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第二十五話:篝火の宴、絆を祝う夜

 狼男族の脅威が去り、平和を取り戻した猫娘族の里に、待ちに待った勝利の宴の夜が訪れた。

 広場の中央には巨大な篝火が焚かれ、パチパチとはぜる火の粉が、夜空に星のように舞い上がっている。村のあちこちには長テーブルが並べられ、里の女性たちが腕によりをかけて作った料理が所狭しと並べられた。

 香ばしく焼き上げられた川魚、山で採れた新鮮なキノコの香草焼き、そして猫娘族特製の果実酒。戦いの緊張から解き放たれた里人たちの笑い声が、夜の帳を明るく染め上げている。

「さあさあ、みんな飲んで食べてぇ! 今日はユウマさまが村長になったお祝いでもあるんだからぁ!」

 リリィが元気いっぱいの声を張り上げ、大きな樽から次々と杯に酒を注いで回っている。彼女のトレードマークである無邪気な笑顔と、動くたびに**ゆさっ**と弾む豊かな胸元は、それだけで宴に華を添えていた。

「リリィさん、飲みすぎないでくださいね。……あ、ユウマさん! こちらの席へ!」

 広場の一角、少し高くなった場所に設けられた主賓席から、ティオがユウマに向かって大きく手を振った。

 ティオはまだ全身の至る所に包帯を巻いていたが、その顔色は驚くほど良い。彼女の傍らには、職人たちの手で丁寧に応急処置を施された大盾が誇らしげに立てかけられていた。

「お疲れ様、ティオ。体の方は大丈夫か?」

 ユウマが隣に座ると、ティオは少し照れくさそうに頬を染め、ポニーテールを揺らした。

「はい。里の皆さんが、傷に効く薬草をたくさん持ってきてくださって……。それに、こうして皆さんが笑っている姿を見ていると、疲れなんてどこかへ行ってしまいました」

 ティオが視線を向ける先では、かつて彼女を避けていた村の戦士たちが、杯を片手に彼女の武勇を語り合っていた。

「おい、見たかよ、あのティオの盾! 族長のあの連撃を、顔色一つ変えずに受け止めてたんだぜ!」

「ああ、俺たちの槍が届いたのは、全部あの子が隙を作ってくれたおかげだ。……俺は今まで、あの子にあんな重い役目を一人で押し付けてたんだな……」

 戦士たちが反省と感謝を込めてティオに視線を送ると、ティオは小さく微笑み、ユウマの肩にそっと寄り添った。

「ユウマさん……私、今、とっても幸せです。自分の居場所が、こんなに温かい場所だったなんて、今まで知りませんでした」

「それは君が、自分の力で掴み取ったものだよ、ティオ。君が皆を守り抜いたから、皆も君を認め、愛するようになったんだ」

 ユウマが優しく答えると、反対側から「あぅ……」という小さな声が聞こえてきた。

 見ると、ルネが大量の山盛りの果物を抱え、もぐもぐと頬張っている。

「……ユウマさま、この実、とっても甘いですぅ……。血の匂いより、こっちの方がずっといいですぅ……」

 ルネは極度の血の匂いへの苦手意識を克服し、健気に索敵を続けたご褒美として、里の子供たちからたくさんの果物を贈られていた。彼女の背中の羽根は、リラックスしているせいかマントのようにしなやかに折り畳まれ、満足げにパタパタと揺れている。

「よかったな、ルネ。君の索敵がなければ、何度も危ない場面があった。君も立派な立役者だよ」

「……ふふん。……当然ですぅ。私は、ユウマさまの役に立ちたいですからぁ……」

 ルネは少し得意げに胸を張り、隣にいたリリィから「よく言ったねぇ!」と頭を撫でられ、顔を真っ赤にしていた。

 宴が最高潮に達した頃、前村長のフェリスが杯を手に立ち上がった。

「里の者たちよ! 今日から我らの里は生まれ変わる。知恵と勇気、そして異なる種族が手を取り合い、狼男族をも退けた。……そして、この里の新たな導き手、ユウマ村長に乾杯を!」

「「乾杯!!」」

 地響きのような歓声が上がり、何百もの杯が打ち鳴らされる。

 ユウマは慣れない「村長」という立場に少し気恥ずかしさを感じながらも、立ち上がり、里の全員を見渡した。

「皆、ありがとう。僕は戦う力はないけれど、皆が安心して眠れる里にするために、全力を尽くすつもりだ。ティオ、リリィ、ルネ……そしてフェリスさん。これからも力を貸してほしい」

 ユウマの言葉に、隣にいた三人が力強く頷く。

 宴は夜更けまで続いた。

 焚き火の周りでは猫娘族の伝統的な踊りが披露され、リリィもそれに混じって楽しげにステップを踏んでいる。ルネはいつの間にか子供たちに囲まれ、羽根の触り心地を絶賛されて照れ笑いを浮かべていた。

 そして、ティオは静かにユウマの横顔を見つめていた。

 彼女の手にあったのは、もう「孤独な盾」ではない。

 守るべき仲間、愛してくれる同族、そして自分を信じてくれる一人の男。

「……ユウマさん」

「ん?」

 ティオは焚き火の光をその赤い瞳に映しながら、囁くような声で言った。

「私、ずっと守り続けます。ユウマさんが作ってくれた、この温かな場所を。何が来ても、誰が襲ってきても、私の盾は一歩も引きません。……ずっと、ずっと、お傍にいさせてくださいね」

 その誓いは、戦場の咆哮よりも静かに、しかし深くユウマの心に刻まれた。

 ユウマは彼女の手に自分の手を重ね、夜空に浮かぶ満月を見上げた。

「ああ、約束だ。一緒に行こう、ティオ」

 篝火はいつまでも赤々と燃え続け、新しく生まれた「家族」と「拠点」を温かく包み込んでいた。

 猫娘族の里、ユウマ村長の治世。その第一歩は、これ以上ないほど幸福な夜から始まったのである。

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