第三十一話:木漏れ日の休息、それぞれの「守りたい」時間
里を揺るがした狼男族との決戦、そして多種族合流による慌ただしい再建の日々。それらがひと段落し、里に穏やかな季節の移ろいを感じさせる小春日和が訪れた。
新村長としての公務を早めに切り上げたユウマは、今日を「休養日」と定めた。リリィ、ルネ、ティオの三人も、この日は武器を置き、一人の少女として穏やかな時間を過ごすことになった。
里の裏手に広がる、日の光をたっぷり浴びた草原。
大きな樫の木の木陰に敷かれた布の上で、四人はのんびりと腰を下ろしていた。
「あはは、見て見てぇ、ユウマさまぁ! お花冠、上手にできたよぉ!」
リリィが、妖花族に教わったという技術で編み上げた白い花の冠をユウマの頭に乗せた。
彼女が動くたびに、軽やかな旅装束の胸元が**ゆさっ**と豊かに揺れる。リリィはその抜群のプロポーションを隠すことなく、太陽のような笑顔をユウマに向けていた。
「似合うよ、リリィ。ありがとう」
「えへへ、でしょぉ? じゃあ次はティオちゃんの番だねぇ!」
リリィの手が、隣で少し緊張したように座っていたティオへと伸びる。
ティオは今日、自慢の大盾を家に置いてきていた。代わりに身に纏っているのは、妖狐族の女性たちが彼女のために新調した、柔らかな手触りの白いワンピースだ。
「わ、私に、ですか……? その、似合わないんじゃ……」
「そんなことないよぉ、ティオちゃんはとっても可愛いんだからぁ!」
リリィがティオの頭に花冠を乗せると、ティオの頬がポッと赤く染まった。
戦場では一歩も引かない鉄壁の守護者である彼女だが、こうして花に囲まれると、年相応の瑞々しい少女の魅力が溢れ出す。ワンピースの胸元は、彼女の鍛え上げられたしなやかな肢体に伴い、リリィに負けず劣らず豊かに、そして誇らしく膨らんでいた。
「……ユウマさん。……変、じゃないでしょうか」
上目遣いで尋ねるティオの赤い瞳は、潤んでいて、守ってあげたくなるような愛らしさに満ちている。
「いや、すごく綺麗だ。いつもの鎧姿も格好いいけど、今のティオも素敵だよ」
「……っ。ありがとうございます……っ」
ティオは嬉しそうに俯き、ワンピースの裾をギュッと握りしめた。彼女の純粋な反応に、ユウマの心も自然と解きほぐされていく。
そんな二人を少し離れた場所から眺めていたのは、ルネだった。
彼女は木漏れ日が差し込む草の上に寝転がり、尻尾をパタパタと動かしながら、妖狐族から分けてもらったという「おやつ」を口に運んでいた。
「……平和な匂いですぅ。……ユウマさま、こっちの草の上、すごくふかふかですぅ」
ルネが手招きをする。彼女は普段、吸血鬼としての本能を抑えるためにどこか影のある雰囲気を纏っているが、今日のような日はその影すらも心地よい清涼感に変わっていた。
寝そべる彼女の胸元もまた、小柄な体に似合わぬ豊かなボリュームを持っており、呼吸に合わせてゆっくりと上下している。
ユウマがルネの隣に腰を下ろすと、彼女は当たり前のようにユウマの膝の上に頭を乗せた。
「……ルネ、今日は随分と甘えん坊だね」
「……休養日、ですからぁ。……私の目は、悪いものを見つけるためのものじゃなくて、今はユウマさまの顔を見るためのものですぅ」
オッドアイを細め、満足げに喉を鳴らすルネ。彼女の背中の羽根が、まるで布団のように柔らかくユウマの足を包み込む。
吸血鬼、猫娘、吸血鬼の混血……種族も生まれもバラバラな彼女たちが、こうして一つの場所に集まり、穏やかに笑い合っている。それは、ユウマがこの世界で成し遂げた、何よりも誇らしい功績だった。
やがて、リリィが用意してきた大きなバスケットを取り出した。
「さぁさぁ、お昼ご飯の時間だよぉ! 今日は妖狐族の料理人さんに手伝ってもらって、リリィが特製のお弁当を作ってきたんだからぁ!」
バスケットから現れたのは、香ばしく焼かれたパン、ハーブを効かせた鶏のロースト、そして妖花族が育てた採れたての瑞々しい果物たち。
「わあ、美味しそう……!」
ティオが目を輝かせる。
「……いい匂い、ですぅ。……リリィさん、すごいですぅ」
ルネも起き上がり、期待に満ちた表情で料理を見つめた。
四人で囲む屋外の食卓。
ユウマが肉を切り分け、リリィが飲み物を注ぎ、ティオがパンを配る。ルネはそれらを幸せそうに頬張る。
特別なご馳走ではないけれど、信頼し合う仲間と共に食べる食事は、どんな宮廷料理よりも贅沢な味がした。
「ユウマさまぁ、あーんしてぇ?」
リリィが悪戯っぽく笑いながら、果物を差し出してくる。
「こら、リリィ。自分で食べられるよ」
「いいじゃなーい、今日は村長さんをお世話しなきゃぁ!」
そんなリリィの振る舞いに、ティオが少しだけ頬を膨らませた。
「リ、リリィさんばっかりずるいです。……ユウマさん、こっちのパンも、焼きたてで美味しいですよ」
二人の少女の間に挟まれ、ユウマは苦笑いしながらも、その騒がしさが心地よかった。
ルネはそんな光景を眺めながら、静かに果実水を啜り、ふっと微笑む。
「……ふふっ。……にぎやかで、いいですぅ」
食後、心地よい満腹感に包まれた四人は、しばらくそのまま草原で横になった。
空はどこまでも高く、白い雲がゆっくりと流れていく。
ユウマは、隣で眠そうに目を擦っているティオに声をかけた。
「ティオ。里の生活、慣れてきたかい?」
「はい。……最初は、いつかまた追い出されるんじゃないかって、怖かった時もありました。でも今は、朝起きるのが楽しみなんです。あ、今日はあそこの壁を直すんだ、あの子に挨拶しよう、って。……そう思わせてくれたのは、ユウマさんです」
ティオはユウマの手を、そっと握った。彼女の手は、盾を支えるために少し硬くなっているけれど、温かかった。
「……私も、ですぅ。……闇の中じゃなくて、光の下でこうしていられるのは、ユウマさまが私を見つけてくれたからですぅ」
ルネも反対側から、ユウマの服を掴む。
「リリィもだよぉ! ユウマさまと出会ってから、世界がもっともっとカラフルになったんだからぁ!」
三人の少女たちの、心からの言葉。
彼女たちの豊かな体つきは、命の輝きそのものであり、過酷な世界を生き抜いてきた強さの象徴でもあった。ユウマはその重みを、そして彼女たちが預けてくれた信頼を、改めて強く感じ取っていた。
「僕の方こそ、ありがとう。君たちがいてくれたから、僕は村長なんて大役をやっていけるんだ」
風が草原を吹き抜け、草の香りを運んでくる。
不屈の盾を持つ少女。
光を導く吸血鬼の娘。
絆を紡ぐ陽気な案内人。
彼女たちと共に歩むこの日々が、ずっと続いてほしい。
ユウマは目を閉じ、穏やかな午後のまどろみの中に身を委ねた。
里を彩る平和な一日は、明日への活力を蓄えるための、かけがえのない宝物となって、四人の心に深く刻まれていった。




