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第二十四話:夜明けの凱旋、そして新たなる礎

 狼男族が去った後の里には、重い静寂の後に、弾けるような歓喜の渦が巻き起こった。

 たいまつの火が幾重にも重なり、勝利を祝う猫娘族の戦士たちが互いの肩を叩き合い、奇跡のような無傷の勝利に涙している。しかし、その喧騒の中心から少し離れた場所で、ティオはまだ、その場に立ち尽くしていた。

 彼女の足元には、数え切れないほどの打撃を受け、表面が削れ、ひしゃげた大盾が転がっている。

 全身の筋肉が激しく痙攣し、神経が焼き切れるような熱を持っている。それでもティオは、ユウマに向けたガッツポーズを崩そうとはしなかった。

「……あ。……あはは」

 満面の笑みを浮かべたまま、ティオの膝がカクンと折れた。

 それよりも早く、ユウマが駆け寄り、彼女の小さな肩を支えた。

「ティオ! 無理をするな。もう終わったんだ、休んでいい」

「ユウマ、さん……。私、ちゃんと……盾に、なれましたか……?」

 彼女の瞳は、極限の疲労で焦点が定まっていない。しかし、その瞳に宿る光は、かつての孤独な色ではなく、大切なものを守り抜いた確かな自負に満ちていた。

「ああ、君は最高の盾だった。君がいてくれたから、誰も傷つかずに済んだんだ。……本当によく頑張ったな」

 ユウマが優しく語りかけると、ティオは「よかった……」と力なく呟き、そのままユウマの胸に顔を埋めるようにして深い眠りへと落ちた。意識を失ってなお、彼女の手はユウマの服をぎゅっと掴んで離さなかった。

 翌朝。

 里を包む空気は、昨日までの重苦しさが嘘のように清々しいものへと変わっていた。

 村の中央広場には、里の全住民が集まっていた。中央には、頑丈な檻に入れられた狼男族の族長が座している。

 村長のフェリスが進み出、集まった者たちに真剣な面持ちで語りかけた。

「皆、聞くがいい。我らは昨日、不可能とも思えた勝利を手にした。それは、ここにおられるユウマ殿、リリィ殿、ルネ殿の知恵、そして……何より、ティオのおかげだ。彼女がその身を呈して守ってくれなければ、今頃この里は消滅していただろう。ティオ、今までお前を避け、辛い思いをさせてきたことを許してくれ。……本当に、ありがとう」

 フェリスが深く頭を下げると、それに続くように村の戦士たち、そして女性や子供たちまでもが、一斉にティオに向かって頭を下げた。

「……っ、そんな……。私、私は……」

 ティオは戸惑い、助けを求めるようにユウマを見た。ユウマは微笑み、静かに頷く。

 かつて彼女を避けていた子供たちが、恐る恐る近寄ってきて、彼女の服の裾を掴んだ。

「お姉ちゃん、格好よかった!」

「守ってくれてありがとう!」

 純粋な感謝の声。それはティオがずっと、夢にまで見た光景だった。彼女の目から、大粒の涙が溢れ出し、頬を伝った。彼女はしゃがみ込み、子供たちの小さな手を握り返した。

 その後、ユウマは檻の前に立ち、族長と対峙していた。

「……人間よ。俺をどうするつもりだ」

「条件がある。不可侵条約の締結だ。この里を中心としたエリアに、狼男族は今後立ち入らないこと。そして、お前たちの縄張りを一部、緩衝地帯として提供してもらう」

 族長は沈黙し、子供たちと笑い合うティオを遠目に見やった。

「……いいだろう。あの小さき少女に、我が牙は完敗した。あのような怪物を擁する里に、二度と手出しはせん。その条件、呑もう」

 戦後処理が落ち着いた頃、フェリスがユウマを呼び出した。彼女の表情は、一人の里長としての決断に満ちていた。

「ユウマ殿。単刀直入に申し上げます。……この里の主として、我々を導いてはいただけないでしょうか」

「えっ……僕が、村長に?」

 驚くユウマに、フェリスは真摯な口調で続けた。

「昨日の戦いで、我々は痛感しました。個の力だけでは里は守れない。あなたの知恵、そして異なる種族を繋ぎ合わせる力が、今の我らには必要なのです。フェリスとしての私は、あなたの補佐に回ります。どうか、この里をあなたの拠点として……我々のリーダーになってください」

 背後で、リリィ、ルネ、そしてティオが期待に満ちた目でユウマを見つめている。

 ユウマはしばし考え込み、やがて静かに息を吐いた。

「……分かりました。僕にできることなら、力を貸しましょう。ここを僕たちの、そして皆の『家』にするために」

 その瞬間、里中に地鳴りのような歓声が響き渡った。

「やったぁぁ! ユウマさまが村長さんだぁ! ティオちゃん、リリィたちもずっと一緒だよぉ!」

「……ユウマさま。……私、どこまでも……ついていくですぅ」

 ティオが、包帯の巻かれた手を胸に当て、一歩前に出た。

「ユウマさん。改めて……あなたの仲間として、あなたの守るべきものを、私がすべて守ります。改めて……よろしくお願いします!」

 ユウマは、力強く頷くティオの手を握り返した。

 

 かつて孤独だった盾の少女。行き場を求めていた吸血鬼の娘。知識の探究者である精霊の末裔。そして、異世界から来た一人の男。

 バラバラだった彼らは、今、猫娘族の里という新たな拠点を手に入れ、一つの大きな家族となった。

「よし、村長としての初仕事だ。まずは……壊れた家屋の修理と、勝利の宴の準備を始めよう!」

 ユウマの号令に、活気に満ちた返声が重なる。

 夕焼けに染まる里は、壊滅の危機を乗り越え、かつてない強固な絆を宿して、新しい明日への一歩を踏み出した。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

作者のモチベーションアップに繋がりますm(_ _)m

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