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無能扱いされた少女たちの才能が見える俺、適材適所で最強国家を築く  作者: 浅入燈馬


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第四十六話:嵐の前の静寂、寂涼の街に誓う決意

 大温泉開発の成功と、それに続く多種族の共生がもたらした活気により、ユウマたちの街は、一時期この地方で最も賑わう交易都市の座へと駆け上がっていた。

 だが、その繁栄の喧騒は、ユウマが下した「ある苦渋の決断」によって、わずか数日のうちに霧のように掻き消えることとなった。

「――近いうちに、この街の海岸線に向けて、深海からの大規模な魔物の軍勢……『アビサル・レギオン』の本隊が襲来する可能性が極めて高い。非戦闘員、および他所から来ている商人、旅人は、速やかに街を離れ、内陸の安全な地域へと避難してほしい」

 ユウマが商業ギルドの広場、そして街の四方に布告を出したその日、街の空気は一変した。

 最初は誰もが耳を疑った。先日、あれほど完璧に異形を退けた防衛線があるのだ。しかし、村長でありこの街の守護者であるユウマの、一切の冗談を排した真剣な眼差し、そしてリリィたちが提示した「禁書に記された神話の時代の災厄」という不穏な響きは、商人たちの現実的な計算を呼び覚ますには十分すぎた。

「おい、冗談じゃねえぞ! 神話の化け物の本隊なんてものに巻き込まれたら、命がいくつあっても足りん!」

「せっかく常設の支店を作ろうと思って契約書まで用意したってのに……。すまないな、村長さん。俺たちは荷物をまとめて、一度王都の方へ引き揚げさせてもらうよ」

 そう言って、一人、また一人と、商人たちは馬車に荷を積み込み、街を去っていった。

 それから数日。かつて市場の天幕が立ち並び、多種族の笑い声と威勢のいい掛け声で満ち溢れていた中央広場は、今やしんと静まり返っていた。

 風が吹き抜けるたび、売れ残ったわずかな荷縄や布切れが、寂しげな音を立てて石畳の上を転がっていく。他所からやってきていた人間の行商人、大森林のエルフたち、山越えの獣人たちの姿はもうどこにもない。

 広場を見下ろす物見櫓のバルコニーに立ち、ユウマは一人、その閑散とした街並みを見つめていた。

「……少し前までは、歩くのも大変なくらいの賑わいだったのにな」

 ぽつりと溢れたユウマの呟きには、隠しきれない寂寥感が滲んでいた。

 自らの手で拡張し、誰もが笑って過ごせる豊かな場所に育て上げてきた街。それが、未知の敵の脅威によって、まるでゴーストタウンのように静まり返ってしまったのだ。己の判断は正しかったのか、それとも街の発展を自らの手で止めてしまったのではないか――そんな、指導者としての孤独な迷いが、彼の胸を小さく締め付けていた。

「――ユウマさま」

 後ろから、衣擦れの音と共に、優しく、包み込むような声音が響いた。

 振り返ると、そこにはリリィが立っていた。彼女はいつもの総務の忙しい服装ではなく、戦闘に備えた機能的でありながらも、彼女のしなやかで透明感のある美しさを引き立てる、新緑の旅装に身を包んでいた。

「リリィ……。すまない、少し、感傷に浸っていたよ」

「ううん、分かってるよぉ、ユウマさま。せっかくリリィが色んな商会から集めてきた契約書も、全部お預けになっちゃったもんねぇ。せっかく賑やかになって、みんながユウマさまのことを『最高の領主様だ!』って褒めてくれてたのに……寂しくなっちゃうの、当然だよぉ」

 リリィはユウマの隣に歩み寄り、その白い手でユウマの少し強張った手をそっと包み込んだ。彼女の手は驚くほど温かく、そして柔らかかった。ハーフエルフである彼女は、幽閉されていた数十年間、これ以上の、比べ物にならないほどの「絶対的な孤独と寂しさ」を経験してきた。だからこそ、今のユウマの胸の痛みが、誰よりも痛いほどに理解できたのだ。

「でもね、ユウマさま。街を出ていった商人さんたち、みんなね、捨てるような台詞は吐いていかなかったんだよぉ? 『この嵐が過ぎ去ったら、真っ先にまたここへ戻ってくるからな』って、みんなユウマさまの勝利を信じて、楽しみに待ってるんだからぁ」

「みんなが、僕の勝利を……?」

「うん! それにね、見て。街からいなくなったのは、他所から来た商人さんたちだけだよ」

 リリィが街の奥を指差した。

 そこでは、他所への避難を頑なに拒み、この街に残ることを選んだ住人たちの姿があった。

 土竜族の戦士たちは、星銀の鋼で鍛え直された槍や斧を手に、鋭い眼差しで海岸線の防備を確認している。妖花族の女性たちは、可燃性の油を詰めた陶器瓶を台車に載せ、壊れ物を運ぶように丁寧に、しかし決然とした足取りで高台の防壁へと運んでいた。狼男族の若者たちも、野生の鋭い嗅覚を研ぎ澄ませ、街の周囲の警戒を怠らない。

 彼らは、ユウマが与えてくれた「居場所」を、今度は自らの命を懸けて守るために、誰一人として逃げ出すことなく、ここに残っていた。

「……みんな、残ってくれたんだな」

「そうだよぉ。だって、ここはみんなの『家』だもん。ユウマさまが作ってくれた、世界で一番温かい、大切な場所だもん。だからね、寂しがる必要なんて全然ないんだよぉ! 今は目の前の襲撃に備えて、奴らを完璧に叩き潰すことだけを考えよぉ?」

 リリィはそう言うと、ふんわりとした金髪をなびかせ、ユウマの顔を覗き込んで悪戯っぽく微笑んだ。彼女の、知性と慈愛に満ちた佇まいは、幽閉の闇を潜り抜けてきた者だけが持つ、不屈の強さに満ちあふれていた。

「……相変わらず、リリィさんはユウマさまを独り占めするのが上手ですぅ」

 物見櫓の影から、音もなくルネが姿を現した。

 彼女は黒いマントを風に翻し、オッドアイの瞳を細めて二人を見つめていた。その表情はいつもの「ジト目」であったが、彼女がユウマの反対側の手をぎゅっと握りしめる力強さには、明確な意思が込められていた。

「ルネ。索敵の様子はどうだい?」

「……海の底の魔力の乱れ、いよいよ輪郭がはっきりしてきたですぅ。……数千、あるいはそれ以上の漆黒の魔力の塊が、海底の裂け目から、這い上がるようにしてこの海岸に向かって直進しているですぅ。……本隊の到来は、今夜、あるいは明日の未明ですぅ」

 ルネの報告に、ユウマの身体に心地よい緊張感が走った。いよいよ、運命の決戦の時が迫っている。

「ルネさん、正確な索敵、感謝いたします」

 階下から、規則正しい鎧の擦れる音と共に、ティオが階段を上ってきた。

 彼女の腕には、土竜族の手によって「星銀の補強板」が幾重にも打ち付けられ、神秘的な青銀色の輝きを放つ、さらに強固になった大盾が抱えられていた。お湯で磨かれた彼女の肌は、戦いを前にしてどこか引き締まり、神聖な美しさを湛えている。

「ユウマさん、海岸線の防壁、および土竜族の流砂と妖花族の魔藻の罠、すべての連動テストが完了しました。守備隊の『星銀の武器』の配備も、百パーセント完了しています。いつでも、奴らを迎え撃てます!」

「頼もしいな、ティオ。君の盾があれば、どんな津波のような攻撃だろうと耐えられると信じているよ」

「はい! この命に代えても、ユウマさんの背中は私が守り抜きます!」

 ティオの赤い瞳に、一切の迷いのない、純粋な騎士としての誓いが灯る。その凛とした美しさは、静まり返った街の中で、一際眩しく輝いていた。

「そして、わたくしの『残響』も……すでに、深海の亡者どもの血を吸いたくて、このように震えておりますわ」

 最後に現れたのは、ララだった。

 彼女はミッドナイトブルーの髪を夜風に揺らし、目元を覆う青いヴェールの奥から、遥かかなたの海原を見つめていた。彼女の纏う濃紺の戦闘装束は、大人の艶やかさと、冷徹な暗殺者としての鋭利な気配を同時に放っている。

「ララ……」

「ユウマ様。……商人たちが去り、街が静かになったのは、奴らを盛大に焼き尽くすための『舞台』が整ったということでございますわね。リリィさんが作ってくださったあの『業火の油』、そしてわたくしたちが用意した星銀の刃……。奴らは、この地上へ上がってきたことを、その魂の底から後悔することになりますわ」

 ララは一歩、ユウマへと歩み寄り、その細い指先でユウマの頬にそっと触れた。ヴェール越しに漏れる彼女の吐息は、熱く、そしてどこか妖艶な決意に満ちていた。

「わたくしの過去を、そしてこの街の未来を阻むすべての闇を……ユウマ様、あなた様と共に、完全に切り裂いてみせますわ」

 四人の、それぞれに異なる魅力と、決して折れない強さを持った少女たち。

 リリィの紡いだ知識。ルネの見通す目。ティオの不落の盾。ララの神速の刃。そして、ユウマを信じて街に残った、数多くの多種族の仲間たち。

 閑散とした街並みを見て感じた寂しさは、今や、彼らの胸の中で「絶対にこの場所を守り抜く」という、鋼よりも強固な決意へと昇華されていた。

「みんな、ありがとう。……迷いは消えた」

 ユウマは全員の顔を見渡し、力強く頷いた。

 腰に帯びた短剣の柄を握り締め、彼は遥か彼方、不気味に波打つ黒い海原へと視線を据える。

「商人たちは、僕たちが勝って、この街が今まで以上に安全で豊かな場所になるのを待っている。残ってくれたみんなは、僕たちと一緒に戦う覚悟を決めてくれている。ならば、僕たちのやることは一つだけだ」

 ユウマの声が、嵐の前の静寂に包まれた街に、低く、しかし確固たる響きを持って響き渡る。

「アビサル・レギオン、そして深淵の使徒。……地上の重力と、リリィの業火の恐ろしさを、その身に刻み込んでやる。全員、それぞれの配置へ! 今夜、僕たちの『家』を侵す不届き者を、一匹残らず海の底へ叩き落とすぞ!」

「「「「はいっ!!」」」」

 四人の少女たちの、美しくも力強い返唱が、夜の帳が下りる街へと響いていく。

 寂静の街は今、迫り来る神話の災厄を完全に噛み潰すための、巨大な「鉄のあぎと」へと変貌を遂げ、運命の決戦の瞬間を、静かに、しかし牙を剥いて待ち構えるのであった。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

作者のモチベーションアップに繋がりますm(_ _)m

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