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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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111.2人のアリシア?

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

「スティーブ……酷い事をしやがるな、この施設は……」ケビンは彼の血を舐め、サンゴイズ港での事やエレメンタル研究所での事を知り、怒りを覚えていた。


「ケビンが噛めば、助けられるんじゃない? お願い!」マリーは彼を助けたい一心で頭を下げる。


「いや、吸血鬼にしたところで感情が戻る保証はない。ただの感情の無い吸血鬼が出来上がるだけだ。それだと本能のままに人を喰らう化け物になるだろう」


「じゃあ、どうすればいいの!?」マリーは目に涙を浮かべながら床に皹が入る程に激しく叩く。


 そんな騒ぎの中でもスティーブは未だに目を覚まさず、気絶したままだった。ピクリとも動かなかったが、頭の内部では何かしらの機械が蠢いていた。


 2人がスティーブの事で話し合っている背後でトニーがケビンに一歩ずつ近づき、そっと隣に立つ。


「……なぁ、あんた討魔団に所属しているんだよな?」好奇心の声色で問う。


「まぁ、そうだな。特に役職には就いていないから微妙なトコロだが」


「あんたの目から見て、俺ってどうだ? 赤熱拳のヴレイズに迫るぐらいかな?」トニーは自信満々で問いかけ、ケビンの顔色を伺う。


「……そういう質問をする時点でまだまだって所を自覚した方がいいぞ。このタイミングで」ケビンは彼には目も向けずに口にしながらスティーブを担ぎ上げ、アリシアの気配のする方へと脚を向ける。


「俺には重要な事なんだ! あのヴレイズは六魔道団のパトリックと互角だった。ヴレイズを超える程だったら、俺はパトリックに勝てるって事だ! 頼む、真面目に答えてくれ!」トニーは未だにパトリックに対する復讐心を抱いていた。自分にそれだけの実力が備われば、直ぐにでもチョスコへ向かいパトリックを正面から殴り殺すつもりでいた。


「変な算数だな。そんな頭じゃ、ヴレイズに迫るのもパトリックって奴に勝つのも無理だろ」ケビンはため息交じりで口にし、歩きはじめる。


 トニーは引き攣った笑みを浮かべ、拳を固く握り込み、思い切り振り被る。



「そんな台詞は俺の拳を味わってからにしろ!!」



 トニーの拳は空を切り裂く。同時にケビンは一瞬で回れ右をし、顔面で彼の拳を受け止める。彼は瞬きすらせずにその拳を受け、少しも身じろがず、ただ呆れた瞳で彼を眺めた。


「……その程度だったら、討魔団に入れても副隊長ぐらいかな? これでいいか」


「ぐっ……ぬっ……」トニーは静かに砕けた拳を引いて押さえる。スティーブとの激しい戦いでも傷つかなかった拳が一発の頭突きで破壊されたのだった。


「さ、とっとと先を急ぐぞ。ま、ついてこなくても良いが」ケビンは回れ右をし、乱れぬ足取りで先を急いだ。その後ろをマリーも追い掛ける。


「ヴレイズって奴は一体、どんな男なんだ……?」トニーは複雑な感情の中で納得できない様な唸り声を漏らした。彼は今日まで自分なりに強くなるために様々な修行と戦いを潜り抜け、バルバロン最強の拳士を誇れるほどに強くなったつもりであった。が、呆気なく拳を砕かれた挙句、目標としていた男に全く届いていないと言われたのだった。彼は一気に自信を無くし、心が折れそうになっていた。


「……カーラ……」立ち止まっている余裕がない事を思い出し、2人の後を追った。




 やっとの事で暴走していたローズを気絶させ、回復魔法で治療を続けるエル。彼は光魔法で回復力を増したヒールウォーターを器用に使って彼女の傷を少しずつ癒していた。さらに光球がローズの体内か焼け焦げた内臓を治癒させていた。


「戦いに次ぐ戦いに雷魔法の暴走か……目を覚ましても第一線に戻れるかが心配だな」エルは彼女の回復を案じる様にため息を吐きながらカーラを見る。彼女は独自の風の回復魔法を使って自身の傷を癒し、よろめきながらも立ち上がる。


「よし、あたしは先へ向かう」


「先って、その身体で? 無茶ですよ!」エルが止めようとした瞬間、彼女は獣の様な殺気を滲み出し、目を鋭くさせる。


「まだ終わってないんだよ! ここの主を潰して、やっと半分だ!」カーラは奥歯を噛み絞め、全身万遍なく奔る激痛を堪えながら研究所最深部への道を歩み始めた。


「本当にタフな人だな……確か先にキャメロンさんが向かったんだよな? なら大丈夫か」彼は彼女の事を信じ、カーラを1人向かわせてローズの治療に集中した。


 するとそこへ、スティーブを担いだケビンがぬっと現れる。


「お、エルじゃないか。それに横たわっているのは……ローズか? 2人ともズタボロだが何があった?」と、ローズの隣にスティーブを寝かせる。


「ケビンさん?! 何故ここに? いや、今はいいか……それにそこの2人は?」と、マリーとトニーを指さす。


 ここに集まった者らは適度に自己紹介を済ませ、今の状況を確認する。


「成る程、敵じゃないなら安心ね」マリーはエレメンタルガンの引き金から指を離し、懐に仕舞う。が、ケビンが言う『アリシアの気配』に対して警戒し、鼻を効かせる。が、彼女にはケビンの言う気配は感じ取れず、周囲を見回す。


「カーラはこの先か……俺は追わせて貰うぞ」と、彼女が向かった方向へ足を向ける。


「で、アリシアさんはいるのか? 気配が強くなったが……どこだ?」ケビンは周囲を見回し、気配が一番強い方へ目を向ける。そこにはローズが寝ていた。


「多分信じないでしょうけど、気配を感じるなら……出てきてください」エルが口にすると、ローズの体が光り輝き、光の球がふわりと現れる。それは警戒に飛び回り、ケビンの顔の前まで近づく。


「……何だこの光は?」



「この光がアリシアさんです」



「……なんの冗談だ?」ケビンは目と耳を疑い、エルと光球を交互に見る。


「これがアリアン?! そんな馬鹿な! 似ても似つかない!」マリーは目を凝らして光球を睨み付ける。


「ほら信じない」エルはため息交じりに『アリシアが眼前の光球である』事の説明を始めた。




 アリシアは魔王との戦いを経て魂が2つに別れ、こちらの魂は身体から追い出された方であった。肉体を所有するアリアンと名乗る者も間違いなくアリシアであり、あちらは『魔王と共に世界平和を実現する野望を持ったアリシア』となっていた。そして肉体を追い出された光球は『仲間たちと魔王の野望を阻止したいアリシア』であった。


 光球は肉体を追い出された後、しばらく太陽の下を漂い己の意識が掻き消えない様に集中し続け、なんとか光球として自我を保つことに成功する。その後、同じ光属性使いであるエルに接近する。彼女の声を聞けるのは光使いのみであり、光魔法を教えていた縁で彼を選んだのであった。接触後は彼の身体に潜み、引き続き光魔法を教えながら他の仲間、特にエレンと接触する事を願いながら今に至った。




「何故エレンさんなんだ? 彼女は水使いだし、今はマリオンだし……」ケビンは彼女を思い出しながら首を傾げる。


「彼女に渡したある物が重要なんです。それがあればアリシアさんは肉体を取り戻す事が出来るんです! ですよね?」と、エルは光球に目配せをしながら口にする。


「って事はエレンさんを探せばいいのか」にわかには信じられない現実を前にしたが、眼前で調子よく跳び回る光球を見て話を信じ、頷く。


「ちょっと、あんたらだけで話を進めないでよ! じゃあ、あのアリアンはどうするの? 仲間だから殺すなって? 冗談じゃない!!」マリーは殺気立ちながら唸り、激しく光球を睨み付ける。


「あのアリシアさんも、間違いなくアリシアさんでした。それを確かめる為に接触し、一戦交えましたから」ダークビルの森での事を口にし、身震いする。あのまま戦っていたらエルは間違いなく狩り殺されていた。


「なんだか話が複雑になりそうだな……で、これからどうする?」ケビンは複雑そうな笑みを光球に向ける。


「エレンさんを見つけに行きます!」

如何でしたか?


次回もお楽しみに

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