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無能扱いされた少女たちの才能が見える俺、適材適所で最強国家を築く  作者: 浅入燈馬


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第三十二話:激浪の落とし子、あるいは深海からの贈り物

 昨日の穏やかな小春日和が嘘のように、里の夜明けは荒れ狂う雨音と共に訪れた。

 天を覆う厚い雲は墨を流したように重く、叩きつけるような豪雨が、再建されたばかりの屋根を激しく叩いている。風は唸りを上げ、森の木々を狂ったように揺さぶっていた。

 ユウマは、窓を叩く雨粒の音で目を覚ました。

 急激な気圧の変化に、少し重い頭を振りながら起き上がる。外はまだ薄暗く、豪雨のせいで視界は数メートル先すらおぼつかない。

「……ひどい雨だな。これじゃあ、今日の開拓作業は中止だ」

 ユウマが独り言をこぼしながら居間へ向かうと、そこには既にリリィ、ルネ、ティオの三人が集まっていた。彼女たちもまた、この異常な天候に不安を感じているようだった。

「ユウマさま、おはよう。……すごい雨だねぇ、せっかく直した畑の土が流されちゃわないか心配だよぉ」

 リリィが、少し不安げに窓の外を見つめている。彼女の豊かな胸元は、寝起きの少し乱れた部屋着からも隠しきれず、雨の冷たさを撥ね退けるような生命力を放っていた。

「……水が、怒ってる匂いですぅ。……でも、海の方から、何か違う匂いも混ざってるですぅ」

 ルネが鼻をひくつかせ、羽根を少し震わせた。吸血鬼の血を引く彼女の鋭い感性は、嵐の中に混じる「異質な気配」を感じ取っているようだった。

「ユウマさん、おはようございます。里の入り口と川の様子、見てきましょうか? 私の盾なら、この風雨でも飛ばされることはありませんから」

 ティオが既に身支度を整え、重厚な盾を傍らに置いていた。彼女の凛とした赤い瞳は、どんな悪天候でも揺らぐことはない。

「いや、まずは村全体の安全確認だ。フェリスさんに伝えて、川沿いの住民を一時避難させよう。無理な外出は控えるように。……ただ、ルネの言った『海の匂い』が気になるな」

 この里は山に囲まれているが、崖を越えた先には荒々しい海岸線が続いている。これほどの暴風雨となれば、海から何かが打ち上げられても不思議ではない。

 数時間後。

 雨脚は一向に弱まる気配を見せず、むしろ風はさらに勢いを増していた。

 ユウマは、ルネとティオを連れて里の外縁部を見回っていた。リリィは避難所の設営と食糧の差配を任せている。

「……やっぱり、匂いが強くなってるですぅ。……鉄と、塩と……かすかな、命の匂いですぅ」

 ルネが雨に濡れるのも構わず、西の海岸へ続く断崖の方を指差した。

「命の匂い……? 誰かが遭難しているのかもしれないな。ティオ、行けるか?」

「もちろんです! 私が風除けになります。私の後ろに!」

 ティオが大盾を斜め前に構え、ユウマを暴風から庇うようにして進む。彼女の肩や背中は、雨に濡れてワンピースが肌に張り付き、その逞しくも美しい曲線が浮き彫りになっていたが、今の彼女にそれを気にする余裕はなかった。

 断崖の小道を抜け、波飛沫が霧のように舞う海岸線へと辿り着いたとき、一行は異様な光景を目にした。

 そこには、嵐によって破壊された巨大な船の一部と思われる瓦礫が散乱し、荒れ狂う波が何度もそれらを打ち付けていた。

「ひどい……。あんなに大きな木材が、紙屑みたいに砕けてる……」

 ティオが絶句する。

 その時、ルネが叫んだ。

「……あそこ! 岩陰に、誰か倒れてるですぅ!」

 ルネが指し示した先、波にさらわれそうな入り江の隅に、青い残骸に混じって「人影」が横たわっていた。

 ユウマたちは急いで駆け寄った。

 そこにいたのは、今まで見たこともないほど幻想的で、かつ戦慄を覚えるほど美しい女性だった。

 ミッドナイトブルーの長い髪が、波に揉まれて砂を噛みながらも、真珠のような白い肌を這っている。

 彼女の瞳は青い絹のヴェールで覆われており、その表情を読み取ることはできない。しかし、纏っているのは濃紺の和柄の布地――スリットの深い、驚くほど大胆で妖艶な装束だった。

 雨に濡れ、肌に密着したその衣類は、彼女の驚異的なプロポーションをあられもなく晒していた。豊満すぎるほどの胸元、くびれた腰、そしてすらりと伸びたしなやかな足。それは、過酷な深海を生き抜くための究極の機能美と、抗いがたい色気が同居しているかのようだった。

「……息はあります。でも、酷い衰弱です」

 ユウマが駆け寄り、彼女の脈を確認する。

 驚くべきことに、彼女は意識を失ってなお、左右の手で二振りの刀を、指が白くなるほど強く握りしめていた。

 その刀身は鞘に収まっていてもなお、波の残響のような澄んだ音を微かに響かせている。

「なんて綺麗な刀……。でも、この人、目が見えないのでしょうか? なぜヴェールを……」

 ティオが心配そうに覗き込む。

「分からない。だが、このままじゃ波にさらわれる。里へ運ぶぞ。ティオ、背負えるか?」

「はい! 任せてください。……そぉぉれっ」

 ティオは盾を背負い直し、その女性を軽々と背負い上げた。

 女性の豊かな重みがティオの背中に加わる。ユウマはその横顔を見て、直感的に悟った。

 彼女はただの漂流者ではない。その身から放たれる、静謐だが鋭利な気配――。

「……ルネ、周囲に追っ手や魔物はいないか?」

「……今は、雨の匂いだけですぅ。でも……この人から、とっても強い『刃』の気配がするですぅ。……怖いくらい、静かな刃ですぅ」

 ルネの言葉を裏付けるように、気を失っている女性の指が、ピクリと動いた。

 刀の柄を握るその指先は、決して武器を手放すまいとする執念に満ちている。

「……急ごう。里で彼女を休ませる。正体が何であれ、この嵐の中に放り出しておくわけにはいかない」

 ユウマは、雨に煙る里の方角を見据えた。

 狼男族を退け、多種族を受け入れ、ようやく安定し始めた里に、嵐と共に舞い降りた「青い刃」。

 彼女が運んできたのは、平穏な日々を切り裂く新たな争いの種か、それとも里をさらなる高みへと導く最強の矛か。

 激しい雨に打たれながら、一行は謎の女性を抱え、急ぎ足で里への帰路を急いだ。

 雷鳴が轟き、一瞬の閃光が、背負われた女性の腰に差された二振りの刀を青白く照らし出した。その名はまだ、誰も知らない。

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