表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/33

第二十六話:再建の青写真、歩み出す新たな村長

 勝利の宴から一夜明け、猫娘族の里には再び活気が戻っていた。しかし、それは戦いへの緊張感ではなく、自分たちの手で未来を作り直そうとする、前向きな「再建」の熱気だった。

 ユウマが拠点として宛がわれた家屋の一室。そこにはリリィ、ルネ、ティオ、そして前村長のフェリスが集まっていた。新村長としての初仕事は、現在の里が抱える課題を正確に把握することから始まる。

 リリィは、この数日間で調べ上げた村の現状をまとめた羊皮紙をテーブルに広げた。

「ユウマさまぁ、お仕事の時間だよぉ! リリィが村中を駆け回って調べてきた里の状態、報告しちゃうねぇ」

 リリィはいつもの明るさを保ちつつも、その表情には実務家としての真剣さが宿っていた。まず彼女が指摘したのは、冬に向けた食糧の蓄えだった。狼男族の小競り合いが続いていたせいで、森の奥での狩りや採集が滞っており、冬を越すには今の備蓄では全く足りないという。

 さらに深刻なのは、防衛戦でボロボロになった家屋や防壁の資材不足だった。修繕に使うための良質な木材のストックも空っぽに近い。戦士たちを村の防衛に割かざるを得なかったツケが、今になって里の至る所に現れていた。

「食糧、資材……課題は山積みだな。でも、まずは足元から固めていこう」

 ユウマは腕を組み、リリィの報告を反芻した。狼男族を退けたのは大きな一歩だが、それだけで腹が膨れるわけではない。

「……ユウマさま、私、お手伝いするですぅ」

 ルネが控えめに手を挙げた。

「森の奥、どこに良い獲物がいるか、どこの木が切り出しやすいか……私の目なら、影の中まで全部見つけられるですぅ。鼻が利かない人間さんや猫さんより、ずっと正確に探せるですぅ!」

「助かるよ、ルネ。君のその『目』が、これからの再建の要になる。ティオはどうだい? 体の具合は」

 ティオは背筋を伸ばし、力強く頷いた。

「はい、ユウマさん! 傷はもう塞がりました。資材の運搬や、森の開拓……力のいる仕事なら、何でも私に任せてください。皆さんの盾になるだけじゃなく、これからは皆さんの土台になりたいんです」

「頼もしいな。……よし、まずは僕が自分の目で村の中を見て回る。リリィ、案内を頼めるかい?」

「お任せなのぉ! 村の隅々まで、リリィがバッチリ案内してあげるからぁ!」

 ユウマはリリィを伴い、村内へと歩み出した。

 まず向かったのは、昨夜の決戦の舞台となった村の入り口だ。そこには、ティオが防ぎ、族長が暴れた爪痕が深く刻まれていた。防壁の一部は無惨に砕け、火矢によって焦げた匂いがまだ微かに漂っている。

「村長! お疲れ様です!」

 作業をしていた猫娘族の青年たちが、ユウマに気づくと一斉に手を休めて敬礼した。

「休憩中にすまない。この壁を直すのに、何人くらい必要になりそうだ?」

「そうですね……木材さえあれば、十人いれば三日で形にはなります。でも、族長の力で基礎の石組みがズレちまってる。そこを直さないと、次は持ちません」

 ユウマは膝をつき、石組みの隙間に指を入れた。地盤から補強が必要なようだ。リリィも横で熱心にメモを取っている。

 次に向かったのは、村の生活を支える共同炊事場と井戸だった。そこでは女性たちが集まって作業をしていたが、並んでいる食材は質素なものだった。保存の効く干し肉も少なく、野菜の籠も底が見え始めている。

「村長さん、いらっしゃい。これ、食べてみて」

 一人の老女が、蒸かしたばかりの芋を差し出してきた。

「ありがとうございます。……うん、味はいいですが、少し小ぶりですね」

「ええ。土を休ませる時間がなかったの。狼男たちが怖くて、同じ場所で無理やり作り続けてきたから、大地が疲れちゃってるんだよ」

 ユウマは芋を噛み締めながら、周囲の畑を見渡した。連作障害だろう。農業の効率化や土壌の改良も、この冬を越すための重要な内政課題になりそうだ。

 最後にユウマは、村の裏手にあるティオの家……かつての忌み子として避けられていた、村外れの小さな小屋を訪れた。そこでは、ティオが一人で大きな切り株を斧で割っていた。

「そりゃっ!……はぁっ!」

 薪割りと呼ぶにはあまりに豪快な一撃。ティオの怪力によって、硬い樫の木が綺麗に真っ二つに割れていく。

「ティオ、そんなに根を詰めなくていい。まだ休みが必要な体だろう?」

「あ、ユウマさん! リリィさんも。巡回、お疲れ様です。……いえ、じっとしていられなくて。それに、この薪は村の鍛冶場の火を絶やさないために、私ができる数少ないことですから」

 ティオは額の汗を拭い、照れたように笑った。

「私、今までこの村の役に立とうなんて、思ったこともありませんでした。でも……昨日の宴で、皆にありがとうって言われて……。私が薪を一つ割るだけで、誰かの家が温かくなるんだって気づいたら、もう、楽しくて」

 ユウマはその横顔を見て、改めて感じた。彼女はもう、孤独な盾ではない。この村の一部として、新しい血を巡らせる存在になっている。

「ティオ、これから忙しくなるぞ。まずは内政に力を入れたい。冬を越すための食糧確保と、家屋の修繕。君には、その先頭に立ってもらいたいんだ」

「はい、村長! 力のいることは、全部私に任せてください!」

 日が沈み、ユウマは再び自分の家へと戻った。テーブルの上には、昼間の巡回で得た情報がびっしりと書き込まれたメモが広がっている。

「お帰りなさぁい、ユウマさまぁ! お茶淹れたよぉ」

 リリィが差し出すハーブティーの香りが、疲れを解きほぐしていく。

「……リリィ、今日案内してくれて助かったよ。予想以上にガタが来ている。でも、村人たちの目は死んでいない。みんな、これから良くなるって信じてる」

 ユウマはメモを整理し、優先順位をつけていった。まずは外交よりも、里の中を整えることが先決だ。狼男族との不可侵条約が守られている間に、自給自足の体制を立て直さなければならない。

「ルネ、明日は夜明けと共に森の北側を確認してほしい。そこにある資源を正確に把握したいんだ。ティオ、君は修繕のための人手をまとめておいてくれ」

 ユウマの指示に、少女たちが力強い返声を重ねた。猫娘族の里、再建の歯車が、静かに、しかし力強く回り始めた。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

作者のモチベーションアップに繋がりますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ