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第二十三話:凱歌、そして黄金の賞賛

 月が天頂を過ぎ、戦場を照らす光が青白く冴えわたる頃。

 狂乱の夜に、ついに終止符が打たれようとしていた。

 **ドォォォォォォォンッ!!**

 族長が放った最後の一撃。それは、残された全体力を拳に込めた、文字通りの肉弾。だが、ティオはその暴威を真正面から大盾で迎え撃った。衝撃で、ティオのブーツが土を深く抉り、後ろへ数センチ滑る。しかし、それだけだ。

 ティオは血の味がするほど唇を噛み締め、全身の筋肉を軋ませて、その巨躯を押し戻した。

「……っ、ふ、ぅぅぅぅぅっ!!」

 ティオが盾を一気に突き出す「シールド・バッシュ」の動作。体勢の崩れていた族長は、自分の放った衝撃の余波をまともに喰らい、大きくよろめいた。

 そこへ、ティオの背後から蛇のように伸びる槍の数々。

「が……はっ、あぁっ!!」

 足、脇腹、腕。致命傷を避けた精密な刺突が、族長の動きを完全に封じ込めた。

 何度も盾を打ち付け、卑怯な策を弄してなお揺るがなかった「少女の壁」を前に、ついに族長の膝が折れた。

 **ドスンッ!!**

 大地を揺らす重い音が響き、漆黒の巨躯が土の上に倒れ伏す。

 それと同時に、広場を満たしていた殺気が嘘のように霧散した。

「今だ! 族長を捕縛しろ! 網と鎖を持ってこい!」

 ユウマの鋭い指示が飛ぶ。呆然としていた猫娘族の戦士たちが、我に返って一斉に族長へと飛びかかった。屈強な戦士数人がかりで、特製の丈夫な蔦の網と鉄鎖を使い、動けなくなった族長をぐるぐる巻きに拘束していく。

 その光景を、生き残っていた狼男族の兵士たちは、信じられないものを見るような目で見つめていた。

「……族長が、……負けた……?」

「あの小さな娘……たった一人に……っ」

 最強の象徴が地に堕ちた。その事実は、狼男族の士気を完全に粉砕した。

 一人、また一人と、彼らは森の闇の中へと逃げ込み始める。統制は消え失せ、かつての勇猛さは見る影もない。

「待て! 狼男族よ、聞け!!」

 ユウマが広場の中央へと進み出、喉が裂けんばかりの声を張り上げた。

「お前たちの族長は、我々が預かった! この里を蹂躙しようとした報いだ。……いいか、命が惜しくば今すぐ森の深淵へ戻れ! そして二度と、この猫娘族の里へ干渉するな! 次に境界を越えた時は、今日以上の地獄を見せることになると覚えておけ!!」

 ユウマの威圧に、逃げ遅れていた狼男たちは悲鳴にも似た唸りを上げて、蜘蛛の子を散らすように散り散りに敗走していった。

 静寂が、ゆっくりと里に戻ってくる。

 勝利した。

 猫娘族が、歴史上初めて、狼男族の総力を挙げた襲撃を完全に退けたのだ。

 拘束され、地面に転がされた族長は、荒い息をつきながら、唯一残された黄金色の瞳を動かした。その視線の先には、自分を阻み続けた小さな少女、ティオがいた。

「……く、……くかか……っ」

 族長は、自嘲気味に笑った。

「……よもや、このような場所に、これほどの『怪物』が潜んでいようとはな。……我が爪を、小細工なしにすべて受けきったのは、貴様が初めてだ……」

 ティオは返り血を浴びた顔のまま、無言で族長を見下ろしていた。

 族長は苦痛に顔を歪めながらも、最後にその瞳に確かな敬意を宿した。

「……見事だ。……盾の娘よ。貴様こそ、この地で最も強き、不屈の戦士よ……。この敗北……認めざるを得んな」

 族長の言葉は、屈辱ではなく、自分を凌駕した強者への最大級の賞賛だった。

 ティオは、族長が完全に無力化され、他の敵もいなくなったことを確認するために、周囲の闇を油断なく見渡した。

 彼女は依然として、仁王立ちの姿勢を崩さない。巨大な盾を支えに、乱れた息を整えながら、凛とした佇まいで戦場を監視し続ける。

「……もう、大丈夫……ですぅ……。みんな、いなくなった、ですぅ……」

 ルネが木の枝から降り立ち、ふらふらになりながらもユウマのそばへ駆け寄った。

 リリィもまた、村人たちと共に歓声を上げながら、広場へと駆け寄ってくる。

「やったぁぁ! ティオちゃん、ユウマさま! 私たちの勝ちだよぉ!!」

 その声を聞いて、ようやくティオの肩から力が抜けた。

 彼女は、盾をゆっくりと地面に置き、正面で自分を見守っていたユウマと目が合った。

 ユウマが、優しく、そして誇らしげに頷く。

「やったな、ティオ。君のおかげだ」

 その言葉を聞いた瞬間、戦場の「壁」だったティオの表情が、一気に年相応の少女のそれへと戻った。

 彼女は頬を上気させ、今までの疲れを吹き飛ばすような満面の笑みを浮かべると、両手を握りしめて、ユウマに向かって力いっぱいガッツポーズをした。

「……はいっ!! ユウマさん! 守り……守り抜きましたっ!!」

 月光に照らされた彼女の笑顔は、どんな勝利の凱歌よりも明るく、誇らしげに輝いていた。

 疎まれていた赤い瞳には、今、里の全員からの感謝と、自分自身の確固たる誇りが宿っていた。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

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