戻ってきたか。そうだ、お前なら私に闘志というモノを感じさせてくれるかな?」


「闘志? 今のあたしにあるのは怒りだけだ!!」砕けそうな身体に鞭を打ち、全身から響く激痛を噛み殺して一歩一歩前へ進む。


 そんな彼女のコンディションを見透かしたアルバスは鼻で笑い、こちらへ向かってくるもう1人の気配を察知する。


「ふむ、少々面倒な事になりそうだな。よし、では……」と、アルバスはデスクの上に倒れたメトロノームを手に取り、振り子を動かし始める。


 カチカチと一定のリズムを響かせ、その音がカーラの耳に入る。するとまた彼女の顔から表情が消え失せ、その場に直立する。瞳は抵抗する様に小刻みに震えたが、やがて光が消え失せる。


 そんな彼女の気配に気付いたキャメロンがゆっくりと彼女の方へ顔を向ける。


「……カーラ? ローズを止めたの? 良かった、ちょっと手を貸してくれない?」と、彼女は手を差し出す。


 が、カーラはそちらへは目を向けず、ぼんやりとした顔で虚空を見つめていた。


「カーラ?」キャメロンは殴られた個所を押さえながらゆっくりと起き上り、彼女の肩に手を置き揺さぶる。



「カーラ、邪魔者を排除しなさい」



 命じられるままにカーラはキャメロンを一瞬で蹴り飛ばし、壁へ叩き付ける。再び彼女は床に倒れ伏し、今度こそ失神してしまう。


「さぁ、もっとデータを摂らせて貰うぞ」アルバスは微笑み、こちらへ走ってくるトニーを待った。




 その頃、ケビンは光球をまじまじと見つめて首を傾げていた。


「俺も200年以上この世にいるが、にわかには信じられないな……これがアリシアさんとは……」と、光球に触れようとする。が、彼の手を避ける様に光球はヒラリヒラリと避け、エルの元へ向かう。


「俺も最初は幻聴か夢かと思いましたが、あまりにもしつこく語り掛けてくるんで……」


「彼女の言う事がわかるんだよな? じゃあ、今は何て言っているのかわかるか?」ケビンはエルに一歩詰め寄る。


「まぁ……さっきまでは『やりにくいなぁ~』とか『はやくエレンを見つけに行け』とか……今は『急に触ろうとするな!』でしたね」と、エルは光球の光に触れながら話す。


「なるほど、彼女らしい……そうだ! お前の身体を貸す事は出来ないのか? ネクロマンサーの初期呪術みたいだったな」と、昔に得た知識のまま口にする。因みに死体を弄ぶ呪術は聖地ククリスにより世界的に禁術とされていた。


「試してみようと思いましたが……なんでも魂と肉体が適合していないとダメだとか。だから死体を借りた降霊術は上手くいかないらしいです」


「じゃあ、しばらくはお前の通訳頼みか……アリシアさんも何で元の肉体を追い出されたんだか……」ケビンはため息交じりにエルの肩に手を置く。



「アリシアぁ!!」



 突如、ローズが目を覚まし、再び光球目掛けて襲い掛かった。彼女の瞳や肉体はまだ回復に程遠い状態であり、起き上れるコンディションではなかった。が、ローズは猫の様に飛び起きてアリシアの気配のする方へと殴りかかる。物理攻撃は効くはずも無かったが、アリシアは仰天してエルの背後へ逃げ、ローズの拳が直撃する。


「ぐはっ!! ちょっとローズさん!! 勘弁して下さいよ!!」エルは殴られながらも必死で止め、無理やり静止させる。


「今、アリシアっていっただろ! あいつはどこだ!! 思い知らせてやる!!」ローズの中では未だにアリアンとアリシアの違いがいまいちわかってはいなかったが、気に入らない事だけは確かだった。


「今は身体の治療に専念して下さい! 死んじゃいますよ!」


「死ぬもんかよ!! あいつを超えるまで!! ってかあれ? 目が見えないな?」と、ここでやっと自分が失明している事に気が付き、その場に腰を降ろす。


「だぁかぁら、じっとしていてください! その目もきっとエレンさんなら治せますよ!」


「……くそぉ……てか落ち着かないなぁ! アリシアの気配がまだする! 出てこい! 決着をつけてやる!!」ローズは未だに脳内で目的が暴走しており、落ち着くく事が出来なかった。


 それを見たマリーはため息を吐いた。


「彼女、吸血鬼よりも不死身じゃない?」


「アリシアさんの仲間って、みんなあんな感じだぜ?」ケビンは冗談交じりに口にする。


「マジで?」


「アリシアぁ!!」また彼の言葉に反応してローズが暴れ出し、またエルが殴られる。


「勘弁して下さいよぉ……」




 トニーが研究所最深部に辿り着くと、眼前には無表情のカーラが立っていた。その立ち姿に殺気も気迫も無かった。この雰囲気を彼はどこかで見た事があり、嫌な予感が脳裏を過る。


「カーラ、どうしたんだ? まさか……」半歩踏み出した瞬間、彼女の上段蹴りが飛んで来る。それを彼は左腕で防ぎ、勢いを半分以上受け流す。


「ぐぉ!! クラス4の蹴りか! 強烈だが……その状態のお前には何故だか、負ける気がしないな!」トニーは拳を構え、腰を深く落とす。一瞬でクラス4並の高速魔力循環を実現させ、脚から腕まで力を漲らせる。


 同時に彼女の蹴りと拳が交錯し、廊下中に衝撃波が駆け抜けた。カーラは数メートル後退したが、すぐに次の蹴りの体勢になる。トニーは余裕の笑みを浮かべ、拳を引いた。


「いや、俺は弱くねぇぞ……それをここで証明してやる!」


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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